コミュニケーション。
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私の日常には、いつも退廃的な匂いがしている。 夫のことも子どものことも、 なるようになる、運命には逆らわない主義。 ベタな話だが谷崎潤一郎の「痴人の愛」を無理なく読んでしまう、 そんなところがある。
寺島と恋愛していた時期は、 その感情を全肯定していたような気がする。 多分、寺島との恋愛がなければ、 夫より早くにあの声優と出逢い、上京し、 彼に貢ぐだけの生活を送っていたに違いない。 退廃の虚しさを知らないからだ。 かろうじてあんな日々は必要ない、と思えることが、 私の日常を支えている。
退廃的でも幸せには間違いない。 子どもを産まなくても経済に参加していることは確かなのだし、 誰の非難を受ける気もしない。 もし夫が私に愛想を尽かして私から子どもを取り上げたりしたら、 多分そうやって生きていく。 再婚も何もせずに。
頑張るのが苦手だ。 子どものころからずっとそうだった。 頑張らずに、好きなことだけやってきた。 その結果の毎日だから、好きなことしか残っていない。 モラルだとかお行儀だとか、 自分の感情とか恋だとか、そういうものを守っているわけではない。 そうだな、守るものなんて結局、 自我と愛だけだな。
声優を追いかけていくことだって、私にはできる。 やろうと思えばできる。感情のままに生きられるなら。 手段は何だってある。 子どもを捨てて自分の人生を生きて、なおかつ愛されるような人もいる。 私は、愛されなくたってかまわないとすら思う。 だからここに居る理由は。 私が、夫と子どもを愛しているから。
きっとこの愛に素直に尽くせば、もっと愛に溢れるのだろうね。 わかっているけど、駄々をこねるみたいに自我に生きている。
今年の始めごろ、九星気学にハマった。 夫と私の相性は最高で、 私の直観を信じてよかった、としみじみ思ったのだが、 今最高に好きな声優と私の相性は、最悪であった。
別に本当に彼とどうこうなるという意味で調べたのではなかった。 憧れの人の星座のページを見てみるくらいの気持ちだったのだが、 私は六白金星、彼は九紫火星。 私が彼に近づきすぎると溶かされてしまう。
勿論私には、それがよくわかった。 私は愛が通じたと思ったら最後、のめり込んでしまう。 夫は、イケメンでモテるくせに寂しがりやの他人を信じない、 めんどくさい人だから、私の愛でちょうどいいのだ。
神戸のイベントの後は、 故郷を捨て、東京に引っ越して、 彼に貢ぐだけの生活を送りたいと頭をよぎった。 こんなことを家庭持ちの女が考えるか?と自分が恐ろしく、 九星気学は本当にすごいと思った。
今、彼への気持ちはイベント後ほどはない。 彼は結婚疑惑もあるし(結婚しててもいいけど隠されてると嫌)、 声好きだし曲がいいから聴くけど、 曲に乗せられて感情移入はできない。 彼はどこまでもプロで、感情を隠して笑うことも、 ファンに愛を配るのも朝飯前だ。 結婚してましたとか隠し子いましたとか言われても驚かない。怒るけど。 とにかく信用できない。
イヤフォンで彼の歌を聴きながら、 あぁでも、信用できないと思いながらこの人に、 またはこの人を愛する自分に酔うことは、なんと心地いいのだろうと思う。 もし彼と恋愛するならば、日陰でもいいし、 結婚などしなくていいし、 彼からの連絡を待ちながら、自分で買ったマンションで独り、 彼からのメールを読み返したい。 そんな、退廃的な感情のスイッチの押される音がする。 だから彼は勿論、私が近づいてはいけない人だ。
喧嘩のオチは結局、夫が笑い飛ばして終わったことにはなるのだろうが、 はっきりと謝罪を求めなかったり、 機嫌を直したふりを続けるうちに忘れてしまうのは、 私の悪い癖だと自覚はしている。
今日あるパン屋に久しぶりに行く機会があったのだが、 前見た可愛い子がまだいた、などと言うのできょとんとしてしまった。 すっかり忘れていた。
