帰り道は桜道。小川沿いにたくさんの桜の木があって。大好きな道。
今日はお花見をしている人達がいて。バーベキューをしていた。 すぐ近くの建設会社の人達みたいで。仕事を早目に切り上げたのかな。 わきあいあいと楽しそうにビールを飲んでいた。笑顔につられて私も微笑む。
いい気持ち。うん。今日はなんだかやたらといい気持ちだったんだ。 なにかを悩んでいたみたい。どうしようもなくくよくよしていたみたい。 悪いほうへとばかり考えて。いいことをすっかり忘れていたのかもしれない。
それはあれ。例のあれであったらしくて。もしかしたらと思っていたけど。 やっぱりあれだった。だから今日は嘘みたいに朗らかで気分が高揚していたのだ。
夜は例のバドクラブ。気分が良すぎてはしゃぎ過ぎたほどだった。 ふと気がつけば。私だけではなかった。みんながはしゃいでいるのがわかる。 よかったあ。みんなも楽しいのだなって思うと。すごく嬉しくてたまらない。
活力をいただく。年長者の私にとって。仲間たちはほんとうにありがたい存在。 この活力を無駄にするわけにはいかない。元気だけがとりえの私でありたいと思う。
今日はほんとにいい日だった。みんなみんなありがとう。
今日も花冷えの頃。北風が強くてひゅるひゅると鳴いている声。 桜はゆれて。揺さぶられるようにゆれている。だけど散らない。 くちびるをきゅっと結んで耐えているかのように咲く花だった。
散る時は見事に散ってみせる。あっけないほど潔くこの季にけじめをつける花。
そんなふうに生きたいものだ。今生のけじめをつけるために咲いて終りたいと思う。
夕暮れて日常。こころとはうらはらに。とんとんと平穏の住処に居る。 笑顔はいつも笑顔に会える。それはほんとうにありがたいひと時である。
ひとり遅れて帰宅した息子君が。「おい!いま帰ったぞ!」って言う。 洗濯物を畳みながらその声をきき。思わずぷっと吹き出してしまった。
ある日突然。なにもかも失ってしまうのではないかと。ふと不安になる。 避けられないことが今にも襲って来そうで怖くなることが。ありませんか?
わたしはあります。だからといってすすむことを止められないのが時です。
『いまを生きる』って。けっこうむつかしいことなんだなと思う・・・。
朝の陽射しにほっとしたのもつかのま。黒雲が立ち込めてきて時雨れてしまう。 冷たい雨だった。冬があがいているような。とうとう最後だと知らせに来たような。
だけど春なのにちがいない。今日を花冷えの頃と記しておくことにしよう。
わたしは。少しずつあることから吹っ切れている。 もしかしたら。もうとらわれてはいないのかも。 しれないのだ。よくわからないけどそう感じられる。
むかし書いたことがある。「その後ろ指を折ってあげる」と。 あの頃は若かったのだろう。はむかうことなどなんでもなかった。 あたしはあたしなんだと胸をはって。どうどうと生きていられた。
希望も夢もいっぱいあった。いつか世に出てやろうという欲さえもあった。 毎日書いて書いて満たされていたし。誰にも書けない『わたし』だと信じてもいた。
いつかきっと。そう思っていた。まだまだこれからだと思っていたのだ。
なのに。とうとうわたしは老いてしまったらしい。
歩めば歩むほど時が重い。その重さに押し潰されそうになってしまう。
それでもわたしは歩みたい。目標は。ただただ存在するということのみ。
書かなければ。『わたし』は死んでしまうのだから。
桜は満開の頃となる。昨日は地震。昨夜は春雷。今日は午後から寒波。 自然がとてつもなくおっきな力で。動いている活きているのが。怖い。 不安な気持ちになってしまったりするのだが。桜はとても優しかった。
こころが和む。確かに和んでいるはずなのに。どこか変だなと思う自分。 ゆらゆらとしながら落ちつかない。びしっとしたいのに出来ない苛立ち。
