Promised Land...遙

 

 

19.形 (1) - 2005年04月29日(金)


愛なんて曖昧で形のないものだから。
形がある“何か”で繋ぎとめておきたいんだ。
離れていたって心は一緒、だなんて思っても。
本当は不安で仕方がないんだ。
大切な君が誰かに攫われてしまわないか、と。


「髪、伸びたな」
神条は、約ニヶ月ぶりに再会を果たした恋人の髪を優しく触れた。
梳いてやると、さらさらと指の間を通り抜けていく。
「何だよぅ、エロいから伸びるの早いって?」
ぷうっと頬を膨らませた上村は、睨むように見つめた。
確かに白い肌を露出させて、ベッドに横たわるその姿はいやらしく見えるが。
「…そんなことは言っていない。その…何だ、何だか…可愛くなった気がする」
そんなことを口にしながら、神条は自分らしくないと僅かに頬を赤める。
「そ、そっかなー。嫌だなー、神条。男に言う言葉じゃないよ」
そうは言いながらも、上村は嬉しそうにはにかんだ。
本当に…可愛らしくなった気がする…。


上京して約二ヶ月、神条は上村と顔を合わせることがなかった。
勿論メールや電話は毎日のようにしていた。その殆どが上村からだったので神条は安心していた。
だが、細かい生活状況は分からないものである。
文章を読んで内容を知るのと、目で見て感じるのは違う。
声だけで微妙な感情の変化を読み取るのは難しい。それが感情の起伏が激しい上村だとしても。
久しぶりに会った恋人に対する欲目だろうか、妙に可愛らしく見えるのは…。
…恋をすると綺麗なるという話を聞いたことがある。
神条の頭の中では、世にも恐ろしい考えが巡っていた。
まさか…とは思う。上村に限ってそんなことは…。
だが、上村はここ二ヶ月間、“寂しい”だとか“会いたい”だとかそんな我侭を一度も言わなかった。
電話で話す時はいつも嬉しそうにしていて、メールでも神条を困らせるような言葉はなかった。


―――寂しいの我慢するから。我侭言わないから。
確かに上村はそう言ったけれど、それを律儀に守っていると言うのだろうか…。
それとも…、“他”で寂しさを紛らわせている…?
上村に限って浮気は有り得ない…、そう思いたい。だが、流されて…ということはないだろうか。
「上村、最近変わったことはないか?」
そう尋ねると、上村は不思議そうに首を傾げた。






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13.雨 - 2005年04月28日(木)


ぽつぽつぽつ…。
窓を叩くような音がして、俺は目を覚ました。
雨だ、雨が降っている。
そう思うと、何だか急に不安になってくる。
昔からそうなんだ。夜、眠る時に雨音が聞こえてくると、不安で怖くて眠れない。
寝てる最中に降って、そのまま気がつかずに朝を迎えることもある。それなら良いんだ。
だけど、今は目を覚ましてしまった。
どうしよう、もうきっと眠れない。


俺は、背を向けて眠っているカズヤのパジャマを両手で掴んだ。
布団で耳を塞いで、カズヤの背中に額をくっつける。
それでも風が吹く度に、窓を叩く雨音が聞こえた。
身体の震えが止まらなくなる。


「…どうした?」
俺の身体の震えに気がついたのか、カズヤは俺に向き直った。
寝起きが悪いカズヤは、どこか不機嫌そうに俺を見る。
それでも構わずに、俺はカズヤに擦り寄った。
「雨、降ってる」
俺はこの感情を何て説明していいのか分からなかった。
子供の頃からずっとこうなんだけど、理由は分からない。
何が怖いのか、何で怖いのか。
「ああ…、降ってるみたいだな」
「怖い、寝れない。助けて」
まるで子供のようにカズヤに縋りつくと、理由も分からないのに涙が零れた。
カズヤはそんな俺を見て、子供にするようによしよしと頭を撫でる。
「泣くなよ…。ここにいれば濡れないし、寒くないだろ?」
「でも、音がする。あれ、怖い」
不規則に窓を叩く音に、身体がびくびくと震えそうになる。
「分かった。耳、塞いでてやるから」
そう言って、カズヤは俺の左耳を手で塞いだ。
そうすると本当に雨音は聞こえなくなった。右耳から聞こえてくるのは、カズヤの心臓の音。
温かいぬくもりと規則的な音に、俺の不安は自然と消えていった。
「心配すんな。何があっても守ってやるから」
眠りにつく直前に聞いたのは、そんなカズヤの声だった。