しばらく考えて、前回の霞のような記憶と、 どこに夫の好きな女の子がいるか、ということを私が覚えていたようなことを思い出した。 中身は抜け落ちている。 「ごめん、居酒屋の女がインパクトありすぎてね。 なんせご飯の間ずっと語られてたからね」 ここぞとばかりに嫌みを言ってしまった。 夫が謝ってくれれば取り敢えず落ち着く気もするのだが、 私が本当に求めていることは謝罪なんかではないうえに、 自分自身に求めていることに応えられないイライラなので、八つ当たりだろう。
そう、私の最大の欠点は、 自分自身に高すぎるハードルを設定しておいて、 ひとりで、乗り越えられない!と泣きわめくことだ。 誰でもない、そのハードルを置いたのは自分なのだから、 ただ、私が、そのハードルを下げてやればいいだけなのに。 ああ、それはもしかして、 自分を愛すると言うことのひとつだろうか…………。
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あれ以来、寝室はそのまま別室。 何年もこれで暮らしていたし、 一緒のときは暑かったし、いろいろ気になったし、 それでもやっぱり、嬉しくて、 レスのことはもう悩んでなかったからおまけみたいなことだったけど、 別室は、ずっと寂しかったんだな、 これからも寂しいんだな、 またその気になってくれるまで、 いやそもそもそんな日は、来るのかな、って、 言葉にならない不安を抱えていたことを今夜知った。
前から薄々気づいていたけど、私は、 私自身の、重い愛に気づくのが恐かった。 夫にも、あの声優にも、 そんなに愛していないふりをしてきた、他でもない自分に。
向き合ってしまったが最後、 こうやって独りよがりな苦しみを生んで、 結局相手に何もできず終わっていく。 そんなことはもう嫌だったから、 こんな自分を見ないようにしてきた。 毎日の仕事のほうがよっぽど大事、そう言い聞かせて。
その結果がヒステリーだ。 全てとは言わないけれど、どこか間違っていたのかもしれない気がする。
そうだ。 ダイエットの目標を達成できたら、気持ちを夫に話すことにしよう。 寝室を同じにしたいとは言わないけれど(原因は体重ではないし) でも、少なくとも、自分に許可を出せそうだ。 今は自分の何も許せない。
日常が戻った気がしていた。 何も心配事はなかったし、夫にも何も思わない。 同時に、 あの声優を追いかけるのやオタク活動が、ひどく疲れる気がして、 腰が重くなった。 飽きっぽいのは昔からなので、 今度は違うと思ったけどやっぱり飽きたのかな……などとぼんやり考えた。
日々は秋の気配を感じるようになって、 下手の横好きの編み物を始めるなら今だ、という気がしてる。 楽天もちょうどセール中だ、さぁ買ってやろう……と眺めだしたものの、 多過ぎたからか目移りして決められない。
一息ついて台所に立つと、 タバコを吸っていた夫が、あの喧嘩を蒸し返した。 喧嘩と言っても私がヒステリー起こしたのが大きいので、 冗談混じりの、俺は目の保養しただけなのに〜という軽いもの。 これ幸いと私も今だから言える口調で不満を口にできて、 ちょっとスッとした。 だけど、気づいた。 あの喧嘩以来、オタク活動が止まってしまったのだと。
それが嫌だと言うわけではなく、 私にとってはやはり、大きな出来事だったのだと今更実感した。 結局、義実家の手前もあり指輪は外さずに暮らしているが、 外してしまえとあのとき思ったのも本気だった。
夫がどうこうといった問題というより、 ちょうど、私に伝わりやすい方法だったのだと思う。 私に嫌がらせするならこれ!とマニュアルを作るなら、あの夜の夫を参考にすればいいわけだ。
さて、夫にはどうやってプレゼンすれば、 私がどれだけ傷ついたかわかってもらえるのだろう。
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