2004年07月30日(金) |
不定期連載:セルピコさんのやりくり旅日記4(まだ悪霊オプション付だった頃) |
やれやれ、無事にご褒美を頂くことが出来ました。田舎で良かったです。馬上槍試合五十人抜きは疲れましたけど。 とあれ久々に街へ出てお土産、保存食、その他を買い込む事が出来ましたし、路銀もしばらく安心です。
「優勝だって、ピコリン凄いねえ」
パックさん。馬の耳の間に座って私に話しかけてきました。
「馬での試合もだけど、よくすらすら口上出てくるね。田舎の御領主さんも驚いてたじゃない」
ああ、あれですか「我が身は呪われた運命にて、この大陸を彷徨う定め。故に面頬を上げ高貴の方々へこの身をさらす訳にはいかないのです云々」ですか。私、聖鉄鎖騎士団に居たときは紋章官って仕事してました。下世話言い方ですが、紋章官はしゃべってなんぼの仕事なんです。
「ふ〜ん、しゃべるのが仕事?」 ええ、まあ、式典で派手な格好しましてね、偉い方々の前で口上のべるとか、式典の進行役務めたり。今日のトーナメントでも、派手な格好して騎士の家柄とか紹介してた方がいたでしょ?あの方々が紋章官で、本来なら私もあっちの仕事なんですけどね。 とガッツさん達の待つ所へ戻る道々パックさんに話してましたが、途中で話に飽きたらしくパックさんはうなずきながら早速何か食べてました。
さて一行の姿が見えてきました。ファルネーゼ様とキャスカさんが出迎えてくれます。私はまず、女性二人への土産を携えて馬から下りました。
「ただいま戻りました、ファルネーゼ様」
「まあ、セルピコ、この薔薇の花束はなんなのです?」
ファルネーゼ様とキャスカさんへのお土産です。女性にはやはり花でしょう。
「嬉しいわ、いい香り‥‥。こんなに薔薇の花が綺麗に思えるなんて、久しく無かった様な気がします‥」
心中複雑です。これがつい先日まで私の頬をひっぱたいて鼻血を出させたり、その昔、お花を摘んで差し上げたら階段の上から私を突き落とした人の言う事でしょうか?(汗)。最近、ファルネーゼ様はこんな調子で私は少々戸惑っています。 いえ、私はマゾって訳じゃないので、以前の様な扱いをされたい訳ではありません。でも不気味です。空から魚でも降ってきそうで不安です‥‥。 キャスカさんも、花束には別の意味で喜んで下さっている様です。楽しそうに花びらをむしっています。
「ようよう、セルピコ、俺らには土産とかねえのかよ?」
イシドロさんとガッツさんがやってきました。はいはい、ありますよ、イシドロさんには新しい服と食べ物です。お、嬉しいじゃねえかとイシドロさんも喜んで下さいました。
で、ガッツさんへ、男の方にはお酒と思ったのですが如何ですか?
「わりいな、俺にまで気を使わせて。有り難く頂くけどよ、あんたもどうだ?俺はこう見えてもそんなに酒が好きな訳じゃねえし」
あ、そうだったんですか。ミッドランドの方だし、外見からてっきり酒がお好きなのだとばかり思い込んでいました(汗)。
中略
陽が落ちたら化け物が出るし、酒が入ってたんじゃ喧嘩にならねえとの事ですので、明るいうちにガッツさんと二人でささやかな祝杯をあげる事にしました。 女性二人は薪拾いに、イシドロさんは剣の稽古でもしている様で姿が見えません。居たとしても、未成年にお酒はあげられませんけど。 しかし私もガッツさんもそう飲める方ではなかったのです。なんとなく、男二人でちびちびやっていました。‥‥‥お通夜みたいです。
「パックが言ってたぜ。あんた、槍試合も凄腕だそうじゃねえか」
「‥‥そうでもないです。コツをつかめば案外簡単なモノですよ。実際の戦ではありませんから‥‥」
「ふ〜ん」
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥私、ファルネーゼ様の事が絡まなければ、貴方の事を消えて頂きたいとまで考えなかったと思いますよ‥‥」
「‥‥因果な事だな」
追記:剣の御前試合。ドラゴン殺しが規格外だったためガッツさんの出場不可。
2004年07月29日(木) |
ベルセルク27巻発売 |
28巻は2005年‥。来年の事を言うと鬼が笑う。
