小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
※気が向いた時に書き込まれますが、根本的に校正とか読み直しとかをしないので、誤字脱字、日本語としておかしい箇所などは軽く見なかった振りをしてやって下さい。

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オセロ(笛/三上亮)。
2007年12月30日(日)

 きっとそれは同じこと。









 雑巾を絞った手はくさい。
 大量の埃を水で捏ね合わせ、カビが生えかけた繊維に塗りたくったような匂いがする。もちろん実際には、さらに複雑な匂いがするのだが一言で表すならばそのまま「くさい」の三文字だ。

「…なんで学校の雑巾っていつも同じ匂いなんだよ」

 水を出しっぱなしの流しで雑巾をすすぎながら、三上亮はひとりごちだ。
 彼の隣では、バケツの中で丁寧に雑巾を洗っている少女が苦笑する。

「雑巾なんでみんな同じものでしょう?」
「いや、ぜってぇ違う。寮のより絶対こっちのがくさい」
「それはきっと、寮の雑巾はたまに洗濯機でまとめて洗っているせいね。学校のは手洗いしかしないもの」

 当代の生徒会長の洞察力は的確だった。なるほど、と流した水で適当に汚れを揉み洗いしながら、三上は納得する。
 秋とはいえ陽が暮れる前の水はさほど冷たくない。あまり生徒が寄り付かない生徒会室の前の廊下で、布きれを洗う水音が穏やかに響く。

「ありがとう、手伝ってくれて」

 最も泥で汚れた雑巾を洗っている生徒会長が、バケツの水を流しながら三上に向かって笑った。はにかむようなかすかな笑い方のそれは、どこか申し訳なさを帯びていた。
 バケツの底に溜まった泥を見て眉間に皺を寄せながら、三上は「別に」とつっけんどんな返事を戻す。
 しかし彼女のほうはそんな三上の態度にも慣れており、大して気にした様子もない。

「三上、シャツもうちょっと捲り上げないと濡れるんじゃない?」
「緩んでるのわかるけど、クサイ手でシャツ触りたくないんだよ」
「…まったく」

 苦笑一つの後、同じ学年の彼女は雑巾を空のバケツの中に入れ、手早く石鹸で手を洗った。制服のポケットの中からハンカチを出すとさっと手を拭く。
 その、付き合っていた頃は三上の髪に触れていた手が、白いシャツの袖口を落ちないようしっかり捲り上げた。

「はいどうぞ」
「どーも」

 どういたしまして。そう言って笑ってしまえる三上の元彼女は、別れて三年経っても三上のそばにいた。
 何のてらいもなく他人に手を貸せる彼女は、根本が善良なのだと三上は思う。人間的に好かれるのかどうなのかは別にして。
 泥まみれの雑巾は、他者の悪意のかたまりだった。

「…お前もさぁ、ヘンなところで敵作る奴だよな」
「そうね、いけ好かないんでしょうね。でも、すごいわよね、生徒会室のドアに泥塗り固めるなんて」
「関心してる場合じゃねぇよ生徒会長」

 これが自分の部の部室だったら、絶対に犯人探して半殺しにする。それが三上の本音だ。自分が被害者になったの場合に限ったが。

「問題になるだろ、普通に」
「しないわよ」

 元は真っ白だったはずの雑巾は、今はくすんだベージュ色になっている。それを先ほどより濁りが少なくなったバケツの水の中で洗いながら、彼女は平然としていた。

「そういうことがあったって顧問に報告はするけど、犯人探しとかはバカらしいでしょう?」
「アホか。高等部にもなって四階まで泥運んで嫌がらせするようなボケナス、吊るし上げて死に態晒してやるぐらいのことしろっつーの」
「嫌がらせされるほうにも原因があるかもしれないんだから」

 なだめるような口調は、どちらが悪意を向けられた側なのかわからない。三上はため息を鼻から吐き出した。
 だいぶ色を失ってきた雑巾を見て、もう終いだとばかりに蛇口の水を強く捻って閉じる。二つあった水音は一つになり、ややあって彼女のほうも蛇口の栓を閉じる。
 逆手にした三上の両手で絞られた雑巾から、水が滴った。

「さすが力があるわね」
「ほら、貸せ」
「ありがとう」

 絞り終わった雑巾と交換し、三上は彼女が洗っていた雑巾も引き続いて絞る。絞ればますます厭わしい匂いが手につくが、仕方ないと諦める。
 しかし今回の感想は諦めずに言葉にした。

