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2005年01月25日(火) |
世界中で斜に構える女(ももこの世界あっちこっちめぐり) |
さくらももこ『ももこの世界あっちこっちめぐり』読了。
さくらももこの本は初めて読んだが、 ああ、まさしくこの人は「まる子」なんだなーという感じ。 「素晴らしい」「すごい」と連発する感激屋さんなわりに、 「眠くなったのでさっさと寝ることにした」「料理はあまりおいしくなかったが、ここは味よりショーがうりなので、そういうものなのだろう」など(うろ覚え)、冷めている。 それはもう、きっぱりはっきり、冷めていて、斜に構えている。 たぶん、本人はそういう意識がなく、正直に感想を述べ、報告をしているだけなのだろうが。
しかし。 ぐだぐだともっともらしく解説されたり(まさにこの読書メモみたいに)、 はたまた必要以上に感動されたり、 あからさまに誰かに恩義があるだろうというほどに「オススメ!」されたり、 というのがなく、あっさりさっぱりとした、 思いつきのままの感想にはとても好感を覚える。
もちろん、さくらももこ氏の文才に負うところも、大きい。
2005年01月21日(金) |
「理性」へのアイロニー(蠅の王) |
ウイリアム・ゴールディング『蠅の王』読了。
無人島に漂着するたくさんの子供たちの物語。 というと、まず『十五少年漂流記』を思い浮かべるが、こっちはかなり厳しい。 (まともに『十五少年〜』を読んだことがないので、はっきり違うとは言い切れないが)
無人島という極限状態。 そこで少年たちはふたりのリーダーを得る。 表のリーダー「ラーフ」と、裏のリーダー「ジャック」。 これはそのまま、 烽火(理性的に救出を求める)VS豚狩り(野生化してその地に生きる) という構図になっていく。 誰もが内面に持っている「負」の部分のことを、 「獣」と呼んでごまかし、けれど恐怖に飲み込まれていく少年たち。 ゆがんでいく関係。 そして、続く悲劇。 理性派の敗北。
イギリスの小説らしく、ラーフたちはたびたび、 「ここに大人がいたらなあ、理性的に解決するだろうに」 とぼやき、最後に救出にきた大人たちは、 「きみもイギリスの子供ならば、きちんとしなくちゃ」 というようなことをいう(うろ覚え)。
島での破滅的な出来事は、異様なようでいて、 実はすべて、この人間社会の縮図なのだ。 だから、この何度も出てくる「大人」への羨望は、 痛烈なアイロニーになっていて、 思わず苦笑してしまうほど、やるせない気持ちになる。
2005年01月18日(火) |
3巻目にしてようやく試合(バッテリーIII) |
あさのあつこ『バッテリーIII』読了。
わくわくする、面白い。 レギュラー対1年生で、1年生が勝っちゃうとか、 野球部の未来をかけて強豪チームと試合するとか(試合はこれからだが)、 ネタとしては手あかがついているけれど、 なかなかどうして、純粋に興奮できる。
「スポ根」ものは、漫画ではいくつも読んでいるけれど、 小説では初めてかもしれない。 文章だけで、これだけ盛り上げ、イメージさせるというのは、 なかなかどうしてすごいことだ。 この太陽と土と汗と、ボールとバットとグラブのにおいを、 形は違っても多少なりともわたしが知っているから、 余計に興奮するのかもしれない。
天才「原田巧」を軸に回ってきた物語、 このあとは凡人「永倉豪」の番。 ますます面白くなってきた。
友人と同じ名前がテレビに流れた、 と言って青ざめていた友の顔が忘れられない。
翌日、 あれは同姓同名の別人だった、 と安堵していたその顔も。
しかし、その同姓同名さんに思いをはせると、 手放しで、喜ぶことなんてできない、 何かしたい思いと、何もできないもどかしさと、 不安定さに、けっして晴れない心持ちも、 忘れることはないだろう。
2005年01月14日(金) |
理屈っぽく、哲学を(ぐるりのこと) |
梨木香歩『ぐるりのこと』読了。
む、難しい…… 感覚的なことを論理的(風)に書かれているっていうのは、 なかなかどうして、難解なのね。
ちがうな、これは哲学なんだ。
ふとした出来事をきっかけに、梨木さんの思いはめぐる。 一羽のカラスをきっかけに、人類の滅びまで思ってしまうくらいに。 この人は、なんて真面目で、なんでもかんでも堅苦しくして、 そして、宗教的な発想から逃れられない人なんだろう。 もともと、梨木さんが宗教(主にキリスト教?)のことを深く考えていて、 しかもイギリスで児童文学を学んだ人で、 ということを知っているので、納得できる面もあるけれど。
なぜ、そんなにも客観的であろうとするのだろう。 必死に、必死に。 そしてなぜそんなにも後ろ向きなのだろう。
また改めて、この本とはじっくり取り組んでみたい。
2005年01月04日(火) |
無知も、無視も、すべてが虚しい(闇の子供たち) |
今年最初の読了本は、梁 石日『闇の子供たち』。 年頭から暗い話。 実はあと1/3ということろで、ずっと放ってあったのだ。
タイを中心に、子供たちが虐待されているさまを描き出している。 虐待といっても日本で最近はやっているようなものではなく、 貧困、誘拐、人身売買、幼児売春、臓器売買・・・ 人間ではなく、モノとして扱われる、そんな有様。
そこには、もちろんそれを改めたいという人々もいる。 日本人もそこにいる。 けれど、その思いはあっけなく権力と暴力に粉砕されて虚しい。 なにより、日本で「普通に」生活していると、 まったく縁のないそれら恐ろしいことが、 けれどやっぱり世界にはあるのだ、ということを突きつけられ、 でもそれを知ったからといって、やはり何もできない、というのが虚しい。
スマトラ沖地震の津波で、大勢の子供たちが親を失った。 彼ら彼女らが、この闇の世界に飲み込まれていくかもしれない。 それを阻止することは、きっと難しい。
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