読書記録

2003年07月27日(日) ゛it゛ (それ) と呼ばれた子   ディウ゛・ベルザー

 幼年期
 少年期・ロストボーイ
 完結編・さよなら ゛it゛    の3部作

児童虐待を生き抜いた著者が初めて明かした壮絶な日々の記録

実の母にガスコンロで焼かれる
ナイフでお腹を刺される
アンモニアと塩酸入りの洗剤で掃除をさせられる
きちんと食事をとらせてくれなくて
与えられる物は赤ん坊である弟の残したもの
ベッドはガレージの簡易ベッドで寝具はなし
だから新聞紙やボロ布を身体にかけて眠る
そして 何より著者を苦しめたのは
名前であるデイビッドとは呼んでもらえず It(それ)と言われたこと・・

学校の先生によって救い出されてからも
母から受けた呪縛から逃れられない
家庭の秘密を人に漏らしたと言われ
自分はほんとうにいけない子だったのかと悩む

それでも母から虐待を受けていたとき
助けてくれなかった消防士の父を看取り誇りに思う

その本の中で私の心にのこった一文

人間は何か決定的な変化が起こらない限り
十中八九、自分が育てられたとおりのやり方でわが子を育てるようになる

新聞記事で何故か気になってインターネットで買った本だったが
とても気持ちの重たい本だった




2003年07月22日(火) それから            夏目 漱石

長井大助は三十にもなって定職も持たず、父からの援助で女中つき(ばあや)の毎日をぶらぶらと暮らしている。実生活に根を持たない思索家の大助は、かって愛しながらも義侠心から友人平岡に譲った平岡の妻三千代との再会により、妙な運命に巻き込まれていく。
父や兄や嫂が嫁を取れ、と強く勧めるが金の工面を妻の三千代にさせるあたりから、大助は三千代のことを思い切れなくなる。
結局のところ、父からの援助を打ち切られることになっても平岡から三千代を取り戻そうとする。が、物語は終わっているけれど当の三千代はどうするのだろうか・・。私なら大助に飛び込めるだろうか・・。



2003年07月09日(水) 海のオルゴール       竹内 てるよ


  子にささげる愛と詩



病ゆえに引き裂かれ 27年ぶりに再会したわが子は
刑に服する身であった

あなたにめぐり逢った名古屋の刑務所、そのコンクリートの塀にはつめたい雨が降っていて、なつかしさにその塀をさわる母わたくしの指先をつめたくしました。疲れるとすぐ氷のようになる、心臓に病気のある私の手をいちどもあたためてくれる日もなくて、あなたは34歳で今生を終り、まもなく病をよくした私をただ一人はっきりと、たしかに現生に残しました。
いま、私はあなたを語り、私の母を語り、自分を語ることによって、人生では、平凡で平和な、あたりまえの生活をする多くの人々に心からの敬意と、尊敬をささげるものであります。石狩川に投身自殺した19歳の私の母も、私も女として母としてどんなに人並の生活がしたかったことでしょう。
すべての人のなしている、きわめて当然な、あたりまえの生活を、母も私も、あなたもすることが出来ませんでした。平凡な、誰にでも出来る生活が出来なかった私たち、そしてその生活を唯一無二のものとして尊敬する私たち、今はいま、そのことを書いてみようと考えています。





さくらの梢から

こんな夕ぐれ 私はひとりでいたい
そして ただ一つのことを思って
あなたはいま
このうつくしいたそがれの雲をみつめて
さくらの並木みちを 歩いているであろう

雲には ふしぎな色があるし
風は 思案をみだすほど 吹かない

あらゆる平静の中で とりわけ深いものが
あなたの心を かり立てて不安にしても
これは 陽春の 湖水の上の
ひとときの浪を 思わせるにすぎない

うつくしい平静な 面をして
あなたが そのみちを去ってゆくころ
さくらの梢から 一片の花が散るであろう

こんな夕ぐれ 私はひとりでいたい
空になお 残る 薄明の中を
心を込めて
散りゆく 花をみることは出来なくても
おお それが あなたの若々しい肩に

あなたは 何も知りはしない
そして
私は こんなにも 愛している


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