気持ちを言葉しなくなったのは、あたしが逃げているだけなの。 気持ちを言葉にするようになったのは、あなたが不安なだけじゃない? 華が、確かめるように、何度も、好きだと囁いてくる。 あたしの名前を呼び続ける。 あたしは、以前よりもかなり、情熱的に呼びかけなくなっている。 それでも、胸の奥にいる、一番深くてあったかいところには、いつだって華がいる。 それを、言葉にしないだけ。 「いちごが好きだよ」 「知ってる」 「すごく好きなんだよ」 「分かってる」 そんな押し問答は楽しくないと思うけれど、あたしはどうしてか、真っ直ぐに応えられなくなった。 華を抱き締める手、抱き留める腕。 そんなものには変わりはないのだけれど、どうして、と自分に問う。 全てはあなたから始まって、あなたが終わらせることができる。 そんな恋なのだと、思い知ったから。 あたしがこの場所から消えないのは、あなたがそれを止めるから。 あたしたちが続いているのは、あなたがそれを望むから。 もし、手を放されたその時には、あたしは少しだけ泣いて、 自分の足で歩き出すことを選ぶんだ。 そんなの、悲しいね。 ねぇ、華。
全削除してから半月。 とりあえず、話はまとまったというか、落ち着いた。 結局はもとの状態に戻ったのだけれど。 今でも、ふとした瞬間に思い出す。 「お前らの関係が世間に認められると思うなよ」 そう、言われた言葉。 その瞬間、何も返せなかった。 あたし、認められたいと思ってるのかな。 違う、と言いたい自分がいるのに、声が出ないの。 苦しい。 仕事中、食事中、朝起きた時、眠る前。 ふと、それらを思い出す。 苦しいんだ。 地元に帰ると言いかけたあたしを引き止めたあなた。 男に急かされるようにして、母親に電話をして、全てを暴露したあたし。 もしもの時には、迷惑が掛かるかもしれないから。 全て、話してしまった。 勘当してもいいよ、と言ったあたしに、 そんなこと出来ないと言いながらも、認められないと呟かれた。 うっかり帰省した日には、二度と戻れなくなりそうな雰囲気。 勘当されたと思って、家に帰ることは諦めた。 こうしてあたしは、一つずつ、捨てていく。 華と、あたし。 女同士の恋愛と、不倫の恋という、悪夢。 昨日行った嵐山の景色のように、潔い色をしていられたらいいのに。 上手くいかない。 ねぇ、華。 あたしたちが出会って、もう一年が経ったね。 あの夏は、本当に正しかったのかな。 ときどき、悲しくなるんだよ。 そうすれば、何も悲しくはないのだけれど。 歓びは一つもないのだと、考えてまた、悲しくなった。 あたしたちは、何処へ行けばいいんだろう。
華の家で問題が起こって、 裁判だの、慰謝料だのと、騒ぎになっているらしい。 調べてみたら、こーゆー日記も見つけられたら良くないとあるので、こっそりと全削除しました。 あたしたちはこれから、一体何処へ行けばいいんだろう。 足下が危ないままだよ。 それでもあたしは、一歩も後退るつもりはなく、 いっそ、全てを賭けたとしても、このまま進んでいくしかないと思っている。 ダメになったら、後ろに下がるより、 そのまま飛び降りてしまえばいいんだから。 あたしはあたしに未練なんてないんだ。 その日まで、少し、お休み。
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