読書記録

2001年03月22日(木) 少年H          妹尾 河童


 主人公は9歳の少年で、胸にお母さんの編みこんだ自分のイニシャルのHをつけたセーターを着ているので、作中Hと呼ばれる。
神戸の海辺の町に住む少年Hは、父親は洋服の仕立て屋で母親は熱心なクリスチャンで二つ年下の妹との4人家族。
Hが小学5年生のとき戦争が始まった。父親がスパイ容疑で逮捕されたり、Hが大好きな映写技師のお兄ちゃんは召集を逃れて自殺する。
中学生になったHは軍事教官から「反抗的だ!」とマークされて殺されそうにもなる。戦争は日々激しさを増し、空襲警報が連日のように鳴り響き、米軍機の猛爆で街が炎上する中を、Hは家族と共に逃げまどう。
昭和20年8月、やっと戦争は終わるが暮らしの過酷さはその後も続いた。

昭和30年代くらいまでは日本はまだまだ少年Hが子どもだった時代とさほど変わらない。だから文中の少年Hは私自身のことでもあり、周りの子どもたちはみんな少年Hだったように思う。
少年の犯罪が多く話題になっている現代だからこそ、この『少年H』の生きた時代の庶民の哀歓の真実が人の心を打つのだろう。


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