山場を迎えました。
あきが、彼氏に勝手に電話をかけていた。
イタズラ電話。
ずいぶん前に、あたしの携帯から番号を盗み見て
いつか何かあったときに使うかもしれないと、メモリに入れといたそうで。
俺とあいつは半年間浮気してたんだよ、おまえ気づかなかったの?
俺以外にももう一人、あいつには浮気相手がいたんだよ。
あとはあいつから全部聞きなよ。
あきはこんな風に、彼氏に話した。
彼氏から電話がかかってきて、
『こんな電話かかってきたんだけど』と言われた。
あきだと信じたくなかったけど、
電話の内容、タイミング的に、あきしか考えられなかった。
ふるえが止まらなかった。
彼氏に浮気がバレそうになったからってこと以上に、
あのあきが、さっき“さよなら”をしたあきが
なんでこんなことしたのかっていう、恐怖。
彼氏は泣いていたかもしれない。
不安にさせた。
彼氏の愛が痛いくらいに伝わってきた。
友達に言われた、「長く付き合ってきた絆」を感じざるを得なかった。
彼氏と電話をきってすぐ、あきに電話した。
『・・・・・・あたしの彼氏に電話した?』
「・・・かかってきた?」
『何やってんの?』
「おまえが浮気に懲りてくれればいいと思って」
『何で当事者じゃない彼氏巻き込んでるの?
あたしとあきの問題でしょ?』
ふるえがとまらない。
涙が出そう、だけど絶対に泣かない。
あたしは冷静に話さなきゃいけない。
そう思いながら深呼吸をして、話を続けた。
途中から、あきは泣いていた。
あきの本当の狙いはわかってた。
今回の電話であたしと彼氏がダメになって
自分のところに来てくれればそれで良かった、と。
あたしがそんな風に手に入って嬉しい?
あきのしたことであたしが傷ついて、彼氏と別れて、
そんな傷を、あきになめてもらうの?
それでも良かったと、あきは答えた。
どうしても欲しいものを手に入れるためなら、手段を選ばないんだ。
あきー。
あたしはますます分からなくなった。
どうしてそこまであたしを求めるの?
俺のところに来い、って。
そんなに求められたことないから、正直言ってとまどってる。
あきの気持ちが強すぎる。
きっと付き合ったら、もっと結びつきが強くなっちゃう。
お互い頑張らなきゃいけないことがあるのに、
今こんなことしてたら、何もかもうまくいかなくなる。
共倒れなんて、かっこわるいじゃない。
今回の電話で、あきを嫌いになれたらどれ程楽だったか。
あきも、こんな中途半端な女、好きになるからいけないんだよ。
あたしの存在が、あきを苦しめている。
目の前で崩れていくの。
あき自身も、こんな自分が信じられないって言ってるくらいに。
すごいね。
今は付き合えないと、結論を出せた。
あきはそれを受けて、あたしを忘れるために女を作るということに。
俺がフリーで、おまえもそのときフリーだったら付き合えればいいのにねって、
そんなことを言えるくらいになった。
あきと付き合いたい気持ちがゼロなわけじゃなかったんだよ。
こんなに自分を愛してくれる人、これから先、もういないと思った。
あたしは彼氏とこれからどうなるかは分からない。
あきとは半年間この関係を続けていたけれど
結びつきは決して弱くは無かったと思いたいよ。
今もこれからも、大切な人のひとり。
夜、あきに会いに行った。
いきなり電話がかかってきて、そこから話が平行線になったため。
少し離れたところに座って、ぽつりぽつりと話し始める。
あたしはあきの気持ちを軽く考えていたのだと気づいた。
ここ5〜6年で一番、あたしのことが好きで
気持ちが大きすぎて仕事に支障が出るから離れたいということだった。
あたしさえ良ければ、仕事が安定すれば一緒に暮らしたいとさえ言われた。
この人ほんとに本気なんだ。
本当に幸せにしてくれるの?と聞いた。
後悔はさせないし、幸せにする自信があると言われた。
あきとこうならなければ、気づかないで幸せで居られたことがたくさんある。
新しい幸せを教えてくれたのは、紛れも無く、あきなんだ。
彼氏とは付き合って3年弱。
特に大きなケンカもしないで
お互いを思いやっているのが当たり前で
少し物足りないくらいの優しさで包まれているのが心地よくて。
思い出なんてもちろんたくさんあって。
それをいきなり捨てることなんて、できっこないじゃない。
だからあたしはすぐに返事を出せないんだ。
あきとはもうだめなのかな。
お互い好きにはならないと思っていたのに。
陰からじゃなくて、俺の隣で支えて欲しいと言われた。
あんな切ない気持ちになった告白を受けたのは初めてだった。
まだ21なのに、人生決めるの早くない?と言われた。図星だった。
今の彼氏と付き合ってれば安定した幸せが手に入るのだと思っている。
このまま付き合ってあたしも社会人になって
タイミングが合えば結婚するのだろうと、そういう雰囲気になっている。
だってあきは安定してないじゃない。
これから先が不透明じゃない。
あなたにすべてを委ねるのは不安なの。
あきと居て居心地がよかった。
彼氏にも話してないような、あたしがいじめられてた話とか
なんでも話してきた。全部、受け止めてくれた。
大変だったんだな、って頭を撫でてくれた。嬉しかったんだよ。
彼氏のことを手放せない。
あたしもやっぱり、一緒にいるのが当たり前のようになってる。
毎日連絡とるのも普通で。
毎日仕事を頑張って、週末にあたしに会うのが楽しみだと言う彼氏。
いつもあたしのことを考えてくれてる、優しい人。
あき。
あたしはあきにつらい思いさせてるんだよね。
もういっぱいいっぱいだって。
あたしに彼氏がいるのがつらいって。
どんなに抱き合っても、結局は俺のものじゃない。
他の子とやってるほうが気が楽だって。
あたしたち、一緒に居すぎたね。
何度も何度も、あきと一緒になることを考えたよ。
あきが今の仕事で成功したとき、隣で支えてるのもありなのかなって。
傍にいれたらいいのになって。
だけど選べなかった。
今の幸せを壊してまで、あきと一緒になる勇気がないの。
今度会えるとき、あたしたち何て呼び合うのかな。
笑って話せる勇気が無い。
お互い、こうなって寂しいのは分かり合ってる。
だけど今一緒にいたら、あきをつらくさせるだけなら
今は我慢するから。
また、他愛のないことで笑って、
夜中に一緒にセブンに行ってチョコ買って、
狭いお風呂一緒にのぼせるまで浸かって、
枕並べて、
肩出すと冷えるよーって布団にもぐってさ。
またそうできることを夢見て、今は頑張るから。
あきの前で泣かないようにひとりで泣いてるから。