私は盲人のための高性能AV機器を取り扱うセールスマンだ。盲人のお宅を訪ねてはカタログを読み聞かせて商品を薦める。ある日、お得意さんの一人を映画スターの自宅へ案内した。女優さんは自慢気にオスカー像を取り出して盲人に握らせた。盲人はつまらなそうな顔をしている。私はオスカー像の底面に彫られている点字を触らせた。盲人は顔をほころばせてありがとうありがとうと言った。
とある音楽係専門学校の文化祭で様々なバンドがオリジナル曲を披露している。私は他校の生徒なのだが何故か自分のギターを持参していた。とても上手な演奏を聞いているうちに無性に恥ずかしくなった。私のギターの腕前は素人同然だ。何だか居たたまれなくなって帰ろうと校舎から出た。夕暮れの町、何処からともなくバイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスの四重奏が漏れ聞こえてきた。気分が良かった。気付くと私は四重奏のコントラバス担当になっていた。初めて聞く不思議な曲のアドリブを弾いていた。バーの店内は薄暗くとてもムーディーだった。客達はうっとりと聞き入っている。店長が「後は君達に任せたから!俺は先に帰るよ!」と一言残して帰宅してしまった。
昼休みになった。新入社員の私は先輩社員二人と社長との四人で外食へ出た。先輩の運転する車は近頃開店したと言う和食屋さんに着いた。店内はやけに湿度が高くもうもうと湯気が立ちこめていた。先に進むとビュッフェ方式なのが分かる。チラチラと調理師達の姿が見える。湯気の中でダラダラと汗を流していた。私は沢山のお惣菜の中から大根と何か良く分からない野菜を煮込んだ物を取り分けた。ふと気付いた。取り分け用の小皿やスプーンが、洗っていないのではと思えるほど汚れている。一気に食欲が失せた。先輩は社長に謝っている。「こんな小汚ない店へお連れしてしまい申し訳ありません」
一仕事終えて適当な飯屋に入った。私は江戸時代の語り部で八人の養子がいた。子供達には白飯を食べさせた。自分だけ玉子焼きをおかずにしている事が後ろめたくなり、子供達のお碗にごま塩を振ってやった。ふと右側を見ると小人のこじきがおからを食べている。私は八人もの子供達を養っている事を誇りに思っていた。その日はとても気分が良かった。大きな子供が小さな子供の面倒を見てくれるので養育は其ほど大変ではない。街道の道端で語り部をしていると、沢山の子供達を抱えている私に同情して通行人から多くの投げ銭を貰えた。なので生活には困っていない。性格柄倹約家なだけだ。子供達が立派に一人立ちするまでは、今の生活を続けようと思っている。
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