2018年11月21日(水) |
腐れ梅 / 澤田 瞳子 |
菅原道真公をお祀りする北野天満宮。 道真の命日である25日に市が立つ。 行きたい、行きたいと思いながら足萎えになってしまって悔しい。
さて 物語は 菅原道真の無念を担ぎ上げ、ひと儲けしようと画策する似非巫女2人。 ほんとかうそか、案外 北野天満宮はこんなふうに作り上げられたのでは、と思わせるなかなか面白い展開。 主人公の似非巫女である綾児、最後は性病に罹って そうしてやっとタイトルの意味を納得できた。
綾児が右京の住処や北野社で観察した限り、目に見えぬものに怯え、神頼みを繰り返す者は、身分の高い人々にこそ多い。何せ守るべきものが皆無の貧乏人は、その日その日を暮らすのに手一杯で、目に見えぬ何かを恐れている暇なぞない。それに比べれば貴族や富人はなまじ地位や財産を有する分、それを守るために汲々とし、心のよりどころを求めずにはいられないのであろう。 〜この国を動かす高官も、泥水をすすって生きる下賤も、その胸底にわだかまる醜さは、案外、変わりがないのかもしれない。
それにしても力作だと思う。 この著者の物語は好きだなぁ。
2018年11月09日(金) |
母への100の質問状 / 森谷 雄 |
ドラマ『コドモ警察』 や 『深夜食堂』のプロデューサー森谷 雄(たけし)。 自分の息子が産まれたとき、著者は「母への100の質問状」を送ることを思いつく。 「母と息子の人生の公約数に自分自身の未来を見出せるかもしれない」
3度の離婚と離ればなれになった家族。4人の父親。 50歳になった息子が、ずっと聞くことができなかった母の思いと人生を問う というか振り返る。
父親となったからこそ聞きたい、ある意味父のようでもあった波乱万丈な母の人生と思い。 どんな気持ちで僕と弟を育てていたのか。 家族が離ればなれになったとき、母は何を思っていたのか。 不器用な母と息子だからこそ聞けなかった思いが、思い出と母の返答で少しずつ解き明かされていく。
最後の100番目の質問。 母さん、いま幸せですか? はい、すごく幸せです。
そう答える母に未来志向があって素晴らしいと感じる息子。 そう、すべての子供は母から産まれるのだから。
もし・・・私が自分の子から同じように人生のいきさつを問われたら、私はちゃんと答えられるだろうか。 著者の母のように波乱万丈ではなかったけれど、真摯に人生と向きあっていただろうか。 人生にもしも・・・はないけれど、体調不良の今だからこそ、改めて様々なことが思い出される。
2018年11月06日(火) |
日の名残り / カズオ・イシグロ |
代替わりした屋敷の主が留守をするあいだ、老執事は短い旅に出た。 それは いままでの人生の回顧録であり、自分の存在を確かめる旅でもあった。
古き良き時代の英国、長年仕えた主人への敬慕、執事という自分の職業の規範ともいえる亡父への思い、今さらだが淡い思いを寄せていたと思える女中頭とのこと、お屋敷で催された重要な外交会議の数々・・・すべては遠い過去、過ぎ去ったことではあるが、老いを感じるようになってもそれらの日々が一層輝きを増して胸に生き続ける。
旅の最後のほうで知り合った男が夕方が一日でいちばんいい時間だという。 ゆうがたは、一日でいちばん楽しめる時間なのかもしれません。後ろを振り向いてばかりいるのをやめ、もっと前向きになって、残された時間を最大限楽しめ。
それはタイトルの 「日の名残り」に通じる。
図書館で予約していて、借りるのに一年もかかった。 おして他の予約本に比べたら番号がなかなか進まなかったので、ノーベル文学賞を受賞するだけの作品だから難しいのだろうか、読みにくいのだろうかと、構えて読み始めたがそうでもなかった。 主人公の一人語りは時にくどいと感じることもあったけれど、ノーベル賞に値する作品なのだと改めて思った。
|