小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
※気が向いた時に書き込まれますが、根本的に校正とか読み直しとかをしないので、誤字脱字、日本語としておかしい箇所などは軽く見なかった振りをしてやって下さい。

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春夏秋冬3(笛/真田一馬)。
2008年10月31日(金)

 幸せではなかったけど、救われた気がしたあの気持ち。








 大学の構内では紅葉が始まろうとしていた。
 春に白い花(厳密には花じゃなくて苞というらしいけれど)をつけたハナミズキの葉が、茶色くなって風に揺れている。
 十月半ばの曇り空は、とても清らかな淡いグレーをしている。暖房が入るようになった図書館では実感がないけれど、外はやや肌寒い温度ということが、入ってくる学生さんたちの服装からわかった。

「矢野さん、返却お願いします」

 声をかけられて、わたしはその持ち主のほうに身体を向ける。少し前からたまに話すようになった、文学部の四年生がかるく本をかざして笑っていた。
 大学の一限めに当たるこの時間帯、図書館には利用者が少なく、司書の数も少ない。

「はい、ちょっと待って下さいね」
「急がなくていいですよ」

 少し日に焼けた黒髪をした坂木さんは、小走りをしかけた私を笑って見ていた。夏頃に就職が決まり、卒業単位も取り終わって今となっては、卒論の準備をしていると聞いてる。
 穏やかな容貌の彼が、中学高校と図書委員だったという話を聞いたときはぴったりだと思った。細身でスポーツはあまりしなさそうな、いかにも文学少年のイメージだったから。

「引っ越し、終わったんですか?」
「はい。元々荷物も少ないですから、結構楽でしたよ」
「へぇ」

 透明なカバーでコーディングされた専門書のバーコードを読み取り、返却手続きを行う私を、坂木さんがカウンターの向こう側で見守る。
 ここで働き始めて半年以上、利用者の知り合いも結構増えてきた。けれど自分を知っている人が増えるということが、今はちょっと居心地が悪い。

「ただ布団が薄いので、そろそろちゃんとしたの買わないとって思ってるんです」
「ああ、最近寒いですもんね。矢野さん細いからあんまり丈夫そうじゃないし」
「そう見えますか?」
「うん。細いっていうか、薄い?」
「薄いって」

 どんな感じですか。そう思いながら苦笑すると、彼も「すみません」と苦笑まじりに謝った。すこし快い空気が生まれて、顔を見合わせて笑い合う瞬間。
 自分の仕事があって、それをこなして、終業時間がきたら一人住まいの自分のアパートへ帰る。休日は少しどこかに出かけたりして。
 静かで穏やかな時間だった。秋の空気によく似合う。

「じゃあ、また」

 軽く手を振って自習室のほうに去っていく坂木さんを、軽く会釈をして見送る。
 ここでわたしまで手を振ったら、なんだか少し距離が近すぎてしまう気がした。彼のほうがどうであれ、わたしはまだ誰かと近距離の関係を築きたくなかった。
 夏に一度家に戻ったものの、わたしは九月の半ばにはまたあの家をでていた。
 カウンターの中で、手続き処理を行うパソコンのマウスを触りながら、夏の頃を思い出す。
 騙し討ちをしたようなものだった。まるでまたあの家にいるように振る舞い、少し買い物に行ってくるような素振りで家を出て、それから戻っていない。
 二度目の置き手紙。ごめんなさい、でも大丈夫です、ちゃんとどこかで暮らします。それだけ書いただけの手紙。親不孝にもほどがある。
 でも今度は妹宛にもこっそり残してきた。『真田さんのところには行かないので、安心して下さい』。何が安心なのか、自分でもよくわからなかったけれど。
 本当の意味で一人で暮らして一月。寂しさを感じたことは一度もなかった。自分が心底から薄情で冷淡なのだと思い知った。

「お願いします」

 物思いにふけりかけたわたしを邪魔してくれたのは、カウンターに置かれた二冊の文庫本だった。
 いまは仕事中。自分を叱咤しながら顔を上げると、ものすごく冷ややかにわたしを見下ろす黒い双眸と目が合った。

