小ネタ日記ex

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はじまりは五分(笛/三上亮)(未来編)。
2007年08月31日(金)

 最初からそんなものはなかったのだ。








 待ち合わせ場所まで小走りで駆けて行く。
 約束の時間まではまだ余裕があるというのに走らずにはいられない。焦りではなく高揚。そんな思いをしたのは、一体いつ振りだろう。
 単純に、浮かれているのだろうか。
 二十歳を何年か過ぎた年代になった山口彩は、足を休ませないままその結論に辿りついた。
 8センチヒールの音がアスファルトに響く。夏用のバッグがスカートの前で揺れる。きちんと施したはずの化粧が汗で崩れるかもしれないと気づいたのは、待ち合わせの駅が見えたときだった。
 しかし、改札への階段を上がりながら手鏡を出そうかと逡巡したときに、彩の目はもう相手を見つけていた。
 夏休みの人ごみの中でも目立つ黒髪。暑そうな表情を隠すこともなく、どこか不機嫌そうに腕を組んで立っている。
 …腕なんか組んでたら、余計暑いじゃないの。
 そう思ったとき、無意識に笑みがこぼれた。

「三上」

 呼びかけると、同じ年齢の彼は彩のほうを見た。一瞬だけ表情が緩み、それからやや余裕めかした笑みに変わる。

「おっせーよ」
「待ち合わせ時間より早いでしょう?」
「俺より後に着たら何でも遅いんだよ」

 ふんと鼻息高く言う三上亮は、堂々と高慢な台詞を吐いた。黒のシフォンスカートと明るい色味のトップスを重ねた彩は、そのあまりの言い様に唖然とした。

「あのね、三上」
「来て早々説教なんかすんなよ」
「します。聞かないなら帰るわよ」

 初夏から盛夏にかけて、三上の仕事の都合でほとんど会えなかったことなど関係ない。むしろ少し接していない間に、こちらのことをないがしろにするのが癖になっているようでは困る。
 まだ生徒だった頃の名残も手伝って、彩は手間のかかる恋人を正面から軽く睨んだ。
 帰る発言はさすがに効果があったのか、三上は反駁せず軽く息を吐く。

「…ハイハイ、俺が悪かったよ」
「何が悪かったと思ってるの?」
「……失言だった。悪い」

 彩が思った以上に、三上は素直に謝った。そのことに彩は正直驚いた。
 多少のためらいはあったようだが、こんなに素直に自分の非を認めるような男ではない。自分が悪いと思っていても、謝罪がなかなか出来ず、それでいて謝れないことを悔やむのが三上亮だ。自分と似ているからこそそのあたりはよくわかる。
 つい返す言葉を見つけられず、彩も黙った。
 雑踏のざわめきが、改札前でたたずむ二人に聞こえる音になる。それでもお互い向き合って、視線はそれぞれに向かっているのだから不思議だ。

「…ほら謝ったんだから、行くぞ」

 帰るなよ。
 小さく続けられた声は、拗ねているようでもあった。
 二十五にもなって、とは彩は言わない。むしろ大人になった彼は、少年時代の張り詰めたものがやわらいだことを実感する。
 何気なく先に改札に向かった三上が、片手をわずかに身体の後方に出している。まるで何かを包み込むように曲げられた指のかたち。彩も彼に続きながら、その手の意図を悟る。

「うん」

 背後からの微笑みは三上には見えない。それでも隣に並ぶ寸前に掴んだ手の温度は三上にも伝わるはずだ。
 好きだと思う。その手の温度が、さっきのやりとりなどなかったかのようなすました横顔が、何気なく彩が手を滑り込ませやすい手のかたちを作るようなこの人が。
 出会った頃から、二人の関係は恋だった。友達には一生なれない存在だと直感で理解していた。友愛なんてなまぬるいものは有り得ない。恋をするか、離れるか。どちらかしかなかった。十年近く前は離れることを選んだ。けれど今は違う。
 この手を繋いで離さない。それが正しいことなのだと痛いほど理解していた。

「…手、汗かくぞ」
「いいわよ、別に」

 嫌なら離してもいいからな。少し弱気なそんな言葉が聞こえてきそうな三上の様子は、彩が会うなり怒ったせいだろうか。
 もう怒ってるわけじゃない。その気持ちを伝えるのに言葉では大仰すぎる。彩は、指の長い手のひらを握りながら、ただ笑ってみせた。









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 三上と彩姉さんお出かけ編。どこに行くかは知らない。
 この二人は、最初から恋愛対象としてしか出会えないだろうから、別れても友達には絶対になれないだろうな、と思って派生したネタでした。
 あと「手を繋ぐのは持続的な努力を必要とするから、信頼と好意の両方がないとできない」というのを何かで読んだことがありまして、そこらへんもちょっと考えてました。
 ちなみに私は手を繋ぐのは相当好きな人でないとできない(基本手を塞がれるのがイヤな人)(そして女子とはしない)。

 しかし、三上編の年齢設定を決めたとき私まだ24じゃなかったんですけど、今では24ってまだ未熟な年齢だよねー、と思います。
 大人未満子供以上真っ盛り、という感じでしょうか。
 私の中の大人のイメージは、自分と家族と社会に対してきちんと義務と責任を果たしている人、という感じなのですが、まだまだです。
 そこらへんを反映してか、近年書く三上と彩姉さんはちょっとイメージが変わってきています。…変えるなよってところもありますが、まあそこらへんはうにゃむにゃ。

 イメージといえば、私は字書きであって物書きではないのです。
 物書きと名乗れるほど、具体的な「モノ」を作品で表現できているかといえばノーであり、物書きというのは広義では職業執筆者を指すからです。文章書いてごはん食べてませんからねー。
 というわけで、私が使うのは字書き(たぶん同人界の造語)。字を並べて文章作ってます。




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