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永遠の半神...楢原笙子

 

 

月鏡〜はじまりのこと7〜 - 2008年07月05日(土)






彼とわたしは
ひとつのテーブルをはさんで座った。
そんな風に
ただ向き合っていられるのは
初めてのことだったけれど
気持ちはずっと近づいたような気がした。


足はどお?

もう大分楽です

よかった

待っている間はどうなるのかと

置き去りにされて?

彼は笑った。
わたしも笑った。

・・・
お優しいんですね

そうかな
普通だよ

・・・きっと
奥様はお幸せですね


そう言ってしまったあと
はっとした。
わたしの心が
その言葉に透けていそうで
自分が嫌な女に思えた。


さあ
どうかな

え?

いや
幸せの尺度はひとそれぞれだから


それはいったい
どういう意味なのだろう。
訊きたかったけれど
いけないところに踏み込んでしまうようで
口には出せなかった。


キミはどお?

えっ?
・・・今は
すごく幸せです


そう。
ずうっと見ていたあなたと
こうしていられる今が。
あなたがわたしのために
靴を買ってきてくれたそのことが。


・・・さんは?

僕も今幸せだ


その時一瞬
彼の心が
奥さんから離れて
わたしのところに
やってきたような気がした。











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月鏡〜はじまりのこと6〜 - 2008年07月02日(水)






わたしは傷にテープを貼りながら
ふと
彼の手の感触を思い出していた。

彼のてのひらは
しっかりとわたしを支えてくれた。
とても温かくて
安心させてくれる手だった。

そう
あの時
電車から降りたあのときも
わたしの腕に同じ温かさが残った。

こうして彼を待っている間
彼も
わたしのことを
考えてくれているのだろうか。



片方の靴を手に。

その場面はまるで
小さい頃読んだお伽話のようで
わたしと彼のストーリーには
もっと先があるようにも思えた。

けれどもそう思ったとき
彼の指に必ずある銀の輪が浮かんできて
もう何度も繰り返したように
ふたつの感情が
行ったり来たりした。



待たせたね


その声で顔を上げると
彼が肩で息をして立っていた。
そうして
包みの中から取り出したものを
わたしの足元に置いた。

真新しいデッキシューズだった。

えっ

たぶん楽だと思うんだけど
こっちのと比べてみたから

驚くわたしを彼が促し
わたしはそっと足を入れた。
しっかりと全体を包み込み
ふわっと和らぐような安心感があった。

・・・いいかも

ほんと?

再び彼の手を支えに
わたしは立ち上がった。
彼がわたしに
新しい履物を
見つけてきてくれたのだ。











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月鏡〜はじまりのこと5〜 - 2008年07月01日(火)





どこがいいかな

遅れがちに歩くわたしを
彼は何度か振り返り
やがて訝しげに言った。

どうかした?

ちょっと・・・足が

え?痛いの?
捻挫でもした?

いえ
きっと慣れていない靴のせい

だいじょうぶ?歩ける?

彼は傍にやってきて
わたしの足元を気にしながら
手を差し出した。

だいじょうぶです

そう言いながらも
わたしは彼に手を伸ばした。
最初は遠慮がちに
けれど歩を進めるうちに
だんだんその手が頼りになった。

ちょっとそこへ座ろう

彼はわたしを縁石に伴った。

靴を脱いでご覧

足にはいくつか水膨れができて
破れて血が滲んでいるところもあった。

ああ

うわ
痛そう

迷って
随分歩いてしまって

彼がはっとしたような顔をした。

そうか・・・


いいえ大丈夫です
傷テープ持ってるし

でも本当は
その靴に再び足を入れたくなかった。
脱いだ開放感を味わっていたかった。
そんなわたしの気配が伝わったのか
彼が言った。

ちょっとここで待ってて
これ借りるよ

えっ?と思う間もなく
彼はわたしの靴を片方だけ持って
どこかへ行ってしまった。
次第に夕闇が濃くなる見知らぬ街に
わたしはぽつんと残された。











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