翌日、昨日の雨が嘘のような青空が広がっていた。
「昨日、良い夢見た」
洗面台に並んで立って、歯を磨いているとカズヤが突然話を切り出した。
「へえ、どんな?」
「タカシが泣きながら、俺に縋りついてくんの。“怖い”とか言って」
どうやらカズヤは、昨日の出来事を夢の話だと思っているみたいだ。
何でそう思ったのか…、多分寝ぼけてたんだろうなぁ、あの時。
まあ、俺としては都合の良いけれどね。
「ふーん、有り得ない夢だね」
にっこりと笑って返すと、カズヤは不服そうに眉を潜めた。


夢だと思っててよ、恥ずかしいから。
俺の弱いとこなんて、知らないでいて。
全てを曝け出せるほど強くはないから。





*****


うーん、意味分からんね(笑)
夜寝る時、雨音が聞こえると怖くないですか?遙だけですか?
私は妙に怖くて、いっつも“ここにいれば濡れないし、寒くない”と言い聞かせて寝てます。
もしかしたら、私もカズヤみたいな人が欲しいのかもしれませんねぇ。


墜落天使は休止中。サイトが出来たら、そっちで書こうかと。



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墜落天使 3−2 - 2005年04月10日(日)


「ねえ、進路決めた?」
またか…。マナは最近、俺の顔を見る度にそう聞いてくる。
「朝から萎えるようなこと聞くなよ…。その話ならパスだ」
「もうっ、あんたはいっつもそうじゃない!いつになったら、進路教えてくれるのよ!」
教えるも何も、決めてないんだ。仕方がないだろ?
「俺の進路なんて、マナには関係ないだろ?」
「大ありなのよ!バカ!!」
何の関係があるって言うんだよ…。
時々、マナの言う事が分からない。昔はそんなことなかったのに。
「…まあ、その内な」
マナがぎゃあぎゃあと騒ぎ始めたので、俺は彼女を置いて一人で歩き出した。
「その内っていつよ!?トオルのバカ!!」
背後からマナの叫ぶ声が聞こえたが、気に留めることはなかった。


進路―――遠い未来のことなんか考えたくない。
生きているのは“現在”なのに、何で先のことまで考えなきゃいけないんだ?
俺の頭の中は、今楽して生きる事を考えるだけでいっぱいいっぱいだ。




教室に入って、本鈴が鳴って、担任教師が教室に入ってくる。
担任は何か話をしているようだが、俺の耳には入ってこない。
俺はただ窓の外を眺めていた。特に何かある訳ではないんだが、雲一つない、綺麗な青空が広がっている。
日向ぼっこをすれば、気持ち良さそうだな―――そんなことを考えていた。
それはいつも通りの日常だった。やがて担任が教室を出て行って、一時間目の授業が始まる…その筈だったのに。


「―――ルさんっ、トオルさんっ!」
俺は自分の耳を疑った。突然聞こえてきたその声は…。
「トオルさんってばっ!何で起こしてくれなかったんですかぁ!酷いですよー、置いてっちゃうなんてー!!」
アイツの声だった。教卓を見れば、ひらひらと手を振っているアイツの…シズクの姿があった。
クラスにざわめきが怒る。担任が驚いた顔で、シズクを見ていた。
「お前…、何でここに…?」
「何を言ってるんですかー。いつも一緒にいなきゃ、意味がないでしょ?」
にっこりと微笑むシズクの顔の横に、“白鳥 雫”と書かれた黒板の文字が目に映る。
やられた…。
俺の愛すべき平凡な日常は、アイツに完全に奪われてしまったようだ。





*****


天使君、学校に現るの巻。
いきなりキャラに名前がついてます…。変なので、2話の方に“自己紹介をする”シーンを入れておきました。
本当は2話を書いてる時にはもう名前を考えていて、自己紹介させなくちゃって思っていたのに忘れてました(笑)
天使君の名前はシズクで決定だったんですが、学校に転校してくるとなると姓もいるよな…ってことで天使っぽい名前を考えたら、妙に美少女っぽい名前に(笑)


一応書いておきますが、
俺(主人公)=早瀬 透 天使君=シズク(学校では白鳥 雫) 幼馴染の女の子=倉本 真奈
という名前です。




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墜落天使 3−1 - 2005年04月09日(土)


どうしてこんなことになったんだろう―――今更ながら、本当にそう思う。
昨日、空から落ちてきた天使は、俺の家に住みついた。
有り得ない話だ、俺が他人と暮らすことになるなんて。
しかも、天使の言い分がいまいち分からない。
俺が求めているものを探すだって?そんなもん、なかったらどうするつもりなんだ?
俺は心の奥で何かを欲しがっているんだろうか―――俺ですら分からないと言うのに。