ひとに指摘されたことがすごく気になる。そんなんじゃないって思うのに。 そうなのかもしれないと思う。傷ついてなどいないはずなのに痛さを感じる。
もっと堂々としていようと思うのだけど。してはいけないのじゃないかと悩む。 あまりにもちっぽけなのだ。でもその存在を否定するわけにはいかないと思う。
日常とかけ離れたところで。そんな自分に何度も会ってしまうのだけど。 こころというものは。やっかいなものらしく。逃げることさえ出来ないらしい。
だからぎゅっと抱きしめてあげるしかない。
桜は七分咲きくらい。雲ひとつない青空で太陽がきらきら眩しかった。 ああ春なんだなあって。こころがほこほこしてくる。いい気持ちだなあって。
彼と家業の手作業をしながら。ふと懐かしむようにいつかの春のことを話した。 息子君がすごく駄々をこねて。どうしても行きたいと泣き止まなかったことを。 お山の公園へ行きたいのだと言う。ちいさな動物園があってお猿さんのところへ。
何かを買って欲しいとか。どこかへ連れて行って欲しいとか。言ったことがない。 そんな子が初めて見せた泣き顔だったから。なんとかしてあげたいと思う親心だった。
「そうね。お花見に行こう!お猿さんにも会えるよ」そう言って急いでお弁当を作った。
まだ赤ちゃんだったサチコをおんぶして家族四人でお山の公園に行く。 桜が満開でとても綺麗だった。息子君はよほど嬉しかったのかずっとはしゃいで。 おにぎりを頬ばる笑顔。おどけて加藤茶の真似をしたりして笑わせてくれたり。
なんだか昨日のことのようね。語り合っていると目頭がふっと熱くなるのだった。
いくつもの春が。それから何度巡って来たのだろう。それぞれの春を遥かに想った。
作業を終えて帰宅すると。お休みで家に居るはずの息子君が出掛けていた。 いつもゲームばかりしているのに珍しいなって。ちょっと不思議に思っていたところ。
「今日は花見だったんだ!」と帰って来たのでびっくり。でも私は咄嗟に応える。 「やっぱりね。お花見に違いないと思ってたんだよ」言いながらすごく可笑しくなって。 昼間。ふと懐かしく思い出したことが。偶然ではなかったような気がしたのだ。
あの公園は今のままじゃいけないな。手すりも殆どないし、車椅子も押せない。 福祉車両の駐車場もないんだぜ。あんまりだ市長に抗議してやらんといかんな。
ぶつぶつ怒りながらビールをあおっている。今日のお花見は仕事だったのだ。 自分はお休みの日なのに。同僚達の手助けに行っていたらしいのだ・・。
父さんも。母さんも。きみに脱帽です。
あの日泣きじゃくっていたきみは。こんなにおとなになったんだね。
しなやかに桜雨。つとほとばしる想いは。いつかの春かと思うほど。
催花雨というらしい。花よ早く咲きなさいと急きたてるように降るそうな。 咲かずにはいられない。のんびりと膨らみつつあった蕾も。咲きたくなってしまう。
いまはその頃。ひとだってもしかしたら。そんな雨を欲しがっているのかもしれない。
昨夜から気になってしかたない花かたばみの三つ葉は。 よかった。どうやら『かわりばんこ』しているようなのだ。 一葉で眠っていたのが。今夜はしっかりふたつに重なっているのを見た。 みんな公平に。そんな約束事があるのかしら。植物ってすごいなって思う。
それから。その鉢の主であるサンセベリアにもすごく敬意を抱いてしまうのだ。 最初は百円ショップで買った10センチほどの植物だった。それがどんどん育ち。 今では50センチ位になって。窓際から外の陽射しへと背伸びしているみたい。 おっきな鉢に植え替えた時に。庭の土を使ったので。その時に花かたばみの種が。
いつだったか。一度ぜんぶ引いてしまったこともあった。 サンセベリアの為にならないと勝手に決め込んでいたように思う。