「お前、いい子すんの好きだよな」
「…………」
「何されても、自分が悪かった、自分がこうしておけば相手にそんなことさせなかった、向こうにだって言い分や理由があるんだから、そんなことばっか言ってねぇ?」

 たとえば、口さがない陰口を叩かれているのを知ったとき。
 たとえば、今日こうして所属する部屋に泥を塗られたとき。
 たとえば、ろくに顧みてくれなかった彼氏と別れるときでさえ。
 彼女が黒髪の三上をじっと見つめるのがわかった。視線を合わせない三上にそちらの表情はわからなかったが、困ったように笑っている空気は感じ取れた。

「やめろよな、そういうの」

 もう、いいかげん。
 善い人間であろうとする姿は、人間として正しいのだろうが彼女のそれは歪んでいる。いい人になろうとして、相手をきちんと見ていない。温情を与えているようで、結局相手の持つ悪意という本音を受け止めようとはしていないのだ。
 こっちにも引き起こさせた原因がきっとあったんだから。
 …もしそれがなかったとしても、彼女は相手を責めないのだろうか。
 彼女が取り乱して怒り狂い、暴れて怒鳴るような姿を三上は見たことがない。たまに怒ることはあっても、途方もなくコントロールできない感情の発露を知らない。
 本当はもっと、様々な感情を心の中に持っているはずなのに、彼女は三上の前では常に「凛然と正しくそこに在る」彼女だった。

「そうね、わかってるんだけど、そのほうが楽なのよね」
「楽か? 俺ならムリ」
「それはそうでしょうね。三上には無理だろうけど、私は楽なの。…そういうことをしたりするだけの理由があった、って思えば失望しなくて済むから」

 絞った雑巾を軽く広げ、自分でもしょうがないのだとわかっている軽やかさで、彼女は笑う。

「嫌なのよ、誰かに失望したり幻滅したり、嫌いになるの。疲れるから」

 自分勝手な女でしょう? 少し困ったような顔で、笑う。
 都合のいいように事実を解釈し、相手の感情を受け止めない。『本当は理由があるのだから仕方ない』。理解を示しているようで、結局は自分が善人ぶりたいだけなのだ。
 その誠意の無さと薄情さ。完璧な生徒会長は実は誰よりも自分勝手だ。
 けれどその彼女の勝手さが、いつも三上を肯定してくれている。こいつだけは俺を嫌わない。そう思える人がいることの心強さを、一体友人の何人が理解してくれるだろうか。

「…八方美人のクソ女が」
「大きなお世話よ、口の悪い子どものくせに」
「へいへい、なんたって大きい子どもですから」
「わかってるじゃない」

 横を向けば、しょうがないと言いたげに笑う彼女。いつもの微笑みの裏側を、決して三上には見せない女。
 傷ついた顔を見せてもらえないことを寂しいと思うのは、未練というものなのだろうか。
 未だ消えない心の中の思慕と痛みを自覚しながら、三上は完璧な元恋人からそっと目を逸らした。









*******************
 以前書いていて、途中で放置していたものをリメイク。
 彩姉さんは寛容さと紙一重の怖がり。…なんじゃないかと、彼女を書き続けて6年めのいま思う。
 何をされても許そうとするは美徳だとずっと思ってきたのですが、それってただ目を逸らしてるだけなのではないかと思えるようになったのも、年齢を重ねた経験値なのかもしれません。

 一話以降すっかり見逃していた「SP」が昨日、1〜4話までまとめて再放送されていたのでHDDに録画してみました。
 観ました。
 面白い。
 友人のSEが「あれおもしろいぞ!」と珍しく情熱を込めて言っていたので(基本が理屈ものぐさ系なので滅多に熱っぽい口調は出さない)、相当おもしろいんだろうな、と思っていたのですがさすが踊る大捜査線スタッフ! という感じです。そして岡田が岡田が(繰り返す)、普通にかっこいい。
 前述の友人SEが、実は岡田に似ていると学生時代から評判で(つまり普通にかっこいい)あああいつがこのぐらいアクションやってれば皆できゃーきゃー騒ぐだろうな、とちょっと思いました(日常生活であんなアクションやられたら大変うざい)(そもそもシステムエンジニアはアクションしない)。
 っていうか目の前であんなアクションされたら、一瞬で惚れる。
 現実この友人SEは、ガリレオの湯川教授が閃いて書いている数式を全部解いてみようとする(画面静止して書き写して調べて解く)超理屈派なので、岡田のようなアクションは絶対にしない。

