ことばとこたまてばこ
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2008年03月23日(日) それが写真だと思った。

土曜の夜。
大阪、道頓堀のかに道楽という店の前でひとりの外国人が鼻水も滂沱の嗚咽号泣で
ひと回り昔の古い黒いカメラでがちゃがちゃがちゃとシャッターを切っていた。

どうしようもない哀しみに打ちひしがれたような表情で、
あんなに何を撮っているのだろうと思って、おれはそれを探してみた。

しかし特に何か主立った被写体があるというわけではなかった。

おそらくあれは35ミリ単焦の広角レンズ。
とすれば行き交う人々とまっすぐの道にけばけばしく光る無数のネオン、
そしてちょっとの夜空、そんなものがファインダーから見えるはずだ。

おれには至って見慣れたものだった。

その外国人はフィルムが切れると多量の涙が頬を伝って顎から
ぼろぼろとカメラに落ちるのも厭わず素早くフィルムを変えて
また同じ方角へカメラを向けて一途に、泣きながら、撮り始めていた。


そのファインダーに見えるは風景か、光景か、情景か、憧憬か。


痛烈にあのひとの眼を知りたいと思った。それが写真だと思った。


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