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2024年01月22日(月) 画像はイメージです。実際とは異なる場合がございます。

仕事帰り、娘からLINEが入った。返事を打とうとして、彼女のアイコンが変わっているのに気がついた。
うちにいる猫の横顔だったのがいつのまにか自撮り写真になっている。
「えっ、顔出しはあかんやろ!」
思わずつぶやいて……あれ?
よく見たら顔が違う。娘のアカウントなのに、これは誰?

帰宅して娘に訊いたところ、「誰でもないよ、AIで作った顔だもん」とすまして言う。
ええええ。そりゃあ顔写真をアイコンにしてはいけないとは言っているが、だからといって自分じゃない顔を使う意味がわからない。
「でも、顔バレしてないんだからいいでしょ?」
いやいや、そうじゃないんだな。
SNSのアイコンは不特定多数が目にする。顔出しがだめというのは、見ず知らずの人に個人を特定されないようにするためだけでなく、「お、この子可愛い」なんて興味を持たれることを避ける目的も大きい。だからこんなK-POPアイドルみたいな美少女をアイコンにして、もし本人だと勘違いされたら余計まずいじゃないか。
「でもみんな、フリー素材を使ったりアプリでなりたい顔を作ったりしてアイコンにしてるよ」
娘の友だち何人かのアイコンを見せてもらったら、たしかにどの顔もまったくの別人であった。
うーん、私には赤の他人の顔をアイコンにする心理がよくわからない。変身願望みたいなものなんだろうか。

顔が別人といえば、娘が友だちとプリクラを撮ってくると嬉々として見せてくれるのだが、「なんだこれは……」と毎回思う。どれが娘だかすぐにはわからないくらい修正が施されているのだ。
小顔にデカ目、髪と肌はつるピカで歯は真っ白。はっきり言って不気味である。
「なんでわざわざこんなヘンな顔にするんだろう」
と不思議でしかたがないが、本人たちは「可愛く盛れている」と満足しているようだ。

スマホで撮ったものもプリクラほどではないとはいえ、メイクアップされていたり動物の耳やヒゲがついていたりとしっかり加工されている。
そりゃあ私たちの頃だって写真うつりを気にして、細く見えるように体を斜めにするとか小顔の人の隣は避けるとか口角を上げるとかはしたけれど、別人には到底ならない。しかし、娘にスマホの写真を見せてもらうと「ほとんど原型留めてないやん」とツッコみたくなることがしばしばだ。
もし元の画像を残していないのなら、本当にもったいないと思う。手元に残るのは作り込まれた写真ばかり……をいつか残念に思うことはないだろうか。



写真の加工についてはこんなふうに感じている私であるが、化粧によって別人のようになることについては見解が異なる。
以前テレビで、あるアイドル歌手が「すっぴんでスタジオ入りしようとしたら、警備員に止められた」というエピソードを披露しており、それを一緒に見ていた同僚何人かで「○○さん(女優)のすっぴんをネットで見たことあるけど、衝撃的だった」「タレントの△△さんも別人級だよ」と話していた。そのとき、
「ビフォーとアフターがそこまで違うと、世間を欺いてるような気分にならないかな」
と誰かが言ったら、うちの一人が「そんなことはない」ときっぱり。
「私もだんなに詐欺メイクって言われてるけど、私はすっぴんを自分の本当の顔とは思ってないから」

夜勤のときはほぼノーメイクに眼鏡という人が多いが、彼女は一切手を抜かないばっちりメイクの人。
素顔に化粧をして“自分らしさ”を表現した顔こそその人の本当の顔なのではないか、という主張である。
手を加えない状態が素のその人、と思い込んでいた私は目からうろこが落ちた。ただ与えられたものではなく、それに意思や努力を加えて個性が反映された顔のほうが実物、と言われたらたしかにそうだと頷く。