□感想1:最後の章でガッツが水平線に沈む夕日を見ながら「いいもんだな」。 う、泣ける。辛い目ばっかにあってるのに、この人はどこかで 柔らかい感受性を残してる。また人を信じる事が出来る。 だから大切なモノを踏みにじった存在への憎悪は深い‥。 丁度、27巻のあたり読んでなかったので 「セルピコとガッツ、やりあう」なんて書いちゃったけどそうならないように。 ガッツはセルピコの事も仲間って思ってるんだぜ(⊃Д`)。
□感想2:フローラさんの最後、美しい、そして泣ける。 火龍の旦那使途化、人間捨てた。 ロクス使途化「ブランクーシ?」前衛芸術の彫刻みたい。 ガニシュカ、心も見かけも醜い。 クシャーンの鬼兵、象さん、鰐さんの兵士、造り方がえぐい。 シャルロット姫様、言い寄る奴はみんな魔物。可哀想(;;。 アンナさん、いい味だしてる。好き。 グリフィス、オス○ル様?? ゾッド、好きなんだけどなあ、今はすっかりグリフィスの専用機。
人間捨てちゃった”人間達”が戦う場面より、苦痛を感じながらも もがくガッツ、時折見せる静かで柔らかい心の描写の方が心にしみます。 P・K・ディック曰く「貴方が人間であろうとなかろうと”共感”する 能力を持つなら貴方は人間なのだ」う〜ん、ちょっと記憶、曖昧。
2004年07月26日(月) |
ゴールドフィッシュさん、ネタ無断で使いました。ごめんなさい |
セルピコさんの女性運(26巻あたり?)
聖都より遠い旅路にて、僕はふと自分と女性との関係を考えてみました。 最初の女性、といっても母様でしたが、あの人は頭がどこかへイッちゃてて僕自身の事はまったく眼中にありませんでした。しかも最後は火刑で‥‥。どうしても愛せなかった肉親ですが、炎は今でもトラウマです。 ファルネーゼ様‥いろいろ確執はありますが、ファルネーゼ様が知らないとはいえ血が繋がっていますしね‥‥‥。ファルネーゼ様、最近はガッツさんに気のあるそぶり。なんとなくムカつきますが。 キャスカさん‥ちょっと倫理的に問題あります、おつき合いっていうと。それにガッツさんと訳有りの様ですし。 シールケさん、‥‥‥そういう対象では無いというか、犯罪でしょう、おこちちゃまは。僕にはそういう趣味無いですし。
‥‥‥‥僕は相当、女性運が悪いみたいです‥‥‥・。
2004年07月25日(日) |
薔薇と百合の花の下で |
まだ迷宮に居た頃の事。幼かった私がファルネーゼ様に庭に咲いた薔薇をつんで差し上げた事があった。深紅の色の香り高い花は、少しはファルネーゼ様のお気に召すかと思ったのだ。庭師に頼んで花束を作ってもらった。細心の注意をはらって棘を切り落として。それをファルネーゼ様のもとへ持っていくと、ファルネーゼ様はたいして面白くもなさそうに薔薇の花束を受け取った。
「つっ、痛。セルピコ、棘の付いた薔薇を私にどうしようというの?」
間が悪いことに、取り忘れた薔薇の棘がファルネーゼ様の指を傷つけた。ファルネーゼ様はその薔薇の花びらをむしり取り足蹴にした。私も棘の付いた薔薇の茎で頬を打たれた。血の匂いが薔薇の香気と混じり合った事を憶えている。 ファルネーゼ様に使えてからの私は生傷が絶えず、今日の出来事もそんなものだろうと思っていた。 使用人仲間には、ファルネーゼ様の暴君ぶりに付き合う私の涙ぐましい献身ぶりを笑う者もいた。
「お綺麗なお嬢様にかまわれるのが嬉しいんだろうさ」
当時は意味がわからなかったが、後にその言葉の意味を理解する事になる。
心外だった。私にとっていつまでも苦痛は苦痛でしかなく、暗闇は暗闇でしかなく、豪壮な邸であっても凍える冷たさは冷たさでしかなかったからだ。 ただ私は、物心付いた時から暗闇と冷たさしか知る事が無く、自分にとってどんな状態が幸せなのか解らなくなっていた。寒さに凍え、常に空腹をおぼえ、あの母との陰鬱な日々よりはマシなだけ。そして空腹が満たされる事になっても、ヴァンディミオンの巨大な邸は、やはり冷たく子供を暖める場所ではなかった。 私の行く先々は、いつも冷気に満ちている。 ファルネーゼ様もまた凍え怯えていた。 冷たく凍えた者同士が抱き合っても暖め合う事は出来ない。 ファルネーゼ様の求めを拒んだあの日、兄妹の軛と共に、何より冷たく凍えた者同士である事を私は感じていたのかもしれない。
