そして生まれる

真っ白な空間のなかを
一羽のかもめがとぶ
そのつばさに打ち込まれる一発の弾丸
ドキュン

真っ白な空間のなかを
一筋の赤色が飛び散る
その鮮やかな赤色が生きている証
ピチャン

真っ白な空間が真っ白でなくなると
そのさきには混沌が待っている
いや正確な記述をするならば
はじめからそこに混沌はあったのだ


真っ白な空間には上も下もない
なかったないはずだったみえなかった
というのに鮮やかな赤はひかりをあびて
徐々に変わってゆく黒を生み出していく

ゴトン
ゴトン
ゴトゴトン

歯車が傾く音が聞こえる
わずかな狂いを生み出した弾丸が
つきやぶった空間のゆがみを埋めるため

ゴトン
ゴトン
ゴトゴトン

歯車が傾く音が聞こえる
それは消えることのできない世界の悲鳴
かもめのなきがらをふたたび白へと還し
暗闇を排除するための痛切な叫び


ピチャン
混沌に呑み込まれた空間に黒が生まれたよ
もうすぐ大地が形成される

ドキュン
新しい弾丸がまた世界を切り裂いていったよ
もうすぐ次の混沌が生まれる




終わりの旋律

弱弱しい斜陽を受けた
メタリックグレイの弱弱しい孤島に
眩暈を感じてその場に崩れ落ちる

同時刻に大量に発生した孤独の群れが
道路も線路も下水道も大気をも支配して
宇宙全体の調和を乱そうと試みている

僕は上も下もわからない錯乱状態の中
可能性の渦に飲み込まれる自分の体に
まだ腕と足がついていることを必死で確認する

つい先刻まで隣にいたはずの
つい先刻まで手にしていたはずの
ぬいぐるみはもう300m先の空
メタリックグレイ

融け始めた世界には
始まりと終わりの旋律が響きわたる

まだ
腕と足はこの世界に存在しているようだ
時間が生き物だったことを思い出した
由々しく荒々しく寒々しい
コントラバスとチェロの2重奏は続く

つい先刻まで隣にいたはずの
つい先刻まで手にしていたはずの
ぬいぐるみはもう800m先の空
かどうかもわからないメタリックグレイ

あれは大地だあれは大海原だ
あれは大空だあれは宇宙だ

臨界点に立てたなら
存在が消える瞬間
すべてを悟ることができるというのに

腕と足はまだこの世界に存在しているようだ
終わりの旋律が終わらない限り
世界も終わることはなく
終わりの旋律の終わり方がわからないから
コントラバスとチェロの2重奏は
世界に光を灯せないでいる




ひとりまたひとり

わたしはいま
灰色の空と灰色の街の片隅に立って
秩序化された無秩序の一端を握りしめる
水浸しになってしまったチケットには
ウェバァラフトが滲んでいます

わたしはいま
灰色の空と灰色の町の片隅に立って
秩序化された無秩序の一端を握りしめる
通り過ぎた灰色の犬がわんと吼えたから
波紋が世界を崩壊させてしまうでしょう

腐ってしまってもなおそこにいる
腐敗者たちがさまよう霊場で
たちならぶ廃墟ビルのなか
ひとりまたひとり
ひとりまたひとり

ウェバァラフトの上映が終わりました
灰色の雨にやられたチケットが破れました
わんと吼えた犬は壊れたエサ皿を眺めました

灰色の空の灰色の町の灰色のごみ箱
に詰め込まれた腐敗者たちが
ひとりまたひとり
ひとりまたひとり
一縷の光を求めています

轟音とともに走り去るオゥプンカァにも
どこかから飛んできた七色のオウムにも
地面の下を駆け抜ける下水の流れにも
希望なんて見つかりやしないのでしょう
廃墟ビルからわずかにもれる明かりだけが
希望の光に見えてしまうのでしょう

腐敗者たちは笑顔で大声で千鳥足で
ひとりまたひとり
ひとりまたひとり
せかいのはぐるまになりはててしまうのです






ぼくのせかいはひろがっていきます。ひろがればひろがるほど、ことばはふくらんでいきます。