ことばとこたまてばこ
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2006年11月26日(日) |
少年はレール上で我に返った |
紺碧の空と妙にくっきりと白い雲のすきまで 黄色い月が凍るようにさえざえと光る冬の夜 あまりの寒さに耳が赤く染まっているおれ いともたやすくおれの心はストンとおっこちた 何かをしようという気力がまったく萎えて どれだけ自分自身がミットモナイ存在か どれだけ自分自身がナサケヤシナイ存在か そんな思いばかり びん 骨身までこたえた
ずっずっずずず ずっずっずずず ずっずっずずず
気づけばおれは補聴器を外して まっすぐにつらなる線路を歩いてた 家々の光も眼に入らず 夜の囁きも耳に入らず なにもかもが無くて
うつむいていた顔を前に向ける するとやがてやってくる おれをひきつぶす 白い人工的な光がふたつ レールを響かせて
ぢっぢっぢぢぢ ぢっぢっぢぢぢ ぢっぢっぢぢぢ
2006年11月25日(土) |
夜のような人は懸命に答えたよ |
不器用な夜が今日もまたやってくる なんでもかんでも余すところなく照らし出す太陽輝く昼間とちがい なんでもかんでも隠そうと黒の蠢く夜が今日もまたやってくる
人間性がまるで昼間のような人は嗜好的に昼間が好きで 逆に夜のような人はやはり夜が好き
昼間のような人はその天真爛漫さにかまけて 夜のような人にとっては信じられないほど無神経に尋ねたりする
どうして夜なんかが好きなの? 見えないだけじゃない 暗いだけじゃない 怖いじゃない 寂しいじゃない
夜のような人は視線をぎろぎろ動かせて懸命に答えようと
なんでって・・・だってだてだって 心地よいんだもの 昼間には昼間のあったかさがあり 夜にも夜のあったかさがあるの わたしには夜のほうがぬくく感じるだけ それだけ それだけよ だからどうかお願い 理解できないというだけで 笑ったりしないで
2006年11月24日(金) |
すみません!すみません! |
わたしは絶望という存在であるというのに そのことをあろうことかすっかり失念していた なぜこんな大事を忘れていたのだろうとふと我に返った
すみません! すみません! わたしが息をしていることで あなた様にわずわらしい思いを抱かせてしまっている
すみません! すみません! わたしがひとことなにか言葉を発すると あなた様はお上品に眉をひそめなさられる
すみません! すみません! あなた様の愛情は とても優しく暖かくって とても私の手にはおいかねます
すみません! すみません! せめてたったひとりでもよいので 誰か 私に 私を必要だと言ってくれる人が・・・ ああっと かたわ者のくせにして 人並みの幸せをなんて大それたこと考えてしまいました
すみません! すみません! どんなに社会が良くなったように感じても しょせんわたしは絶望という名の存在なのですね
すみません! すみません! いつのまにかわたしは五体満足のあなた様と 同等の立場でものを考えてしまっていました うぬぼれていました あなた様の愚者に対する特有の 慈愛に満ちたその熱い視線が 私を戒めてくださいました
すみません! すみません! すみません! すみません!