2004年07月24日(土) |
不定期連載:セルピコさんのやりくり旅日記3(悪霊オプション付) |
さて用意が出来ました。久しぶりに御前試合といきますか。必要とあれば気合いの入れ方も違ってきます。ファルネーゼ様以下、一行が不思議そうに見守る中、私はトーナメント用フル装備の格好で馬に乗りこみました。
「セルピコ、名乗りはどうするのです?」
ファルネーゼ様です。
「放浪の騎士、ウェルズング族のジークムント。携える剣はノートゥングとでも言ってみます」
「?」
‥‥‥皆さん、ノーリアクションです。狐に馬鹿にされた様な顔をしています。まあ‥いいんですけど‥‥。
「セルピコよお、ウェルズング族じゃ紋章グリフォンだとおかしくねえ?」
イシドロさん、そうきましたか。では無難な処で憂いの騎士トリスタンとでも名乗りますよ‥‥。 じゃ、縁担ぎに俺付いていってやろうか?パックさんです。そうですね、妖精の騎士っていうのもいいかもしれません。
「あんたにばっか路銀の心配かけるのわりいしな。俺でもなにか賞金稼げる様な競技はないのか?」
ガッツさんです。ごつい外見に似合わず、この方意外と気遣いの人です。
「‥‥そうですねえ、剣技が比較的出やすいと思います。もし出場なさるおつもりなら申し込んできますよ」
「それは真剣勝負か?」
‥‥‥御前試合で殺すまでやってどうします。YAの作品間違えてはいませんか?くれぐれもア・プレザンスでお願いしますよ。一瞬、私の脳裏に、ドラゴン殺しを振り回すガッツさんと、阿鼻叫喚に陥る競技場が浮かびました。 では、ファルネーゼ様をお願い致します。それなら俺にも出場させろとじたばた暴れるイシドロさんの頭を、木ぎれではたくガッツさん。そんな皆さんを後目に、私はパックさんと一緒に城下町の競技場へと向かいました。
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※1:ウェルズング族には「灰色狼」という意味がある、たしか。 北欧神話の主神オーディンと人間との間に産まれた子孫の末裔を指す。 ジークムントはウェルズング族でジークリンデという双子の兄妹との間に 英雄ジークフリートをもうける。
※2:ノートゥング=英雄ジークフリートの持つ剣。
※3:トリスタン=哀しい男という意味がある。
※4:ア・プレザンス=競技で相手の身体の一部を傷つけたら勝ちとする。 反対にア・ルートランスは相手が死ぬまで戦う。
なに書いてんだよ?自分。暑くて文章まとまんないよ‥‥‥
2004年07月16日(金) |
不定期連載:セルピコさんのやりくり旅日記2(悪霊オプション付) |
しかしトーナメント・アーマー(馬上槍試合用甲冑)付けるのも久しぶりです。聖都にいたあの頃、嫌がる私をファルネーゼ様が無理矢理馬上槍試合に出場させて、やはり私が引き分けに持ち込んで、ご気分を害されたファルネーゼ様に鞭でしばかれたのも今では良い思い出‥‥。 の訳ありません。私は失礼ですがファルネーゼ様の様に、苦痛が快感に変わっちゃうタイプじゃないんです。あの頃は、お諫めしても聞く耳など持たなかったファルネーゼ様に合わせてただけで、ただ痛いだけでした。お風呂に入るとお湯が傷にしみて痛かったし。そんな時も、私の人生ってこんなモノだろうと諦めていたのですが、変われば変わるものですね。 ファルネーゼ様!キャスカさんにランス(競技用槍)の先触るの止めさせてください!危ないです。
「お、すげーじゃん!どうしたんだよ、その鎧に馬。盗んできたのか?」
イシドロさんです。失礼な、レンタルしてきたんですよ。
「いよいよ本腰入れて俺とやりあうつもりか?」
ガッツさん、貴方の思考はすぐそっちですか?旅の資金を稼ぎに行くんですよ、馬上槍試合に行くんです。
「金?なんでだよ。食い物なんか盗んでくればいいじゃん」
イシドロさん、最強剣士になりたいんですか?盗賊になりたいんですか?
