プープーの罠
2007年08月21日(火)

依存症

-前回の続き-

それからお店のラストオーダーをきっかけに店を出て
そのまま駅で別れた。

『今日はありがとう
 またごはん付き合ってね』


それから土曜、日曜も何回かメールのやり取りをした。

一度会うとまた会いたくなる。
火曜日にさっそく誘ってみた
けれど
返事はまた
忙しい
である。

早く会いたいな。
もっと会いたいな。

2007年08月16日(木)

砂時計

会社での仕事
そのあと個人での仕事の打ち合わせ。
今日はちょっとバタバタだな
と思いながら過ごす木曜日。

返事を出すのをやめてから私は待つのもやめた。
ヒマだといろいろ考えてしまうので予定を詰める。
いつもなら極力メールで済ます
ようなやり取りでも打ち合わせのアポイントを受ける。
会社の仕事に波がないので両立しやすい。

職場の定時のちょっと前
八木君から連絡がきた。

 『ご飯でもいかが?』

 これから打ち合わせで今日は忙しいから、
…なんてあしらって
みたいところだけど、
私は弱い。圧倒的に。

 『打ち合わせがあるけど22時には終わるから。
 その後でもいい?』

 『いいよ。じゃあ待ってるね。』


待ってるね だって*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(*´∀`)・*:.。. .。.:*・゜゚・*


打ち合わせでは、担当に割と無茶な注文をされたものの
議論するのもタイムロスなので二つ返事で終わらせ、
そのまま食事に誘われたけれど即答で断り八木君に電話をした。

 「もう終わったの?早かったね。
 じゃあ、これからそっちに行くから待ってて。」



待ってるよ〜*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(*´∀`)・*:.。. .。.:*・゜゚・*


21時を少し回った頃、約束した場所に八木君が手を振りながら現れ、
落ち合い、人が多いね、なんて言いながら
並んで歩く、
手でもつなぎそうな間隔で。
いい匂いがする。
お風呂に入ってきたのかな。

人込みを避けしばらく歩いて裏通りの居酒屋に入る。

話の大概は他人の結婚のことで、
 友達に赤ちゃんが産まれてね、
 すごいかわいいの

 友達が結婚してね…


うっすらと感じる
八木君は35歳を節目として考えていて
それまでに結婚して子供が欲しいのだ。
その手っ取り早い相手として私が浮上して
本当に私でいいのか
と、多分、値踏みしてる。
それはとても打算的である。

私が未練を残している
ことを知った上で拒否していたのは
他の誰かを探すつもりで
音楽も始めたしファンもついたし
よりどりみどり

のつもりが、特定の恋人ができないまま
もうすぐ34になる
と気付いた。

35までに結婚するには逆算したらもう足りないくらい
月日の流れは加齢とともに加速の一方を辿り、
今すぐ相手ができても一年未満のスピード婚
に走れるほど相性がいい
確率はかなり稀少

その点私なら勝手知ったるところ
3年ぶりの復縁だなんて
ちょっとロマンチックなエピソード
までつく。

八木君は私のこと、好きだ
と思う。
連絡が途絶えそうになると
こより
のようにまた繋いで最低限の対処で途切れないようにする。
この前のフォーラム、今回のメール、
私が区切りをつけようとすると敏感に察知して
それをつなぎ止める。

でも、私のこと
もう好きじゃない
とも思う。
昔みたいに四六時中私のことを考えたり
私に傾倒したりはしない。

昨今の若者が結婚相手に求めるものは
相手が自分を好きだ
ということだそうだ。
自分が相手を好きだ
ということよりプライオリティが高いらしい。
八木君が私を好きなのは、きっとそういうことだ。

私の願った奇跡が
打算
という形で再訪している。

それを冷ややかに感じとり
ながらも一方で
過程よりも結果
私は彼の子供を産めるのかも知れない
と、それをうっとりと感じたりもする。


八木君が笑うと目頭に大きなしわができ
ほうれい線とは別のえくぼが大きく頬に縦線をつくる。

3年の月日がそれを作り出した。
33歳の八木君。
もうすぐ34歳の八木君。

私は何歳の八木君まで知ることができるのだろうか。

2007年08月11日(土)

待つキリン

 『仕事は定時で終わるし、
 平日でも休日でもいつでもいいよ』


と八木君に返事をしてそれから
私は毎日毎日メールを楽しみに待っていた。

1週間くらいしたら
 『今日あたりどうですか?』
とこちらから連絡をしたりした。

 『ごめん、明日〆切だから今日は無理。』
 『そっか残念じゃあまた今度。』
1週間ずつくらい間隔をあけて
2回ほどそんなやりとりをした。

タイミングが悪かったのだろう
と、さほど気には留めていなかったが、
3回目にメールをしたらその日は返事がこなくて
次の日もこなくてその次の日に
 『ごめん手が離せないから』
と一言だけ返ってきて

あぁ八木君の中で私の誘いはすでに
負担
になっているのだと思った。

いくら間隔をあけようがあまり関係ないのだ。

たとえ本当に忙しいのだとしても
代替案のない断りの返事がくると哀しくなる。
これしきのことでそうなら
やはり私は彼と上手く付き合って
いくことは無理だと思う。

私からの連絡はなしのつぶて。
八木君がまた連絡をくれるのを待ってるしかない。

明日〆切だと言うのなら明後日
誘ってくれるかもしれない
そんな期待をしては外れる。

八木君から誘われたのは妄想の中
だった方がいっそ清々しい。

待つのってやだわ。
どんどん寂しい気持ちになる。

 Q. それを乗り越えるには?

 A. 待つのをやめよう

それが私の方程式だ。
後悔するのは目に見えていても
同じことを繰り返そうとし、
同じことを繰り返す。

私の出す答えは
私の欲しい結果にはならない。

寂しくて八木君と別れた。
いっぱい泣いて後悔して
何年経っても忘れたりできなかった。
ようやく巡ってきた ふりだしに戻るチャンス を
また同じ理由で棒に振りそう。

 『じゃまた今度』
と返事をするのは止した。

索引
「プープーの罠」 written by 浅田

My追加