あたしとの距離を、どう思っているの、なんて。 聞かない。 独りの家に帰るのが嫌で、仕事を終えて、駅前をぶらつく。 あなたが、あたしのことを遠くに感じていても、 あなたの残り香ばかりの、あの家で、 あたしは、息苦しくて仕方ないから。 それでも、どこかへ行けるはずもなく、 二匹のイタチがあたしの帰りを待っているから、 とぼとぼと、寒空を歩く。 そんな毎日。 お昼はちゃんと食べてます。 夜はときどき忘れます。 なるべく早く寝ています。 きちんと仕事に行ってます。 誰にも報告しないけど、真っ当に生きることで、 あたしは、あたしを許している。 逃げること、狡いこと、弱いこと。 そんなあたしを許している。 離婚届けを出しました、とメールが届いた。 あたしは返信をしない。 それがあなたにとっての一歩でも、 あたしの現状は何も変わらない。 今夜もお風呂に入って早く寝よう。 一日一日が平穏に過ぎますように。 明日は少しでも暖かい日でありますように。 それだけを、願うの。
誰かを。 あのひとを。 あなたを。 あたしを。 きらいになれたら、どんなに楽だろう。 あたしは弱いから。 嫌いになるのが怖い。 嫌われるのが怖いから、嫌いにはなれない。 あたしのなかで、 「好きなひと」と「どうでもいいひと」しかなくて、 好きを嫌いに変えることは、とても、とても難しい。 別れ話でもめてます。何度目か、もう数えていないけれど。 冬の寒い頃。 梅雨の頭が痛い頃。 あたしはいつも、逃げ出す算段を考える。 うまく逃げる術を画策する。 そして、失敗するのです。 今回は。 まだ結果が出ていなくて、いつもよりも、がんばってて。 あなたがいなくても平気なのに。 顔を見ると、どうしようもなくなる。 あなたがいなくても元気なのに。 寒さに凍えると、いつも思い出してしまう。 あなたは、あたしにとって、なんなのですか。 もう、これを、恋と呼んではいけないと思うのに。 緩やかに、消えるように、 死ねたら、どんなに楽か。 嫌いになれず。 憎めもせず。 ただ、流されていくだけのあたしなら。 なにもかも、投げ出したいのに、 日常はそれを許してくれない。 明日も目が覚めたら、仕事に行かなきゃ。 忙しく、慌ただしく、笑って、笑って生きて行かなきゃ。 だってあたしは、独りなんだから。
相容れない感情が、ゆらゆらと、胸の奥で濁っていく。 言葉に出来ないたくさんのことが、あたしを追い立てていく。 ねぇ、離婚届けはどうなったの? あたしはいつまで独りでいるの? 二人で暮らせるのが幸せだと思うの? 幸せに、なれるの? こんなにも相性の悪い、あたしと華は。 いつもいつも、喧嘩をする。 ささいなことで、いがみ合う。 もう、好きなのか、嫌いなのか。 愛してるのか、離れたいのかも、分からない。 途方に暮れて、寒い夜に、一人で考える。 あたし、これからどこへ行こう。 愛、とはなんですか。 恋、はどこへいったのですか。 あたし、はどうしてこんなに醜いんですか。 我慢が出来ない、胸を掻き毟りたくて、堪える。 あたし、何がしたいの。 どうしたら自由になれるの。 どうしたら、寂しくなくなるの。 逃げようと、思い始めた、寒さの募るこの頃。 この街は、あたしには寒すぎて耐えられない。 誰でもいいから、温めてくれたらいいのに。 もう、誰でもいいよ。 あたしを、独りに、しないでください。 叫ぶ事も、出来ないままで。 あたしの死に様ってきっと、窒息死なんだと思った。 玄関の赤い靴は、今日も悲しい程、キレイ。
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