「それはどうでもいいけどよ、馬上槍試合面白そうだな。俺も出られないんか?」
‥‥‥馬上槍試合は爵位持ってないと出られないんです。でも武具持ちの従者という立場なら爵位が無くても入場出来ますよ。
「なんだよ〜っ!『ROCK YOU!』じゃ紋章官が文書偽造して平民でも出てただろ?セルピコ、お前紋章官だったんだろ?俺の紋章も造ってくれよ!ていうかお前、紋章官のくせに騎士みたいな事やるのかよ?俺もつれてけよ。なんならエドワード黒太子紹介してくれよ!そしたら一発で騎士様だぜっ」
セルピコ、お前の身分の証はどうするのです?ファルネーゼ様です。 私は大丈夫です。身元がばれない様に適当に文書書きましたから。盾には緑の地に、紋様はセイリャント・ルガダントのグリフォンで、大紋章には豹と一角獣の盾持ちの柄を‥‥。 ファルネーゼ様に紋章の説明している間も、ずーっとイシドロさんは俺にも出場させろ、従者なんかやるか!エドワード黒太子に紹介しろと叫いていました。 『ROCK YOU!』なんか薦めるんじゃなかった‥‥。 それとどうか月光の騎士ロクス様など出場していませんように。こんな田舎の試合にくる訳はないと思いますが、かち合ったら瞬殺ですしね‥‥‥。
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注:甲冑のレンタルは本当にあったそうです。
2004年07月13日(火) |
不定期連載:セルピコさんのやりくり旅日記(悪霊オプション付) |
長旅に必要なのは何をおいてもまず路銀です。そのうえファルネーゼ様は絹しか着た事のないお嬢様。最近は口にだしませんが、食べ物にも少しご不満なご様子。僕のタバード(紋章官の制服)や鎧を売ったお金も残りわずかになりました。キャスカさんやイシドロさんやパックさんは行商のおばあさんから無断で売り物持って行くし‥。誰が支払いしてると思ってるんでしょうか? ともかく愚痴を言ってもはじまらないので、資金を稼ぐ事にしました。
「まあ、懐かしい。セルピコ、その馬と甲冑は何なのです?」
ファルネーゼ様ですか。この土地の領主様が御前馬上槍試合を開催するとの事でしたので、参加してきます。昼間はガッツさんがいれば大丈夫でしょう。
「でもどうして今頃ジョスト(馬上槍試合)なのです?お前はあまりやりたがらなかったのに」
背に腹は変えられません。参加して優勝すると賞金が頂けるのです。
「ジョストがお金になるのですか?」
‥‥‥ファルネーゼ様は今だご自分でお財布を持った事がない方。お金がどこから出てくるのか知りません。貨幣経済と中世都市国家の発達を説明するのも面倒です。名誉にお金も付いてくるのです等はぐらかしてたら、ファルネーゼ様は絹のスカーフを私にくれました。
「よくわかりませんが、お前が馬上槍試合も得意な事は知っています。必ず勝つでしょう。何も手伝えませんが、腕にお付けなさい」
‥‥‥ファルネーゼ様、騎士が腕に貴婦人のスカーフを巻き付けるのは、貴婦人が騎士の求愛を受け入れたって意味になるのですよ?(汗)。まあ、特に深い意味は無いのでしょうから、お気持ちはありがたく受け取っていきます。
2004年07月12日(月) |
不定期連載:「イシドロよ、大志を抱け!3」 |
今日のセルピコは何か繕い物をしていた。ファルネーちゃんの上着か何か?ここまでくるとまめな奴というより、気の毒に思えてくるぜ。未だにファルネーちゃんは薪拾いと子守しか出来ねえし。ファルネーちゃんの洗濯‥思い出したくもねいや。
「よう、セルピコ、横いいか?」 「なんですか?今日は」
黙々と縫い物をしているセルピコ。基本的にこいつファルネーちゃん以外の事に関しては冷淡だよな。何があるのか知らねえけど。
「見たぜ『ROCK YOU!』」
「‥‥‥それでどうしました?(何処で見たのでしょう??)」
