林真理子さんのエッセイの中にこんなくだりがあった。
つき合っていた男性から、海外出張の土産にスカーフをもらった。セリーヌのスカーフである。私はそれを見て、この男性との仲も長くないナと思ったものである。
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解説しよう。その土産は男性が帰りの飛行機の中で調達したものだった。
「JALの機内販売ではエルメスのスカーフ(2万円)も買えたのに、彼は7千円をケチってセリーヌ(1万3千円)を選んだ。本当に私のことを思っていてくれるなら、エルメスに手が伸びるのが男のまことというものではないだろうか」
というのが彼女の言い分である。
プレゼントというのは気持ちの問題だろう、なんて可愛げのない女なんだ、とモニターの向こうでぷりぷりする男性陣の姿が目に浮かぶようだが、私は彼女の「人のココロはこういうささやかな判断のときにわかる」という主張に頷く。もっとも、金額うんぬんの部分にではなく、相手の気持ちは「品」に反映されているという点についてだけれど。
どんな色やデザインを選んだかに彼のセンスが表れ、何を選んだかに気持ちの種類や量が表れるというのが私の持論。こちらへの気持ちが恋愛感情か、友情か、はたまた義理か。それは彼が自分のために選んだものを見ればわかる。
その昔、誕生日にバカラのペンダントをプレゼントしてくれた彼が数年後、友人と共同購入した際に余った(と思われる)プリンターをかついで家にやってきたときは目眩がしたものである。
「今年はそんなもんで間に合わせよったか……」
胸によぎったイヤーな予感は半年後、的中した。
逆のパターンもある。男性の友人から海外旅行の土産にエプロンをもらったとき、心の中でうーむとうなった。
ハロッズのロゴやディズニーキャラクターのイラストが入ったようなカジュアルなものであったなら、深く考えたりはしなかった。だが、それは若奥様に似合いそうな、とても綺麗でレーシーなエプロンだった。
これってどうなんだろうと思っていたら、やはりこの予感も当たっていた。
自分への思いが形になったものがその品であるからして、そこに相手の気持ちを見出そうとするのは無謀なことではないはずだ。たしかにプレゼントは金額ではない。しかし、林さんとおつき合いしているような人が私たちと同じようなお財布事情とも思えないので、彼女が「7千円」という部分で恋人の愛情を量ったことをイヤな女だと非難する気にはならない。
土産といえば、私にとって毎旅一番のお荷物が「土産を買う」という用事である。
職場にばらまくお菓子ならどうということはないけれど、夫の実家や友人のためのちょっとしたものとなるととたんに荷が重くなる。
「どうせなら喜ばれるものでなきゃ」と欲を出すものだから、なかなかこれというものにめぐり会えない。「可愛いけど、使い道ないよなあ」「きっと飾るとこないだろうな」「自分だったら、もらってうれしいか」が頭によぎり、決断できないのだ。やむなく、また明日見よう、次の都市で探そうと持ち越しにするのだが、それは日を追うごとにこちらの気を重くさせる。ああ、さっさと片づけてしまいたいのに……。
先日中国で、七宝焼き風の小物入れだのパンダの置き物だのをためらいなく買う友人を見て、少々うらやましくなったのであった。
ところで、誰かが海外に出かけると聞きつけると、すぐさま買物リストを持ってくる女の子がときどきいるが、私にはこういう真似がどうしてもできない。どんな空港の免税店にもありそうな有名ブランドの口紅ぐらいならともかく、化粧水やファンデーションとなると、横文字だらけのパッケージとにらめっこしながら指定された品番を探し出すのはひと苦労だ。
さらにやっかいなのが、ブランド品のバッグを「いくら以下だったら買ってきて」というもの。お金を先に預けろとか荷物になるじゃないかとかいう問題ではない。こちらがそういう店での買物を旅の目的に入れていないのに、貴重な時間を割かせるようなことをよく頼めるなあという思い。
「店に寄れるかどうかわからんし、期待せんといてな」と予防線を張りながらも、行けばやっぱり探してしまうのだから、われながらお人好しだと思う。
というようなことをずいぶん長いこと思ってきたので、今回の中国旅行では誰にも何も買わずに帰ってきた。そうしたら、土産という宿題がないと旅はこんなに身軽なものなのかと大きな発見。
土産というのは年賀状のやりとりと同じで、「こないだもらったしな」で無限ループに陥りがちだけれど、思いきって切ってみてもどうってことないみたいだ。
よし、今年の年賀状はちょっと数を減らそうか。
【あとがき】 新婚旅行ではとくに苦労しましたね。いつも以上に必要な土産が多かったこともあって、二週間近く猶予があったにもかかわらず、適当なものを見繕うことができず。結局、帰りの機内で調達するという体たらく。あんなのはもうこりごり。今回快適だったし、これからは食べ物以外の土産を無理に買わないことにしよう。あとは絵ハガキで対応。そうだよ、これでいいんじゃん! |