「仕事中になにぼーっとしてんの」

 絶対零度の声。癖のない黒い髪が、身体の小さな動きひとつでもわずかに揺れている。仕立ての良いベージュのジャケットをボタンを留めずに着たその姿。
 学生じゃない。教職員でもない。象牙の塔の住人じゃない人。俳優のように綺麗な顔は、なかなか忘れられるものじゃない。

「久しぶりだね。全然連絡ないからどこにいるのかと思ったら、まだここで働いてたんだね」
「……お久しぶり、です、郭さん…」

 声を出すのに少し時間がかかった。
 どうしてここに、なんでうちの図書館の本を。
 そう私が考えたのを見越したのか、郭さんは文庫本と一緒に出していた名刺サイズのICカードを突きつけた。いつか、わたしに免許証を突きつけたように。

「この大学、市立図書館の貸し出しカード持ってて、手続きすれば外部の人間でも貸し出しやってるでしょ」
「それは…そうですけど」

 でもそれは、近郊の市内在住の人に限られたはず。郭さんは本籍は東京で、今住んでいるのは中国地方のはずだ。
 一体どうやって、と思ったわたしの目に入ったのは、郭さんが突きつけたカードの氏名欄だ。
 郭英士、と記載されているはずのそこに記されたいたのは、別人の名前だった。
 真田 一馬

「これ、真田さんの…」
「そう。一馬の借りてきた」

 悪びれずに堂々と他人となりすまそうとしている人に、わたしは何を言っていいのかわからなくなる。
 うちの図書館では、当人以外の貸し出しは認めていない。返却は代理人であっても構わないけれど、貸し出しのときは必ず本人に来てもらっている。
 たとえ郭さんであっても、それは守らなければならない。

「ダメです」

 ちゃんと言えた。はっきりと。
 柳眉をひそめた人に、わたしは断固言い張った。

「他の人が使うわけにはいきません。真田さん本人でないと貸し出せません」
「ちゃんと返却すれば誰だって同じでしょ。どうせ学生だって同じようなことしてるんだろうし」
「確かにそういう慣例はあるかもしれませんが、別人であることをわかっている上で貸し出すわけにはいきません」
「なにいい子ぶったことを」
「貸し出しを含めた蔵書の管理を任せられているのはわたしたちです。利用者に公平に蔵書を貸し出せる環境を整えるのが司書の仕事です。皆さんルールに沿って本を借りにいらっしゃいます。サービスは公平に与えられるものですから、わたしの一存で、ルールを曲げるわけにはいきません」

 負けるものかと郭さんを見据えると、彼は少し驚いたように目を細めた。
 ふぅん、と小さく息を吐くと、突きつけていたカードをジャケットのポケットに入れていた財布に戻す。

「なるほどね。…意外と職務熱心だね」
「…すみません」

 思った以上に郭さんがおとなしく引っ込んだので、なんとなくつい謝ると、それが逆に面白くなかったのか軽く睨まれる。

「自分の仕事をやり遂げたくせにあやまんないで欲しいんだけど。この場合は俺が悪いんだから」

 それなら最初から睥睨するような態度はやめて欲しい。そう言ったところで、また冷たく言い返されるだけだからやめておいた。
 悪い人じゃないけれど、この人はわたしの一部分をすごく嫌っている。そのぐらいわかる。

「家に戻ったって聞いたけど、またこっちにいるんだね」

 すぐ立ち去る気がないのか、郭さんはそのまま会話を始めた。カウンターの中に他の司書がいないこともあって、わたしもその話題はやめて欲しいとは言わなかった。
 郭さんはわたしが真田さんのところにいた二ヶ月を知っている、数少ない人だ。

「大学の夏休みが終わった頃からはこっちにいます」
「また誰かのところに押しかけて?」
「…いいえ、今度こそ一人暮らしです」
「ふーん。大変だね」

 全然労られている気がしない。立ったままの彼と、座っている私では、立ち位置からして見下ろされている。

「一馬に連絡してないでしょ」
「…………………」
「どこに住んでんのか知らないけど、このへんにまた住んでるなら連絡ぐらいしたら。薄情者」

 …ああ相変わらずこの人は厳しい。私情も含めて、真田さん寄りの姿勢で手厳しい。
 連絡をしなかったのは、もう関わりたくないとかじゃなくて、なにを話せばいいのかわからなかったせいだ。
 真田さんのところで暮らしていない今のわたしは、この先どんな関係を築けばいいのか全然わからなかったからだ。