「でよ、平民でもよ、エドワード黒太子の知り合いになればすぐ騎士になれるんと違うんか?」
「‥‥‥まあ、そういう場合もありますね‥‥‥(相手は王家なの解ってるんでしょうか??)」
「それと紋章官てのはよ、騎士になるとき必要になるんか?」
「ええ、まあ、トーナメント出るときとか、戦をする時も必要になりますね。傭兵になるなら必要無いですけど」
「で、紋章官ってのは賭事ですっからかんになって、裸で道に落ちてるもんなのかよ?」
「‥‥‥それはジョフリー・チョーサー個人が賭事好きなだけであって、紋章官全部が博打好きな訳でじゃないですよ‥‥」
「ジョフリー・チョーサーって誰だよ?」
「カンタベリー物語を書いた作家にして詩人です」
「カンタベリー物語ってなんだよ?」
「デカメロンみたいなモノです」
「デカメロンてなんだよ?」
「デカスロンみたいなモノです」
「デカスロンってなんだよ?」
「トライアスロンみたいなモノです」
「トライアスロンて何だよ?」
以下エンドレス‥。
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『ROCK YOU!』はこんな映画
2004年07月10日(土) |
999さん江:炎の天使 |
「何故本気でやらないの?お前の剣の腕ならどの決闘にだって充分勝てたはずよ!」 「‥そんな、買いかぶりですよ」 上半身の服を脱ぐように言われ、ファルネーゼの前に立つセルピコの身体は傷だらけだった。決闘を巧みに引き分けに導いた痕と、その後儀式の様に繰り返されるファルネーゼの鞭による詰問の跡。昔の傷が治っても、すぐに新しい傷がつく。ずっとそんな事の繰り返しだった。 詰問し鞭をくれても、新しい傷をえぐって血が流れても、セルピコは呻き声一つあげはしない。ただ、苦痛に端正な顔を歪めるだけだ。ファルネーゼにはそれが気にくわない。また傷に噛みついて傷口を開かせた。いつも、人の血は鉄錆の様な味がした。
「もういいわ、下がりなさい」 「はい‥」
セルピコは手早く衣服を整えると、就寝の挨拶をして部屋を出ていった。生傷に服地があたって苦痛であろうに、その顔はいつのもとおり平静そのままだ。ファルネーゼは気にくわない‥。
「やれやれ‥」
セルピコは夜の廊下を歩いて溜息をつく。自分の傷よりも、ファルネーゼと自分の関係に妙な噂を立てられる方が心配だった。ヴァンディミオンの令嬢は警護役の男と恋仲だと。実際、社交界でそんな噂話は囁かれていたし、そちらの方がよほどファルネーゼ様の名誉に関わる。 そして思春期に入ってから、ファルネーゼが自分にぶつけてくる感情の意味を思った。肉欲めいた思い‥。たぶんそれは愛では無く。 そうセルピコは思っていた。
「ふん、自業自得よ」
セルピコのいなくなった自室でファルネーゼはつぶやく。侮辱されたと言うのに相手を叩きのめす事もしない。ファルネーゼはセルピコが、剣の師匠を瞬く間に凌駕する様をこの目で見ているのだ。ファルネーゼはセルピコの優秀さを己の事がごとく喜んだ。それは素晴らしい馬が自分の物になった、そんな感覚に似ていなくもない。 俊足の駿馬を見せびらかしたいのに、いざ決闘となると肝腎の馬は走らない‥。苛ただしかった。いや、それだけではない。
「‥うっ、ぐっ‥」
怒りが収まると、次に湧き出てくるのは涙と悔しさに似た思いだ。それはセルピコが決闘に手を抜く事実に対してではない。彼の瞳のせいだ。 いくら鞭打ち苦痛を加えようと、セルピコの瞳にはなんの感情も浮かばない。憎しみ、哀しみ、愛、快楽、欲望すらも! むち打てば打つほど、肉体に傷が増えれば増えるほど、セルピコの薄い碧の瞳は冷え、静かにファルネーゼを見下ろすばかり‥。
「お前が悪いのよ」