誰か いつか どこかで ひとりぼっちの 耳に補聴器をつけた亡骸を 見つけてくださいましたら どうかお願いがございます。
やっとのこさ 障害者という呪縛から解き放たれ ただの肉の塊と成り果てたその亡骸から 忌ま忌ましく不必要だと呪いながらも おのれの障害を受け入れられない気持ちのまま ずっとずっと 人生の全てをかけて装着してきた 濃い黄色い耳垢にまみれた補聴器を 外してやって それを、 粉々になるほどの力で握りしめ コンクリートの地面にむけて 思いっきり 力いっぱい 叩きつけてやってほしいのです
それでやっと亡骸は 曖昧で それでいて くっきり鮮やかに 違いの浮き立つ 聴覚障害に ざまあみやがれと言えるのです
ですから どうかお願い申し上げます
すこぶるつかれたわってんで そぉれだけで いのちをたつことをよしとするじぶんじしんに じぶんがいちばんにおったまげたりすることもある それはまだじぶんじしんがまだ こきゅうのあまさをあじわいたいだけなんだ あのかいまみたあんこくをあじわうには まだまだまだまだまだまだまだ まだなんだ
2006年11月07日(火) |
二周年を祝して 『天 完結 -5- なんと便利で哀れな仮面なのだろう』 |
フリークスの皆様方よ、 あなたはとても寂しがってはいないか あなたの精神はよほど寂れてはいないか
私の話し方がおかしいと注目されて 私の歩き方がおかしいと注目されて 私の精神状態がおかしいと注目されて 私の体の部分がおかしいと注目されて 奇妙だと世間からのひやりとした視線を浴び続け あなたがたは知らぬうちにすっかりやつれ果ててはいないか
フリークスの皆様方よ、 奇妙なあなたのたたえる笑顔を、無上のものであり とんでもないほど素敵に輝いていると思う方々がいます
そうだ そうなんだ
奇妙なあなたの笑顔はたしかに素敵なんだ その笑顔の裏には 到底我らにはうかがいしれぬ不条理ゆえの苦渋と 不条理な障害ゆえ健常者との上手な接触方法が及ばないがため わけがわからずもスッキリとにこやかに微笑めてしまう哀しき術が
ほんのり透けて見えるから だから奇妙なあなたの笑顔が 不思議にちょっと違う笑顔なのは まったく当然なんだ
フリークスの皆様方よ、 あなたの笑顔は なんと便利で なんと哀しい 鉄の仮面なのだろう
酷使し過ぎた仮面が 金属疲労を起こして砕けることもあるね
フリークスの皆様方よ、 笑わなくたっていいときもある 懸命に反射的に動く口端の筋肉をおさえつけろ 笑わない真顔のあなたがいちばんに素敵な顔のときだってある
懸命に笑わず日々を過ごし 本当に笑っていい瞬間に 本当に笑ってみたらどうだろう
ただでさえ奇妙に素敵なその笑顔が そうだねまったくまるであの太陽よりも輝くのだと思うんだね
フリークスの皆様方よ、 あなたの笑顔は まちがいなく 無上であり素敵なのだ
2006年11月06日(月) |
二周年を祝して 『天 -4- 一心に踊ってエクスタシーを』 |
誰もやっては来ぬ黴くさい地下牢でわたしは踊る 床に積もったほこりが舞い上がる それが唯一の観客だとばかりにいっそう激しく踊る
机の上に置いた椅子からつま先立ちでやっと届く高さにある窓 光が 薄暗い室内を 切り裂く 鋭く白い光が踊るわたしを貫く 光は まるでほむらのごとく わたしをつつみ そして焼きつくす
キモチィイ 焼いて! 焦がして! 照らして!
腕は無くともわたしは踊れる こうやって ツ ツツツ ララルル ルルルラララ 腕は無くともわたしは跳べる こうやって ツ ツツツ ララルル ルルルラララ 腕が無ければ足がわたしを表す 無数の亀裂が咲き乱れた自分自身を抱きしめたいとき わたしは足と股間の間にぺたりと頭をうずもらせる
でもいまは 光が ある 光のあるうちにと
光へ胸を張って 光へ踊りを捧げて 光の時間は ごくわずかなのだ
時間にして150秒だけが光との対話 そうよ 今日はとってもいい光
こんな光にはめったに会えやしない そうよ いまよ いまのうちだけよ
いまはまだ 光が ある 光のあるうちにと
まだ もうちょっと 光がある 光のあるうちにと!