今、天使は俺の兄貴のベッドで眠っている。よく眠っているようなので、起こさずに俺は家を出た。
家から出ないようにと、置き手紙を残してきたから大丈夫だろう。食い物も十分あるし。
俺は学生でこれほど良かったと思ったことはない。学校がなきゃ、四六時中アイツに監視される所だった。
学校にいる間だけは、俺はいつもと同じ日常を過ごすことが出来る。
そう思うと、1日中でも学校にいたい気分になる。特にすることもないんだが。


俺はアイツのことが嫌いなんだろうか…?―――ふとそう思った。
…嫌いではないと思う。アイツが普通の人間だったなら、きっと不必要に避けたりはしないだろう。
俺は平凡が好きなんだ。つくづく地味な男だと思う。
そんな自分を変えたいとは思わない。だから、アイツが傍にいない空間にほっとしているのかもしれない。


小さな道路の角を曲がると、いつもと同じようにマナの姿が見えた。
「おはよう!トオル」
「おう」
マナは俺の幼馴染だ。幼稚園の時からのクサレ縁だが、まさか高校まで同じになるとは思わなかった。
俺と違って、活発でポジティブな女だ。くりくりとした大きな瞳が可愛いと、学校で評判の美少女だったりする―――毎日会っている俺はそうは思えないんだが…。


偶然なのか、それともここで俺を待っているのか、マナとは必ずこの道で出会う。
いつも通り俺達は並んで歩き出した。
「どうかした?なんか憂鬱そうな顔ー」
「…よく眠れなかった」
変なヤツと一緒に暮らすことになったこととか、ソイツが何か面倒を起こすんじゃないかとか、どうすれば帰ってくれるんだとか考えて。
「ふーん、英語の単語テストの暗記してたの?」
「してない…、忘れてた」
いや、正確には今日テストがあるなんて、今知った。
教師の話なんて、いちいち聞いていない。
「やっぱりねー、トオルのことだから覚えてたってやんないでしょ?いいわよね、やんなくたって満点取れちゃう人は」
「別に良くないだろ。満点取った所で、賞金が出る訳でもないし…」
「内申ってもんがあるでしょー!?もうほんっとに無関心なんだから」
悪かったな…。内申が良くなった所で、何だって言うんだ?よく分からない。






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墜落天使 2−3 - 2005年04月07日(木)


「とりあえず…、寝る時はこの部屋を使え」
案内されたのは、ベッドや机、本だななんかがある部屋。誰かの私室っぽいけれど…。
「誰が使ってるんじゃ…?」
「兄貴の部屋だ。もう結婚して家を出てるから、使っていない」
ふーん…、お兄さんがいるんだ…。


それから台所やトイレ、お風呂場を案内してくれた。
「あんた、物食ったり、トイレに行ったりするのか?」
「はい、こっちの世界にいる時は、人間と殆ど変わらないんです。そうじゃないと人目がある所では変ですから」
翼がなければ姿も人間と変わらないから、誰も天使だとは思わないんだ。


「そうか。まあ、腹減ったら冷蔵庫にある物、勝手に食って良いから」
「はい。あの…、ご両親はどちらに?」
この家には今、彼以外誰もいないみたいだけど…。
「ああ、父さんは仕事。忙しくて、この家には滅多に帰って来ない。母さんはいない」
「いない…と言いますと…」
「十年前に出て行った。父さんは家庭を顧みない人だから、寂しかったんだろ」
「そう…ですか」
なんかケロっとして言っているけれど…、こんなに大きな家に一人ぼっちじゃあ彼だって寂しいだろう。
彼のその性格の原因は、ご両親の愛情不足にあるのかもしれない。


「あのっ、僕のことは兄と思って良いですからねっ。少しの間だけど、一緒に暮らすんですかね」
同情してるみたいな言葉だけど…、それだけじゃない。
彼の為に何かしてあげたいんだ。少しの間だけでも、寂しさを紛らわせてくれればそれで…。
僕の言葉に、彼は吹き出した。お腹を抱えて、肩を震わせている。
「な、何で笑うんですか!?」
「何でって…、“兄”とか言うなよ。どっちかって言うと、“弟”だろ?」
「な…!酷いですよ!僕の方が年上なのにっ。何百年生きてると思ってるんですか!…って、僕も自分の歳なんて覚えてないけど!」
む〜、確かに僕の方が背が低いし、小柄かもしれないけれど…。
しょうがないじゃないか!天界じゃある一定までいくと、成長が止まっちゃうんだから。