涙を流しながらファルネーゼは思う。私は誰からも抱きとめられない。お母様からも、お父様からも、誰からも! 双生児の様に育ったセルピコさえも、その殻を破って自分を抱きしめてもくれないのだ。
また、彼を鞭打つだろう。ますます独りである事を確認する事になっても。
完
2004年07月08日(木) |
不定期連載:改題「イシドロよ、大志を抱け!2」 |
騎士制度についていまひとつ納得がいかないので、またセルピコに話を聞いてみようと思った。 セルピコは川で鍋を洗ってた。俺は喰うばっかだけど、まめな奴だなあ。
「なーセルピコ、ちょっと聞いていいか?」 「また女性の話ですか?イシドロさん。そういう事はちゃんと毛が生えてからお聞きなさいね」
振り向きもしないで言いやがった。しかもさらっと下ネタ言ってねえか?(汗)。ファルネーちゃん居ないと、さり気なく人格変わらねえか?こいつ‥。
「そうじゃねえよ。おまえさあ、どうやって騎士になったんだよ?やっぱ戦場で武勲たてたんか?」
鍋を洗うセルピコの手が一瞬止まる。 ピコリン、どうしたの?パックだ。
「‥‥僕の場合はなんて言うか、”ヴァンディミオン家”に仕える身分だったからなんです。一応、爵位持ってますけど領地ありませんし、ファルネーゼ様くらいの令嬢になると警護役にも爵位が必要なんですよ」
「??じゃあ、おまえファルネーちゃんと知り合いになったから騎士になれたんか?」
セルピコ、何かじーっと考えてる感じだ‥。
「‥‥‥ん〜まあ、そうとも言えますねえ‥‥‥」
「じゃあよ、俺もファルネーちゃんと仲良くなれば騎士になれるんか?」
「‥‥‥今は無理だと思いますよ」
「剣とかよ、どこでおぼえたんだ?」
「‥‥師が教えてくださって、後は聖鉄鎖騎士団に入ってからいろいろ‥。それに僕、紋章官だったから基本的に戦いには加わらないんです」
「紋章官てなんだよ?」
「‥‥『ROCK YOU!』でも見ればわかりますよ‥‥」
セルピコは面倒になったらしくて、もう俺に話ししてくれなくなった‥。パックが生ぬるい表情で肩叩きやがった。 て『ROCK YOU!』ってなんだよ!?
2004年07月07日(水) |
閑話:不定期連載「少年よ、大志を抱け!イシドロ君」 |
俺がガッツ相手に剣術指南受けてる横で、セルピコの野郎いつものとおりパックと食事の用意してやがる。まったくふにゃふにゃした野郎だぜっ!ん、まてよ、奴は貴族で騎士なんじゃなかったっけ?あんなんで騎士が務まるのかよ。ちょっと聞いてみるか、お貴族様の騎士ぶりって奴をよ。
「ようよう、セルピコ。聞きたい事があるんだけどよ」 「なんですか?」
鍋かき回しながらセルピコの野郎、パックと「肉料理にはローズマリー入れた方が良い」とか料理の話なんかしてるぜ、けっ!男が料理なんかするもんじゃねえ。
「おまえさ、貴族で騎士だろ?」 「ええ、まあ、一応‥」 「やっぱ騎士だと女にもてるのか?」 「そういう話は女性がいる場所でするもんじゃありませんよ」
ち、セルピコの奴、ファルネーちゃんの事気にしてやがる。キャスカ姉ちゃんのお守りに精一杯だから聞いてなんかいねえよ。
「女性にもてると言いましても、イシドロさんは将来騎士として貴婦人とおつき合いしたいのですか?」 「へへ、まあ、一応な‥」
最強剣士だったら綺麗なねーちゃん選り取りみどりだよな、やっぱ。
「社交界での騎士の貴婦人への愛は半端な気構えじゃ出来ませんよ?まず、お慕いしている女性に尊敬と献身を誓うんです」 「献身て何よ?」 「平たく言えば”尽くす”って事ですか」 「尽くしてなんだ、贈り物でもすればいいのか?」 「まあ、そんなのもあありますけど、まずは即興で貴婦人に捧げる典雅な詩を作ったり、あ、下手くそだと鼻で笑われますよ。馬上槍試合でその女性の為に勝利を誓うとか、とにかくプラトニックに尽くして尽くして尽くしまくるんです。それで絹のスカーフ一枚頂けたらそれで良しとするくらいの気合いが必要ですよ!」 「‥‥‥」