もう ちょっと すこし 光が ある わ
こんにちは こんばんは おはよう
闇が地下牢に戻った でも光のまばゆさを忘れまいとわたしは眼を閉じる 全身にうずきたつ火傷のような感覚を忘れまいとわたしは肌を研ぎ澄ませる あの素晴らしい光をまざまざと目前に甦らせ わたしは踊りつづけた
闇だってそう悪くはない 悪くはないのだけれども あんな素晴らしい光 見てしまったからには まだしばらくは闇に戻りたくないわ 戻りたくない
恍惚感の満ちたる甘い息と荒い呼吸を同時にはきだして 闇を背にしてまるで光の大河の中へ飛び込んでいくのを感じた
手の無き障害などどんなにもどんなにも些細なことだと心より思えるほど
光とのたわむれ 一心に踊りエクスタシー
2006年11月05日(日) |
二周年を祝して 『天 -3- 言葉を知らず体で知って』 |
産まれ育った森にひそむ少年
母なる狼の遠吠えにひくりと右の口端が動いた
小鳥のさえずりに少しく目を見開いた
草葉のざわめきに合わせて髪を振りまわした
川のせせらぎに身体のこわばりがほぐれた
ある日、産まれ育った森に二本足のけだものがやってきた
大丈夫かという声にぎらりと歯を剥く
君を助けにきたという声に大きな叫びをあげる
暴れるんじゃないという声にひときわ凶暴に暴れた
私はあなたの母さんよという声にうなり爪をたてる
ごめんなさいという声につばを吐きつける
愛してると声もなく抱きしめられる
野生児に見られる変化はすこしばかりであったけれど 野生児の少年、何かちぃっと思い出したよう、な。たぶん。 目の色がすこしく変わっていたよう、な。たぶん。
2006年11月04日(土) |
二周年を祝して 『天 -2- 孤独と孤独がおしくらまんじゅう』 |
ざつざつざつざつる んるるんるるるるるるうううううううううん 海が白く泡立ち、ないた
ぼつぼつぼつぼんぼん だらららららだだだらららららぁぁあああああ 雨が激しく降り、ないた
しやしやしやしやらり にゅーぅりりりんにゅーぅぅぅううううううう 闇が急速に訪れ、ないてた
世界がすこぶる低く見える小人の俺と 世界がすこぶる高く見える巨人の彼女は 潮風と雨と闇と寒さを除けるためでっかい朱色の布を共にかぶった
冬の乾燥から護ってあげるわと 彼女はちっちゃな俺をすっぽりまるまる包んで抱きしめている 俺は彼女の胸の中で窒息しそうになりながら たとえようのないぬくもりが心の芯に がつんがつんとぶつかっているのを感じていた
おしくらまんじゅう おされて泣くな おしくらまんじゅう おされて泣くな
おしくらまんじゅう お さ れ て 泣 く な
2006年11月03日(金) |
二周年を祝して 『天 -1- ナツとアキという名のフリークスメン』 |
1分早く呼吸を始めた兄のおれの名前はナツという 1分間呼吸をしなかった弟のぼくの名前はアキという おれとぼくをあわせて「おぼ」って自分のこと呼んでる おぼたちは腰から下がいっしょ 腰から上はべつべつ 向かって右がナツ 左がアキ さておぼたちは肩を組んでくっつきあいながら物を売る ナツはアイスクリームを売る アキはイチジクの実を売る おぼたちは裸で抱き合いながら河原の茂みをかけてゆく ナツは銀色の首飾りを鳴らせて手に日本国旗をもっている アキは白い肌をむきだしに髪を風になびかせてる おぼたちはどうしようもないほどに眠たかった ナツはアキの手を頭にのせてもらって眠った アキはナツの胸に手をのせて眠った おぼたちは好きな動物が違った ナツは猫 アキは犬 おぼたちは朽ち果てかけているアパートの陰で立ってた ナツはアキの髪の毛をまさぐりながらアキの匂いを感じてた アキはナツの乳首に指を置いたままナツのしこりを感じてた おぼたちは信じているものが違っていた ナツはパンクロッカーに陶酔して様々な淫らな歌を歌ってた アキはクリスチャンでいつくしみ深きを常に繰り返し歌ってた おぼたちはセックスをとてもしたかった ナツがセックスをしているときアキは意識を遮断できるように訓練していた アキがセックスをしているときナツは意識を遮断するふりをして同時に快楽を味わってた おぼたちは嗜好物がけっこう同じだった ナツは煙草を吸って酒を呑んで少々覚せい剤 アキは煙草を吸い酒を呑み、でも覚せい剤はやりたくなかった おぼたちは見えるものが違っていた ナツは音に色が見えると言っていた アキは味覚に物質が見えると言っていた
おぼたちはナツとアキという名のフリークスメン。
裂け目からでんでんつむり、目ぇ出した きょろりろりろりと左右を見回した
罪の深いおれはせめて汚いと思っている箇所を ただあたたかく、ただぬれている、ただたわんでいるだけ なにもかもかもがもすべてが単なる一部なのだと思うまで ただふくらんでいる、ただひらいてる、ただでているだけ 汚いと思えるほどに高尚ならざる罪深いおれはせめて見つめなきゃ!
とっとっとっと血のときめくあたたかな女の腹という荒野で でんでんつむりよ、あの花のたもとへと行きたまえよ でんでんつむりよ、あの花は君のぬらぬらを欲してるぜ でんでんつむりよ、遅くても懸命にのたらりのたらりと這いずるんだよ
でんでんつむり、でんでんつむりよ、
君を守るために存在しているおれだからこそ、君を攻撃するあの敵らをぶっ殺そうとしつつも愛している。
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