「心配してたよ」

 うつむきかけたわたしに降ってくる郭さんの声が胸に痛い。
 行き場所のない見知らぬ人間を家に連れて帰ってしまうような真田さんだ。情深い彼が、二ヶ月同じ家で暮らした人間のことをすぐ忘れるわけがない。

「それを言いに来たんですか」

 ふと無性にいらだちがこみ上げた。
 放っておいてくれればいいのに。わたしに構おうとする郭さんをすごく嫌だと思った。でも顔は上げられなかった。カウンターの木目を睨み付ける。

「一馬のところに妹が来たってさ」

 心臓に太い釘を打たれた気がした。
 足りなかった。妹に対しての説明が。もう真田さんのところには行かないと、もっとちゃんと言っておく必要があった。いくら言葉を重ねたところで、妹にとってわたしが、もう信頼の置けない姉になっていたとしても。
 顔を上げた私の目に、これ以上ないぐらいひややかな軽蔑の色を浮かべた郭さんの表情が見えた。

「俺たちが、一種の人気商売やってるってこと、知ってるよね。そういう問題ははっきり言って邪魔なんだよ、いろんな意味で」
「…はい」
「柏の真田は、決して楽にその地位にいるわけじゃないよ」

 知っている。たった二ヶ月でもそばにいたのだから。
 人生の長くても十年前後しか続けられない、プロスポーツ選手としての人生のために、彼が実施してきた努力の日々。
 自分が食べていくため以上に、真田さんはサッカーが好きで、それを職業にしていることを嬉しく思っているということ。
 郭さんが何を言いに来たのか、わたしはやっと理解した。
 たった一時わたしと関わったばかりに、くだらない問題で彼を煩わせていいはずがない。わたしの問題はわたしが責任を負うことだ。
 かつん、と音を立てて郭さんはカウンターの上に真田さんのICカードを置いた。

「一馬本人に言い訳したいなら、これ貸すよ。返すついでに謝罪でも土下座でもすればいい。人間関係の潤滑油は口実とタイミングでしょ」
「………………」
「待ってても、たぶん一馬はそっちに連絡したりはしないよ」

 最後の一言はよく意味がわからなかった。わたしは真田さんからの連絡を待ったことはなかったし、連絡が来なくても当然だと思っていた。
 カードを手に取ろうとしないわたしを、郭さんは今度はあわれんだように見やった。

「あのさ、別に何もまた一緒に暮らせとは言ってないよ。せっかく出来た友達ぐらい大事にすれば、って言ってるだけ」
「…ともだち」

 なんだろう、そのなんだかすごく違和感のある言葉。
 友達だったんだろうか、わたしと真田さんは。
 わたしは(真田さんは)、これから友達になるんだろうか。
 よくわからなかったけれど、カードを取らなければ郭さんは退散しない雰囲気だったので、手を伸ばしてその薄い合成樹脂のカードを手に取る。ありふれたプラスチックを、思わず両手の上に載せてまじまじと見つめる。
 真田 一馬
 あの二ヶ月を、彼はいまどう思っているんだろう。

「じゃ、俺はこれで。その本戻しといて」
「あ、は、はい」

 持ってきた文庫本をそのままカウンターに放置して、郭さんは背を向けた。
 その姿が図書館の回転扉から出て行くのを見ているうちに、一限が終わる鐘の音がスピーカーから流れ出す。わたしの手元には一枚のカード。
 郵送すればいいのかもしれない、だけどわたしには確認しなければならないことも、謝らなければならないことがある。
 本当に家とのつながりを断ち切るのなら、わたしは職場を変えて、住むところを変えて、もっと遠くへ行くべきだったのかもしれない。
 いつも中途半端。いつも最後の最後で自分に甘い。
 手元のカードを見つめて出たためいきは、一体なにが理由なのかわたしにもわからなかった。








