結局、あたし、ここにいる。 逃げる場所が見つからなくて、ここに、いる。 華が許してくれるから。 それを、認めてくれるから。 でも、恋人という枠を失ったら、あたしとあなたは何なのでしょう。 友達というには近すぎる。 けれど。 恋人というものには、もう、戻れず。 でも、ね。華。 あたしは、これが一番落ち着く。 焦燥もない、嫉妬もしない。 そりゃもちろん、あなたが別のひとを好きになったら、悲しいけれど。 それはとても悲しいけれど。 あたしは、ね。 待ち続ける自分が嫌だった。 イライラして、当り散らす自分が、惨めで、嫌いだった。 どうにもならない現実を直視しなければならない。 どうにも出来ない自分が歯痒くて、自らの首を絞め続けていた。 無力なのだと、思い知るのが、怖かった。 だから今のあたし、とても落ち着いている。 夏の日差しに焼かれて、息苦しい思いもしているけれど。 あたしの心はたぶん、とても静かだ。 逃げなくてもいい。 捨てなくてもいい。 泣かなくてもいい。 華、きっと、あなたのことを利用している、あたし。 自分の安定のために、あなたを利用して、いる。 何も返せないのに、ね。 ごめんね、と繰り返してみても。 あなたには届かなくて。 ごめんね、と呟けば。 あなたは困った顔をする。 ああ、ただ思うのは。 胸が痛くなるのは。 ひとつだけ。 それほどのものが、あるのでしょうか。 どこに? おしえてよ。
こんなもの、崩してしまえたらいい。 もっと我侭に、叫んでしまえたらいい。 言いたいことも、 訴えるべきことも、 縋りつくべきことも、 あたしの口からは出てこない。 喉の奥で詰まったまま、 それは言葉として成立していない。 ささやかな、あたしのプライド。 馬鹿馬鹿しすぎて、嫌になるほど、ちっぽけな。 崩してしまえたら、もっと大声をだせるかもしれない。 こんなに頭は痛まないかもしれない。 四肢を投げ出して、沈黙をし続けないかもしれない。 力が欲しい。 自分の、弱さを、認められるだけの。 泣き出しそうになる自分が怖くて、 あなたに、何一つ、言葉を返せないまま。 崩れ落ちそうな自分が怖くて、 あなたの言葉、耳をふさいで、聞かない振りを。 でも、そんなことでは何も進まなくて。 どうすればいいの。 泣けばいいの。 子供のように。 それが難しい。 でも、他に、術が見つからない。 あたし、……何もできていない。 氷は、なかなか、溶けない。 いっそ無理やりにでも、抱かれた方が、楽、なのか。
路頭に迷う、って身に降ってくる言葉じゃないと思ってたけど、 ちょっと今のあたし、それが合う。 いざ実家に帰ろうと思っても、 足が竦んで仕方ない。 切り出せばきっと、さまざまなマイナス要素を打ち消して、 あのひとたちは迎えてくれるはず。 それなのに、竦む。 繰り返してきた逃避行。 実家が怖くて、嫌で、仕方がないのは昔のまま。 帰る場所など他にはなくて、 あの場所に帰ると決めた矢先に、こんな戸惑い。 ああ、あたしって情けない。 あの場所は、 あたしにとっての実家というものは、 帰る場所ではないのだと、思う。 さあ、あたし、どこに行こう。 ひとりぼっちになって、 頼るものなど何もなくて、 目指すものも情熱もなくて、 どこへ行こう。 路頭に迷っている。 この場所から離れるのが、 本当の意味でひとりぼっちになるのが、 怖くて怖くて仕方ない。 なんてね。 言ってみたいだけ。 あたしは、そんなに、弱くはないはず。
三年弱。 ひとりぼっちだと思い続けた日々。 おわかれ、します。 涙が出るのは、悲しいからではなく、 これから先、どうすればいいんだろうという、 そんな恐怖からであって。 春から落ち続けた体重は、既に−6キロで。 こんな状態で、仕事を続け、生活を続け、 やっていけるのだろうかという、不安。 でも、あなたと、おわかれします。 三年間を忘れたり、しません。 あなたのことも、忘れないでしょう。 ただ、もう、 この家を離れたら、会うこともないだけ。 憎むこともなく、 嘆くこともなく、 静かな恐怖だけを噛み締めて、 わたしはあなたとおわかれします。 今でも愛しているといえるけれど、 どうにもならない現実に、疲れ果ててしまったのです。
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