彼はまだ肩を震わせて笑っている。
初めて見た笑顔に、僕は鼓動が高鳴っていた。
どうしたんだろう…、僕。何だか変かも…。
熱くなった頬に気づかれたくなくて、僕は怒っているふりをして彼から目を逸らした。





*****


とりあえず一緒に暮らすことになっちゃいましたよってな展開です。
一日で書いたくせにまたしても、昨日と今日で分けました(笑)
番号通り読んでくれれば…、大丈夫ですから;
とりあえずギャグがメインなのか、シリアスなのか分かんないですよねぇ。



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墜落天使 2−2 - 2005年04月06日(水)


「帰る…方法は、本当にないのか?」
「はい」
「俺が求めているもの見つけるまで、ここにいるって?」
「はい」


僕はこの時、一つ嘘を吐いた。
本当は緊急事態に、帰る方法が一つだけあるんだ。
それは天使長に連絡を取ること。
初めて出会った人間がどうしようもないくらいの極悪人だった場合、願い事を叶えるのに時間がかかり過ぎる場合とかは、天使は天使長に念で帰りたいということを伝えることが出来る。
天使長はそれが本当に緊急事態なのか判断して、OK出れば天使長の力で翼を出してもらえるんだ。
今回のケースは多分前例にないから、どうなるか分からないけれど、試してみる事は出来る。でも…。


この人は悪い人じゃない。むしろ良い人だ。ただ欲がないってだけ。
だから、僕はこのまま帰る気にはなれなかった。この人を幸せにしてあげたいって思った。
この人は多分幸せがどんなものか、知らないんだ。いつも幸せと不幸のちょうど真ん中にいて、その場所以外を知らない。だから、欲がない。
でも、心の中ではきっと何かを望んでいる筈。
僕がそれを見つけてあげる。幸せがどんなものか、教えてあげる。
だから…。


「…分かった」
彼はもう一度深い溜息を吐いて、迷いに迷った末に頷いた。
「良かったー、追い出されたらどうしようかと思いましたよぅ。あ、自己紹介がまだでしたね、僕シズクって言います。貴方は?」
「早瀬 透」
「ハヤセさん」
「透でいい」
「分かりました、トオルさん。宜しくお願いしますね♪」
僕が右手を差し出すと、彼は少し眉を潜め、それでも僕の手を握り返してくれた。


「…家、案内するから」
「はい!」
僕ははりきって、彼の後についていった。






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墜落天使 2−1 - 2005年04月04日(月)


信じられない…。
人間にもいるんだ、こんな人が。
願い事が―――欲が全くない人間なんて。


僕が上げたお金、夢、恋愛の三つは、僕達天使が人間に求められる願いの上位三位だ。
願い事に悩んでいる人間も、この三つを上げれば大抵はそれで片付いちゃうんだ。
人間って結構欲深いから、大金を求めたり他人を不幸にするような願いを求めてくる人もいる。
そういうのは、幾ら僕達でも叶えてあげられないから困ってしまう。
その人の運命を大きく変えてしまうのような願いは叶えてあげられないんだ。
今までそういうことで苦労することはあっても、願い事が全くない…なんてことで苦労したことなかったのに。


「ぼ、僕はどうすればいいんだ…」
願い事がなければ、叶えてあげられない。
願い事を叶えてあげないと、僕は翼が出せなくて天界に帰ることが出来ない。
軽い眩暈を感じて、僕は足元をふらつかせた。
「おい、大丈夫か?」
彼が腕を掴んで支えてくれる。
「あ、すみません…って、誰のせいだと思っているんですかっ!貴方のせいで僕、帰れなくなちゃったんですよ!?」
「仕方ないな」
「仕方なかないですよ!叶えたいことがない人間なんて、普通いませんよ!?どうして何にもないんでかぁ!酷いですよ〜っ」
「…俺が悪いのか?」


よくよく考えてみれば、この人は悪くないのかもしれない。
僕がこの人に出会ったのは偶然だし、欲がないっていうのは多分悪いことじゃない。
この人の家の庭に落ちちゃったのは僕が悪いんだし…。
「分かりました、僕が自力で何とかします」
「は?」
「貴方はぼけーっとしていて何にも考えてないようだけど、人間です。多分心の奥では求めているものがある筈です」
「一言、余計だ」
「え?すみません。とにかくそれを僕が見つけ出してあげます。見つけ出して、それを叶えてあげます」
そう言うと、彼は心底嫌そうな顔をする。
「心配しないで下さい。そういうの得意なんですよ。貴方は何もしないで、僕を傍に置いてくれれば良いんです」
「…ずっとここにいるつもりなのか?」
「はい、宜しくお願いしますね」
彼は深く溜息を吐いて、額を手を押さえた。






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