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 約二年ぶりの更新です!(開き直り)
 前のはこちら

 私はたぶん笛キャラ(ヒロインズも含め)誰よりも英士を美人として書いているとしみじみ思う。
 女の子はね、あんまりあからさまに美形を強調して書くとつまんないので(言動とかにさりげなーくその子の美点を入れ込むような書き方が好きです)。
 しかし英士に関してはとことん「この人キレイ系の顔してますよ」とガンガン書きます。切れ長一重の白皙黒髪オリエンタルビューティ。黙っているほうがより際だつ美貌!(妄想こんにちはワールド)

 結人は喋ってるほうがかっこいい(その場の雰囲気を楽しくさせる系)というイメージなので、見た目よりも台詞回しと動作描写をがんばります。
 真田は口は達者じゃないし、上二人に比べちょっと平凡風として、根っこの誠実さとちょっとした精悍さが売りかな、と思っているので、荒削りな部分と真摯さをあからさまじゃなくて滲みでるように書いているつもり。あくまでもつもり。

 アンダートリオは三人同時登場パターンが結構多いので、書き分けはこういう感じでやってます。
 書き分けが成功しているのかはまた全然別の話です。

 ところで初音ミクがなんていうか、むずい。
 ちなみに作曲なんてできないので、既存曲を歌わせるのが基本です。加えて絶対音感なんてものものないので、楽譜ないと無理むり。
 現段階の目標は「きらきら星を歌わせよう★」です。
 できあがったら聞かせろと(身内だけからの)要望があるので、プレミアムの特権である動画うpデビューもしてみようと思いますが…いつになるの?(人に聞かせられるレベルっていつになったらなれるのか)
 ふがいないマスターでごめんよ、ミク。
 そもそもうちのVAIOさんのスペックでミクは、正直ちょっときつい。というかひどい。ボカロのためにスペック増強を本気で検討中。
 歌姫いっしょにがんばろう!(うちのPCは文字書ければそれでいいと思ってた)

 一言メールのお返事すごく遅くなっててすみません。
 明日には全部お返事しきれると思います。






再録:空の詩(笛/渋沢と三上)。
2008年10月02日(木)

 いつも相手のほうが空に近い場所にいる。








 渋沢克朗が三上亮を見つけたのは特別教室棟四階のさらに上だった。


「…見つけたぞ、三上」


 意識的に低くなった声がむき出しの青空の下で響いた。
 呼び掛けられた本人は激しく驚き、寝転がっていた屋上の給水搭の上で慌てて身を起こした。

「……んだよ、渋沢かよ。寝てんだから起こすんじゃねーよ」
「寝惚けたこと言ってるんじゃない。今何時だと思ってる」
「一時半」
「いくら五時間目が美術だからって、毎時間サボるな」

 下から仁王立ちになって見上げてくる友人に、三上は大仰なためいきをついた。
 気だるそうに前髪を右手でかきあげ、視点に差がある渋沢と楽に話すために給水搭の上を移動する。しかし多少移動しようとも給水搭の端で両足をぶら下げて座る三上に、降りる意思は欠片もない。

「いいじゃねぇか。どーせ最後の時間に作品仕上がってりゃいいんだろ?」
「それでも教室にはいるべきだろう」
「いいっての。他の連中が喋りまくってんだろ。あんなうっせーとこで寝られるか」
「三上、授業は寝るものじゃない」
「ハイハイハイ、マジメな委員長は問題児捕まえんのに苦労してんのな」

 延々と続きそうな諌言というよりは説教めいた言葉が鬱陶しくなり、三上は適当に手を振って渋沢を追い払う仕草を見せた。渋沢は若干傷ついたような複雑な表情になる。

「…別に俺は、委員長だからとかそういう理由でこんなことやってるわけじゃない」

 視線は上を向いているというのに、渋沢の目は三上からやや外れた場所を見ていた。
 秋風に三上の黒髪がさらりと揺れ、遅れて渋沢の茶の髪も揺れた。それを見下ろしながら、三上は滅多に見ることのない渋沢を見下ろす位置で彼の髪の色が自分と相当かけ離れていることを改めて感じていた。

『すっげー色じゃん、染めてんの?』

 渋沢に初めて会ったとき、まず三上の目に入ったのは長身と髪の色だった。
 無遠慮にそう言ってきた三上を渋沢は邪険にすることなく、どこか困ったように笑ったのを覚えている。

