羊水#6 - 2006年07月31日(月) わたしは無言のままバッグを受け取った。 悪いいたずらでもしたみたいに、 彼の顔をまともに見ることができなかった。 ただ 早くそこを離れたかった。 からからの池の中で、わたしが濡らした場所だけが、 つやつやと黒っぽく光っていた。 わたしは黙って歩き出した。 折角近づいたふたりだったのに、 全てが台なしになってしまった気がして悲しかった。 そして、なんだか自分に腹が立った。 ごめん・・・ なのに 後ろから歩いてきた彼が言った。 (なんであやまるの?) 何も言わないと、 彼を責めているみたいになってしまうと思いながら、 自分をあの場所に、 引き戻さないで済む言葉が見つからなかった。 わたしはただ黙って、 雑木林の中の道を歩いた。 彼が小走りに近づいて、わたしの肩に手を掛けた。 怒ってる? (そうじゃない、そうじゃないの) わたしは下を向き首を横に振った。 そして、肩に触れた彼のぬくもりを、 なんだか疎ましく感じていた。 来たときのあの華やいだ気分は遠く、 今日をもう一度、 最初からやり直せたらいいのにと思った。 - 羊水#5 - 2006年07月23日(日) わたしは彼の眼を見て言った。 ね?・・・トイレどこ 彼はわたしの真剣な様子に圧され、 一瞬真顔で考えたあと、済まなそうに首を横に振った。 どっちにしろ、どこか解らないそこに 辿り着く余裕なんてなかった。 わたしは彼をはねのけて、身体を隠せる場所を目指した。 ふたりが座っていた後ろの方に、 涸れた池を縁取るように大小の石が並んでいた。 低いところを超えて、 岩ほどもある大きな連なりに身を寄せ、 ショーツを下ろしながらしゃがみ込んだ。 飛沫が薄毛をゆらしながら迸った。 敷き詰められた砂利の間を、黄金色が流れた。 渇いた池に注ぎ込むように、ただひたすら開放し続けた。 流れはその先で、すぐに沁み込んで行った。 最後のひとしずくがそこを濡らしたとき、 ようやく気付いた。 拭うものはバッグの中で、それはさっきの芝生にある。 けれど持って来てもらうことなんてできない。 この格好のまま彼を待つぐらいなら・・・。 ひんやりとしたショーツが、 わたしのあそこに張り付いた。 小さい頃、遊んでいるうちにもよおして、 茂みの中でおしっこをした。 その時のいやな感触を思い出した。 もう既にショーツは濡れていたけれど、 初めて汚してしまったときの 諦めみたいな気持ちは同じだった。 立ち上がった岩の向こうに、 バッグを持った彼がいた。 -
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