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■ 「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」
2006年10月10日(火)
ハリウッドのカーアクション映画「ワイルド・スピード」の3作目、「TOKYO DRIFT」を映画館で観てきた。このシリーズはアメリカの映画なのに日本車が数多く登場し、その迫力あるカーアクションが魅力のシリーズで、その迫力を余すところなく味わうため、3作とも映画館で観た。
過去2作についてのレビューはVoiceでも書いたが、今作のレビューを書く前に、もう一度簡単におさらいしておこう。1作目の「ワイルド・スピード」はヴィン・ディーゼル、ポール・ウォーカーのダブル主演で、役柄的にはポール・ウォーカーの方が主人公なのだが、クレジットではヴィン・ディーゼルが先に来ている。ヴィン・ディーゼルはこの映画でブレイクしたと言っても過言ではないだろう。 この映画は全米で思わぬ大ヒットを記録し、映画を真似た若者たちによる交通事故が頻発、社会問題にまで発展した。極限までチューンアップされたスポーツカーによる究極のハイ・スピード・バトルをCGを駆使してエキサイティングに描き、バイオレンスの要素が強く、非常にインパクトがあり、カーアクション映画としては非常に秀逸なものであると言えるだろう。
ところが、2作目の「ワイルド・スピードX2」では、役者として出世したヴィン・ディーゼルが抜け、ポール・ウォーカーが晴れて単独での主演となったが、前作同様のカーアクションはあるものの、それは前作に見られた若者たちの“サブカルチャー”としての危険な公道レースというバイタリティとデンジャラスさからはかけ離れた、国際的なマネー・ロンダリング組織の運び屋という、ハリウッド映画にありがちな、非常に大味なものになってしまった。前作の若者たちの“リアルな世界”から、いかにもフィクションな“映画の中の世界”に落ちてしまったのだ。一言で言えば、前作に見られた「ヤバさ」が全く失われてしまったのだ。ちなみに題名の「X2」には“2作目”という意味の他に、今作では主人公と行動を共にするパートナーがいるので“コンビ”という意味もあるのだが、内容的には2倍どころか2分の1の迫力しかなかったような気がする。
そして今回の「ワイルド・スピードX3」である。サブタイトルが「TOKYO DRIFT」となっている通り、何と舞台は日本・東京。今回は前2作で主役を務めたポール・ウォーカーもいなくなり、ルーカス・ブラックという新人が主役を務めた。さらに日本からも北川景子、妻夫木聡、柴田理恵、KONISHIKI、中川翔子などがカメオ出演しており、さらに日本が誇るドリフトキング、土屋圭一がスペシャルアドバイザーとして参加しており、劇中でも先に述べた日本人俳優を上回る登場時間があり、セリフまであるのが興味深い。そして敵役のボスはあのソニー千葉こと千葉真一が演じている。
ストーリーをざっとご紹介しよう。カリフォルニアの高校生ショーンは車好きが高じてたびたび警察の厄介になっている問題児。ある日、ついに大きな事故を起こしてしまい、少年院行きが確実となる。それを逃れるため、ショーンは軍人の父を頼って日本へとやって来る。日本での高校生活に馴染めずにいたショーンは、留学生のトウィンキーに声をかけられ、深夜の立体パーキングで行なわれるアンダーグランドのカー・レースに誘われる。そこでショーンは、ドリフトキングのD.K.にいきなり勝負を挑まれ、完敗してしまう。しかしこれをきっかけに、ドリフト・レースという未体験の世界にハマっていくショーンだったが……というもの。
はっきり言ってこの映画には、「それはないだろう!」というようなツッコミどころが数多く存在する。まずはほとんど日本語がわからないアメリカ人のショーンがいきなり日本の高校に編入でき、都合良くクラスメートに同じアメリカ人の美人ヒロインがいて、さらにニューヨークでしかお目にかかれないようなバリバリの黒人ヒップホップ小僧も同じ高校に通っていて、この3人がすぐに意気投合してしまうという点だ。このあたりは、舞台は東京でありながら、やはりハリウッド映画だからメインキャストがアメリカ人なので、そのアメリカ人が日本で生活するという設定を強引に押し通した結果なのだろう。今回の舞台が日本なのは、海外における全日本プロドリフト選手権(D1グランプリ)の人気も相まって、ドリフト発祥の地である日本にしたかったこと、また前2作の興行成績がアメリカより日本で好調だったことも要因の一つであるが、ここまで無理な設定にしなくてはならないのなら、何も舞台を日本にしなくても良かったのではないかと思わずにはいられない。
次に目についたのは、日本側のメインキャストである。当然舞台は日本と言うことになっているので、日本側のいわゆる敵役は日本人ということになるのだが、そのメインキャストはアジア人。先に述べたように、日本人の俳優は敵役のボス・千葉真一を除きすべてカメオ出演しかしていない。日本人ではないアジア人が日本人の役をしているので、日本人なのに日本語の発音がおかしく、顔は典型的なアジア顔である。
そして韓国人俳優サン・カンが演じる、主人公の理解者となる日本人レーサーの役名が「ハン」である。ハンて……どう見ても韓国でしょう。それとも、名字が「半田さん」とか名前が「半蔵くん」とかで「ハン」と呼ばれているのだろうか……。いずれにしても、日本人の登場人物があからさまにアジアだったのが笑えた。
しかし、だ。やはり渋谷をはじめ首都高、そして峠を舞台にチューニングカーが多数疾走し、立体駐車場での接触ギリギリのドリフトや派手なアクション、日本独特の雰囲気に拘ったシーンの数々は見物だ。日本では公道を封鎖して撮影することは認められておらず、特に渋谷での派手なクラッシュ・爆破シーンを撮影する許可が下りるはずがなく、そのためロサンゼルスの街を封鎖し、そこに看板や道路標識を設置し、それにあらかじめ撮影した渋谷のビル群の映像を合成し、あたかも本当に渋谷で撮影したかのような迫力のカーチェイスシーンを実現している。
ストーリー的にはあまりにも強引で無理がある点が多いが、カーアクションに関しては前2作を遙かに上回る迫力があり、しかもそのカーアクション自体はCGを一切使わずカースタントで撮影しており、カーアクション映画としては最高傑作と呼べる作品だと思う。内容も第1作を凌ぐバイオレンスなもので、若者たちの危険なサブカルチャーの世界がより奥深くまで描かれているのが魅力だ。そして、クルマ好きとしては、クルマがたくさん出てきて、カーアクションがリアルで迫力があれば、細かいストーリーや設定上の矛盾点など気にしないのである。それほどこの映画はクルマ好きとしては秀作だと思う。
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