 ところで、いま仕事ではATOKを使っているのですが、そっちに慣れるとMS-IMEのバカっぷりがものすごくイラつきます。ジャストシステムって本当いいもの作ったなぁ…。
 というわけで、真剣にATOK(2007か2008)の導入を検討中。長文日本語書くなら、絶対あっちのほうがいい。

〈業務連絡〉
 メールフォームのお返事更新しました。
 こちらの12/31の項をご確認ください。遅くなって申し訳ございませんでした。






もう恋じゃないと思っていた(デス種/シンとルナマリア)。
2007年12月06日(木)

 だから俺にしておけばいいのに。









「アスカ小隊長、クリスマスのご予定は?」
 同じ中隊の女性士官は、士官食堂で顔を合わせる常連だ。白いテーブルを挟んだ真向かいで突然問われ、シンはスプーンを持ったまま目を瞬かせた。
「クリスマス? たぶん、シフト通りだけど」
「あ、そうなんですか」
 じゃあ、と紅潮した頬でさらに言い募ろうとした彼女に気づかず、シンは脳内カレンダーを捲った。
「でもどっかのパーティーとかあるだろうから、警護担当で呼び出されるんじゃない?」
 首都警備隊とも呼ばれる部署のシン・アスカの日常は、一般のイベント事が発生する日ほど忙しい。現状戦時下ではなく、大規模な戦闘行為も行われていないが、国家首脳陣がテロ組織に狙われる可能性はゼロではない。
 モビルスーツのエースパイロットとして名を馳せたこともあるシンだったが、二十代に入ってからは地上勤務が増えた。
「そう…なんですか」
 藍色の髪を肩少し過ぎまで伸ばし、ゆるやかな巻き髪にしている女性士官は先ほどと同じ台詞を力なく呟いた。あれ、とシンがその差異に気づいたときは、彼女は苦笑気味に笑う。
「勤務じゃ、しょうがないですよね」
「あ、うん」
「それじゃあ、また」
 まだ食事が残ったままのトレイを持ち、軍服の彼女は立ち上がって会釈をした。見慣れたグリーンの軍服が去っていくのをポタージュスープを飲みながら眺めたシンは、一体何なのだと首を傾げる。
「…女心のわかんないバカねぇ」
 涼やかな声が、呆れがちにシンに向けられた。
 軽く上体を捻って顔を向ければ、明るい色の髪をした女性士官が冷ややかにシンを見ていた。ラベンダーブルーの双眸がそのくっきりとした顔立ちをより一層華やかに彩る。
「…どゆこと、ルナ?」
「クリスマスの予定。折角誘われたんだから、まだ予定は立たないぐらいの気遣う台詞言ってあげたら?」
 明らかに一般女性よりは多い分量の食事を載せたトレイを持ったルナマリアは、空いたシンの前の席に堂々と座る。
 彼女の指摘され、やっと先ほどのクリスマス云々の会話の流れがつかめたシンは「あぁ…」と曖昧な返事をし、食事を再開させる。
「いいよ別に」
「アンタのことじゃなくて、彼女のほうよ。どうせ独りなんだから、たまには若い子と遊んでもらいなさいよ」
「…おばさんクサ」
「なんですって、このお子様が」
 睨みつけながらも、ルナマリアにはシンの子供っぷりを鼻で笑う余裕がある。実年齢はいくつも変わらないが、彼女のこの姉のような懐の広さは士官アカデミーの同期生時代から全く変わらない。
 一時は恋人とも呼べるほど近くにいた関係だというのに、結局はこうして姉弟のような位置づけに落ち着いたのは、シンの稚気とルナマリアの情深さが影響したのだろう。そばにい続けるには、お互いまだ友愛の思いのほうが強すぎた。
「仕事、どう?」
「んー異動したばっかで、まだ慣れないとこはあるわね。でも色々忙しくて刺激的だし、飽きなくて面白いわよ」
 近況を尋ねたシンに、ルナマリアはフォークとナイフを動かしながら快活に答えた。
 忙しさをただの疲労とは言わず、刺激的だと言い換える彼女のその前向きさに、シンは思わず頬を緩ませる。彼女のそういうところが昔から好きだった。
「ルナはしっかりしてるから、どこ行ってもやってけるよなー」
「そりゃ、気に入らないところに矛突き刺して回るシンとは違いますから?」
「はいはい、問題児はどこ行っても問題児ですから」
「わかってるじゃない」
 くすくす笑うルナマリアの優しい声がシンを包む。
 ああここがお互いの私室とかだったら、髪とか撫でられたのかな。そんな気持ちでシンも笑い、落ち着いた空気が流れた。