これは、最近娘が「ママもやってみたら」と教えてくれたTikTokの動画だ(画像をクリックすると再生します)。




もはや変身レベル……。
ビフォーとアフターで所作や表情がぜんぜん違うけど、ここまで顔が変わったらそりゃあキャラも変わるよねえ。

【あとがき】
というわけで、私も自分の写真でアイコンを作ってみました〜。


……なーんてな!
自分の写真なわけがありません。本当にAIでリアルな人間の顔が作れるものかなと思って、試してみたんです。で、AI画像生成アプリに私のプロフィールを入力してボタンを押したら、こんな女性ができたんですね。
まあ、若い!しかも美人。この「あとがき」までたどり着かなかった人は、本人だと勘違いしてくれるかもね、うしし……というのは冗談ですが、女子高生がすっごく可愛い子を自分のSNSのアイコンにする気持ちがちょっとわかったような。
それにしても、写真が自然なことにビックリ。後ろには同僚も写っていて、ふつうに職場で撮ったみたいですよね。簡単にこんなのが作れちゃうと、通販サイトで商品をベタ褒めしている顔出しモニターもAIなんじゃないの?と疑ってしまいそう。
で、アイコンだけど、実物より良く見せるのははずかしいものですね。正直者の私は居たたまれないワ……。


2024年01月09日(火) 三十年目の気づき

しゃくりあげる自分の声で目が覚めた。枕の冷たい感触で現実に戻ったあとも、涙はしばらく止まらなかった。
夢の中でも置いて行かれるのは私なのね。

なぜ唐突に彼の夢を見たのか、理由はわかっている。
フェイスブックでつながっている共通の知人から新年のあいさつが届き、否応なしにあの頃のことを思い出したところに、貴乃花さんの「独占告白 初恋の人と奇跡の再会を果たすまで」というネット記事を読んだからだ。
貴乃花さんが十代の頃に付き合っていた人と再婚したことはこのあいだニュースになっていたが、その女性との出会いから別れ、そして再会までが詳細に語られていた。

ただの再会なら三十数年ぶりとはいえ、奇跡というほどでもないだろう。ずっと音信不通だったとしてもいまどき連絡先を知る方法はいくらでもある。けれども、五十歳を過ぎて再会したときどちらも独身だった、ということはそうそうないんじゃないだろうか。
そりゃあ運命を感じるよね、なんてことを思ったのが頭に残っていたんだろう。



いまだに完結しない恋がある。終わらない夢を見続けているような気がしてならない。

白和えを作ってあげる約束のこと思い出す別れたあとで

俵 万智 『チョコレート革命』


洋風の料理ばかり作る俵さんに、あるとき恋人が言った。
「たまには白和えとか、食いたいなあ」
「じゃあそのうちにね」と答えたけれど、先に別れが訪れた。
「いまとなってはもうなんの意味もない約束。だけど、私がこうして思い出すことがあるように、彼もまた白和えを食べるとき、なにかしら心が揺れたりはしていないだろうか……」

「白和え」は私の中にもある。
大学卒業と同時に遠距離恋愛になった。大阪を発つ直前、彼は言った。
「二年、待ってな。迎えに来るから」
難波のえびす通りのファーストキッチン、二階窓際のあの席で。
だからその場所を通ると、MA-1を着た二十二歳の男の子がよみがえる。そして、果たされなかった約束に鈍痛を覚えるのだ。
私はずっとそんな自分にあきれていた。いったいいつまで引きずっているつもり、バッカみたい。

でも今日、ふと思った。
三十年かかっても忘れられなかったのだから、この先もたぶん無理だ。だったら観念して、その未練も自分の一部だと受け入れるしかないんじゃないか。
もう二度とふたりの人生が交わることはない、とはいまでも思えない。一方で、彼と私のあいだに“奇跡の再会”はないこともわかっている。この矛盾を抱えながらも、私はちゃんと地に足をつけて生きてきた。あれからも恋をし、子どもを育て、一生の仕事を見つけ、私は幸せに暮らしている。心の奥底にいる彼に人生の足を引っ張られたことはない。
……あれ。もしかして、忘れなきゃならない理由なんてないんじゃないの?

という境地にようやく達した。長い長い道のりだったけれど。
キラキラの記憶を断捨離することはない、大事に引き出しにしまっておいたらいいよね。
でもさ、夢の中くらいハッピーエンドがよかったなあ。初夢だったし……。

【あとがき】
今、BSテレビ東京で再放送している『冬のソナタ』を見ているのですが、登場人物は十年とか数十年というレベルで昔の恋を忘れられずにいる人だらけ。それはドラマや映画や歌のテーマにしょっちゅうなるし、ありふれたことなんでしょうね、きっと。みんな、そういう思いは胸にしまっているからわからないだけで。