仕事帰り、娘からLINEが入った。返事を打とうとして、彼女のアイコンが変わっているのに気がついた。
うちにいる猫の横顔だったのがいつのまにか自撮り写真になっている。
「えっ、顔出しはあかんやろ!」
思わずつぶやいて……あれ?
よく見たら顔が違う。娘のアカウントなのに、これは誰?
帰宅して娘に訊いたところ、「誰でもないよ、AIで作った顔だもん」とすまして言う。
ええええ。そりゃあ顔写真をアイコンにしてはいけないとは言っているが、だからといって自分じゃない顔を使う意味がわからない。
「でも、顔バレしてないんだからいいでしょ?」
いやいや、そうじゃないんだな。
SNSのアイコンは不特定多数が目にする。顔出しがだめというのは、見ず知らずの人に個人を特定されないようにするためだけでなく、「お、この子可愛い」なんて興味を持たれることを避ける目的も大きい。だからこんなK-POPアイドルみたいな美少女をアイコンにして、もし本人だと勘違いされたら余計まずいじゃないか。
「でもみんな、フリー素材を使ったりアプリでなりたい顔を作ったりしてアイコンにしてるよ」
娘の友だち何人かのアイコンを見せてもらったら、たしかにどの顔もまったくの別人であった。
うーん、私には赤の他人の顔をアイコンにする心理がよくわからない。変身願望みたいなものなんだろうか。
顔が別人といえば、娘が友だちとプリクラを撮ってくると嬉々として見せてくれるのだが、「なんだこれは……」と毎回思う。どれが娘だかすぐにはわからないくらい修正が施されているのだ。
小顔にデカ目、髪と肌はつるピカで歯は真っ白。はっきり言って不気味である。
「なんでわざわざこんなヘンな顔にするんだろう」
と不思議でしかたがないが、本人たちは「可愛く盛れている」と満足しているようだ。
スマホで撮ったものもプリクラほどではないとはいえ、メイクアップされていたり動物の耳やヒゲがついていたりとしっかり加工されている。
そりゃあ私たちの頃だって写真うつりを気にして、細く見えるように体を斜めにするとか小顔の人の隣は避けるとか口角を上げるとかはしたけれど、別人には到底ならない。しかし、娘にスマホの写真を見せてもらうと「ほとんど原型留めてないやん」とツッコみたくなることがしばしばだ。
もし元の画像を残していないのなら、本当にもったいないと思う。手元に残るのは作り込まれた写真ばかり……をいつか残念に思うことはないだろうか。
写真の加工についてはこんなふうに感じている私であるが、化粧によって別人のようになることについては見解が異なる。
以前テレビで、あるアイドル歌手が「すっぴんでスタジオ入りしようとしたら、警備員に止められた」というエピソードを披露しており、それを一緒に見ていた同僚何人かで「○○さん(女優)のすっぴんをネットで見たことあるけど、衝撃的だった」「タレントの△△さんも別人級だよ」と話していた。そのとき、
「ビフォーとアフターがそこまで違うと、世間を欺いてるような気分にならないかな」
と誰かが言ったら、うちの一人が「そんなことはない」ときっぱり。
「私もだんなに詐欺メイクって言われてるけど、私はすっぴんを自分の本当の顔とは思ってないから」
夜勤のときはほぼノーメイクに眼鏡という人が多いが、彼女は一切手を抜かないばっちりメイクの人。
素顔に化粧をして“自分らしさ”を表現した顔こそその人の本当の顔なのではないか、という主張である。
手を加えない状態が素のその人、と思い込んでいた私は目からうろこが落ちた。ただ与えられたものではなく、それに意思や努力を加えて個性が反映された顔のほうが実物、と言われたらたしかにそうだと頷く。
これは、最近娘が「ママもやってみたら」と教えてくれたTikTokの動画だ(画像をクリックすると再生します)。
もはや変身レベル……。
ビフォーとアフターで所作や表情がぜんぜん違うけど、ここまで顔が変わったらそりゃあキャラも変わるよねえ。