「…ルナはクリスマスどうすんの?」
「さあ、シンと一緒でシフト次第でしょ。仕事か寝てるか、友達と飲み行くとかすると思うわ」
 さらりと答えたルナマリアは、切ったハンバーグをフォークで口に運んでいる。グラタンのエビをつついていたシンは、彼女のそのあっさりした口調に不思議さを感じた。
「あれ、噂の青年実業家どうなったんだよ」
「終わった話よ」
「……………」
「…また終わったのかよ。続かないよな、ルナは」
「うるさいわね」
 うつむいたまま呟かれ、シンは黙った。いつも強気のルナマリアに泣かれると弱い。よもや職場の食堂で泣き出すほどの女ではないが、悲しそうな顔は見たくない。
「…というか、なんでシンがその話知ってるの」
「ん?」
「青年実業家。私、シンにその話したことないけど」
「メイリンから聞いた」
 あのおしゃべり、と眉間に皺を寄せながらルナマリアは妹の口の軽さを唸る。その困ったような顔が妙に可愛らしく、シンは彼女に気づかれない角度で苦笑した。
 過去のことを考慮しているのか、余計な口を挟まれたくないのかはわからないが、ルナマリアは現在進行中の恋愛話を絶対にシンには言わない。シンが彼女の口から聞くのは、すべて終わった恋の話だ。
「…いいのよ、もう、終わった話なんだから」
 何も訊いていないというのに、ルナマリアは何かに言い聞かせる口調で言った。
 恋破れる原因が何であったのかシンは訊く気にはなれない。相手の人柄や職業、ルナマリアとの相性、いきさつや過ごした時間。そんなものはどうでもよく、今はただ少なからず傷ついた様子だけが気に掛かる。
 明るくて快活、強気で情深く、綺麗でやさしい。シンにとってルナマリアの美点はそれらで占められている。多少口うるさいとか言葉がきついとか、そんな欠点はあっても、それら含めた彼女が好きだった。
 また俺にしとけば? そんな言葉を胸にしまって、シンはグラタンのエビを一つルナマリアの皿の端に置く。
「ほら、俺のエビやるから元気出せよ」
「…あのね、食べ物あげれば機嫌良くなるとか本気で思ってるの?」
 このお子様。
 呆れ半分、やさしさ半分でルナマリアが笑う。
 ラベンダーブルーの瞳は真っ直ぐにシンを見ている。いつもそうやって、彼女はシンをたしなめ、シンを肯定する。
「だってルナ、食べるの好きじゃん」
 子供じみた言い方をすると、ルナマリアが笑ってくれるのを知っている。自分のために。それをわかっていて、シンはいつも彼女の寛容さに甘えてきた。
 この気持ちは、もう恋じゃない。たぶん。
 そのことに一抹の寂しさと切なさを感じながら、それでもシンは何でもない顔をして彼女のそばにいる。会いたいとか声が聞きたいとか、そんな甘えは一切出さない顔を作ることはもう慣れた。
 ばかねぇ、と言葉とは裏腹に笑う、いつまでも大事な人。
「…クリスマス、予定空いてたら俺といる?」
「いて下さい、でしょう?」
 いいわよ、と快諾した彼女の心が今どこにあるのかシンは知らない。わかるのは一緒にいるときの居心地の良さだけだ。昨日今日知り合ったような人間には出せない空気と、親密な時間があったからこその安堵感。
 また恋に戻すのは簡単かもしれないが、そうしたくもない気持ちもあった。
「クリスマス、かぁ」
「シフトが合うといいわね」
 何の気も無いようなあっさりした声音で言うルナマリアに、シンは心中の複雑さを込めて苦笑がちに笑ってみせた。









***********************
 ……………久々すぎる。すいません。
 たぶんデス種後のシンとルナマリー。
 私はあの二人のカプリは「えっちょっ待って…!」という感じで受け止めたので、彼氏彼女としてはそのうちうまくいかなくなって自然に友達に戻る、ぐらいの道筋を想定してました。そしていつまでも未練があるのは絶対にシンだと思う。
 そして捏造と妄想に走る。種で誰が好きかっていったらシンなのです。

 そんな旧作になった運命の主人公はさておき。マルが二つのアレですが、未だ一話も観てません(………)。
 レンタルを待つよ私は。
 そういえば種の映画版はどうなったのでしょうか。




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