ついていけねえ話だな(汗)。それにいつも慇懃無礼で感情を込めない話し方のセルピコが、今日はヤケにマジ入ってた。ファルネーちゃんと何かあるのか? ともかく話は経験積んで最強戦士になってからだな。
後でガッツに、セルピコは騎士って言ったってたいしたことなさそうじゃんと言ったら「お前、断罪の塔でセルピコのクシャーンとの戦いぶり見てないのか?今のお前じゃセルピコに簡単に瞬殺されるぞ?」と言われる。 え?‥‥(汗)。
2004年07月03日(土) |
チェルノボーグ:白い神と黒い神 |
Tchernobog:チェルノボーグ(黒い神)
初め世界は全て水に沈んでいた。 水には白と黒のホオジロガモが泳ぎ、それぞれに 白の神と黒の神が乗っていた。 黒の神は白の神より言われた通り水底から土を取ってきた。 白い神は平原と広野を創った。 黒い神はその上に岩山を乗せた。 やがて白と黒の神は軍勢を持ち争い始め、 長い戦いの後、黒の神は大地に落とされた‥‥。
薔薇は終わり百合の香がむせる様に漂う季節、私は独りの時間を持つようになった。理由は突然の私の貴族の称号にあり、今まで対等な立場でいた使用人仲間が私との間に距離を置くようになったからだ。妬みもあったのだろうが、彼らには私が一生ファルネーゼ様の面倒を見るようになったのだと、半ば哀れみの気持ちも抱いていた様に思える。 遠巻きの憐憫の視線‥。 私は本を読むことをおぼえ、時間を過ごす事をおぼえた。
「‥‥!」 中庭の椅子に座っていた私の背後から、ファルネーゼ様が服地の上から私の腕に噛みついたのだ。 「つまらないわ。最近お前は何をしても呻き声一つあげないのだもの。私を放っておいて何をしているの?」 血が滲んだろうか?子供の顎の力は案外強いものだ。 「‥‥本を読んでいました。ファルネーゼ様はご用があるとの事でしたので」 「ふ〜ん、どんな内容なの?」 「ずっと北の国の神様の話です」 「読んで聞かせて」 「はい?」 「お前がその本を読んで私に聞かせるの。きちんと終わりまでね」 「え?は、はい‥」
初め世界は全て水に沈んでいた。 水には白と黒のホオジロガモが泳ぎ、それぞれに 白の神と黒の神が乗っていた‥
要領を得ないまま私が朗読を始めると、ファルネーゼ様はもう一度私の二の腕に噛みついた。肉を噛みちぎらんばかりの力を込めて。
「ぐっ‥」
私は苦痛を喉の奥で押し殺し、北の国の神々の話を読み続けた。
‥‥長い戦いの後、黒の神は大地に落とされた‥‥。
「これで、終わりです」 「ふう‥」
噛みつくのをやめたファルネーゼ様の額は、うっすらと汗ばんでいた。
「北の国には神様が沢山いるの?」 「さあ‥私は存じません。ただ本を読んだだけです」 「神様はお一人だけよ。良いことも悪い事も一人でお決めになるの。そして悪い子は火にくべられるのよ」 「‥‥」
私は聖都の神なるものを、幼いこの頃から信じていなかった様に思う。
「もう少ししたら舞踏の教師がくるわ。いつもの様にお前が相手をするのよ。先に行って待っているわ」 そう言ってファルネーゼ様は私の返事も聞かずに、舘の方へ中庭の花々の中に消えていった。
「‥‥」 私は服の袖をまくり、ファルネーゼ様に噛みつかれた痕を見た。服地の上から噛まれたというのに、その傷から血が滲み出ていた。 百合の花の香は、何故か血の匂いに似ている。 ファルネーゼ様のそういう行いの意味を、まだ幼かった私は解らなかった。
『セルピコ、もしも白い神と黒い神がいるならお前はどちらの側?』
答えかねる質問だった。たぶん、この庭の白い神と黒い神は表裏一体であろうから‥。
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