「佐山さん、雑煮食べますか」 ベッドの上で、未だ俯せに転がったまま動かない佐山に向けて、とりあえず秋口は声をかけてみた。 元旦、すでに昼下がり。 大晦日から佐山が秋口の家に泊まりに来て、二年参りに行こうかなんて話をしていたのに、つまらない紅白歌合戦を見ながらホットカーペットの上でごろごろしているうち、どちらからともなく足や手で相手の体を触りだし――、結局、気づいたら初日の出を拝む間もなく外が明るかった。 疲れ果てて気を失うように眠りにつき、つい先刻目を覚ました秋口は、よく眠っている佐山を起こさないようベッドを抜け出してダイニングキッチンに向かい、適当な雑煮らしきものを作ってみたのだが。 「うー……」 いかにも眠たそうな、くたびれ果てた唸り声が佐山の口から漏れた。 「眠たいなら、まだしばらく寝てて全然構いませんけど」 「……起きる……」 億劫そうに佐山が起き上がる気配がした。 「……あれ、服ない……」 「ああ、洗濯機に入れちゃったから。適当にその辺にあるの着てください」 テーブルの上に雑煮をセッティングしていると、ぼさぼさの頭のまま佐山がダイニングに現れる。 「あー……いい匂い」 眠たい目を擦る佐山は、眼鏡が見つからなかったのか裸眼だ。壁や家具あちこちにぶつかりながら、秋口の方まで歩いて来る。 「秋口が作ったのか?」 「適当に、あるもんぶち込んだだけだから味の保証はできないけど」 言いながら、秋口は佐山の方へ顔を近づけて軽くキスした。 佐山が笑って目を閉じ、それを受ける。 「あ、そうだ」 佐山が、思い出したように声を上げた。 「うん?」 「あけましておめでとう」 「ああ」 そういえば、ゆうべの日付が変わる頃はベッドの中で、そんな挨拶をする余裕もなかった。 「あけましておめでとう、今年もよろしく」 秋口がわざとていねいに頭を下げると、佐山が笑って同じように頭を下げた。 「お手柔らかによろしく」 佐山の返事に、秋口は少し苦笑してしまった。 「今年はもう少し、ちゃんとするように頑張ります」 「ちゃんと?」 「ちゃんと――佐山さんに優しく、ふたりで倖せになれるように」 「……うん。俺も」 笑った佐山の笑顔が可愛くて、秋口は衝動のようにその体を抱き寄せると、もう一度唇を重ねた。佐山は今度もおとなしくされるままになっている。 「……ん」 触れるだけの接吻けが続いた時間はほんのわずかで、すぐにそれは深く熱っぽいものになった。濡れた音が微かに響き、お互いの情欲を煽り始めてしまう。 「……ベッド、戻りません?」 秋口が耳許で囁くと、その声と吐息に佐山が小さく震えた。 「でも、雑煮、まだ」 「あとであっためればいいから」 「……うん」 佐山が照れた顔で頷き、秋口の唇を捜して顔を持ち上げる。秋口は自分からも唇を寄せ、再び貪るように佐山と深いキスを交わし――
◇◇◇
そこで目が覚めた。
◇◇◇
「……夢かよ!」
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