『いや、地毛だ。…すまん』

 なぜ謝るのかそのときはわからなかったが、今ならわかる。相手の期待を裏切ってしまってすまないと、渋沢は言いたかったのだ。
 制服の脚をぶらつかせながら、三上は口の中で「苦労性」と呟いた。

(イイ奴ほど早死にするってのによ)

 放っておけばいいだろうに、渋沢はいつも三上を見捨てない。
 たとえ作品が仕上がっても教室にいないことが知れれば欠課となり、卒業資格の一つである成績がつかない事態になる。ただでさえ美術の教師と折り合いの良くない三上の性格も慮った上で、渋沢はここまで探しに来たのだろう。


「…なんでお前、俺なんて相手にしてんだ?」


 光に透けると琥珀のような輝きを増す髪の彼に、三上はかねてよりの疑問を問い掛けた。
 品行方正を絵に描いたような渋沢に対し、自分が反対に位置することぐらい三上も理解している。部活と寮が同じでなければきっと友人になどならなかった。あるいは、なれなかったというべきか。
 渋沢は三上の疑問に、例のどこか困ったような笑みで答えた。

「なんで、って…友達なんだからほっとけないだろ?」

 それ以外ないような口調だった。
 ともすれば白々しく言う綺麗事のようになってしまうだろうに、なぜか渋沢が言うと嘘の匂いがしない。彼はそのまま三上を友という分類に加え、表明出来る勇気があった。
 己の信じるものを自分の真実にしてしまえる強さ。三上は自分が持っていないそれを、渋沢が持っていることにかすかな羨望を抱いた。
 
「三上?」

 黙った三上を不思議そうに渋沢が呼ぶ。
 時折、その強いが故の鈍さがたまらなく鬱陶しいと言ったら、彼は傷つくだろうか。
 数秒だけ風に髪をなぶらせた三上はそう考えた己の根性の汚さに内心で舌打ちする。忘れろと言い聞かせる。渋沢の友でいたいなら、と。
 振り切るように給水搭の端を後ろ手に押し、飛び降りる。
 タン、と軽い音を立てた足と同時に膝を曲げ、衝撃を殺す。
 勢いで片膝と右手が屋上に触れた。

「…身軽だな」
「慣れてんだよ、こんなの」

 立ち上がり、軽く手を払いながら三上は素っ気無く言った。空気の流れで背中のほうへ行ってしまったネクタイを直し、渋沢を見る。

「で? 戻るんだろ?」
「え? あ、ああ。…いいのか?」
「成績つかねーと進級関わるし、かったりーけど」

 ちらり、と三上は渋沢を見たが渋沢の表情は変わらない。

「…お前にこれ以上手間かけんのもアレだろ」

 吐息のように言うと、三上は渋沢を置いてさっさと歩き出した。
 追いかけながら渋沢は笑う。

「アレってなんだ、三上」
「ニュアンスでわかれ」

 ふんと鼻を鳴らす三上だったが、渋沢はそうかと言って納得していた。

 二人が去ると、屋上には太陽の光だけが残された。









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 再録です!(堂々と)
 5年前の!!(そのころわたしは2●歳)
 十月一日は三渋の日!(昨日です)

 こういう渋沢と三上のうだ〜っとした話を書くのが好きでした。いや今でも好きなのですが。
 これたぶん書くのに一時間ぐらいかかってます。小ネタとはいえほどほどに時間かかります。その三分の一は書いてるんじゃなくてキーボードの上に手だけ置いて唸ってます。
 …いやーほんとねー学生時代、ヒマだったわー。

 そしてこの頃が一番、地の文で「●●が言った」とかの、どの台詞を誰が言ったか書かなくてもわかるようにしよう!という意識が働いていた時期だと思います。
 まあ渋沢と三上ならね、一人称の表記は同じでも、口調ががらっと違うので書きやすかったですね。女子の集団の書き分けほどむずかしくない。

 過去のものの大半はもう読み返せないようなものばかりですが、最近もう吹っ切って出せるものは全放出していうかと(昔再録はしません、と言ったのを翻してすみません)。
 Xねんまえ? それはもう別人が書いたものだ。




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