でも今年。それはきらきらと眩しい光景を見てから。もう引かないと決めたのだ。 ブラインドからやわらかな陽射しが差し込んで来ていて。その時の花かたばみの。 緑のハートが嬉しそうに息づいているのを目の当たりにした。綺麗だなあって思った。
そして当のサンセベリアは。そうして一緒に生きていくのが当たり前みたいに。 まるでこれは私の子供達よって言っているお母さんみたいで。凛々と素敵だった。
花かたばみが目覚める時って。重なりあっていたのがむくむくっとする時って。 思っただけでわくわくしてしまう。でもそれはほんとうにいつの間にかの朝だった。
ただひとりサンセベリア。お母さんは毎朝きっと見ているんだなあ。 もし寝坊した時でも。なんだか足元がくすぐったいなって微笑みながら。
いちにち。いちにち。それぞれの命。それぞれの春のひとときだった。
そよそよと優しい風。かすみの空。おだやかに一日が過ぎていった。 気がつけばつくしん坊の。せいくらべするように立ち並ぶ姿とかが。 すごく愛しくてならない。見渡せば山桜。名も知らぬ鳥がちちちち。
いつかの春がいまは春。めぐりめぐるまっただなかに自分というものが。 こうして佇んで居られること。それが何よりも幸せなことだと思ったりする。
最期は春だといいなあとふと思う。それはいつかくる春。その時に今を知ろう。
窓際にずっと置いてあるサンセベリアの鉢に。今年も花かたばみが萌える。 クローバーに似た緑のハート型が。なんともいえず可愛らしい葉姿なのだ。 雑草の類なのかもしれない。でも夏頃になったら小さなピンクの花が咲く。
その三つ葉の眠る姿を。今まで気にもとめなかったのに。今夜初めて見た。 葉と葉を重ねるようにぴったりとくっついている。ちゃんとハート型になって。 でも三つ葉だからしかたなく。一枚の葉だけは重なる相手がいないのだった。 どんなふうにその一枚が決められるのかなって気になった。もしかしたら夜毎。 話し合ってみたり。じゃんけんしてみたり。もしくは早いもの勝ちとかあるのかな。
一葉はいつも。いつもその葉と。決められて生まれて来たのなら可哀相だな・・。
桜つぼみの道を行く。ひとつふたつ咲いているのを見つけた。 こころがふくふくっと動き始める。すすめなくてかなしくて。 どうしようかなと今にも壊れてしまいそうな。かすかな傷跡。
石ころなのだから蹴られてもいいのだ。そしたらどこまでも。 転がっていけそうな気がした。おもいっきり投げてくれたら。 水の中にだって私は棲める。流されてゆっくりと海にだって。
いつか砂。さらさらとあなたの手のひらから零れ落ちてみよう。 わたしのかたちをあなたはしらない。掬って弄んで嘆きながら。 あなたは私を踏んでしまえばいいのだ。あとは波。そう波の声。
桜つぼみの道に在る。空になりたくて鳥になりたくて独りきり。 仰ぎ見る薄紅の頬を。どんなにか恋しくて。どんなにか夢みて。 わたしは私のかたちを抱きしめる。花びらに埋れて眠る時まで。
だからそのときにこそわたしをみつけなさい。
そしてありったけのちからでわたしを投げてごらんさい。
静か過ぎる夜・・私は妄想の旅に出る。 物語がいくつも生まれてきて、ドラマみたいに展開していく。 頭の中でシナリオが爆発して、拾い集めて並べられていく。 そこには伝えられない言葉と、伝えて欲しい言葉が・・・ 信じられないくらい鮮やかに輝いているのだ。
などと。4年前の今日と同じ日付の記にこんなことを書いていた。 ほんとうに自分だったのかと。今思えばすごく遠い『存在』に思える。 書くことに自由過ぎたのかもしれない。あの頃はほんとうに在りのままで。 そのことを美しいとさえ思っていた。愚かだったのか。答えは出せないのだが。 たぶん。それはそれで自分だったと。4年後のここに記しておきたいと思った。
ぷつん。いまはすこしだけぷっつんとしている。
「自分が酔わないで誰を酔わせられるものか」そう言ってくれたひとがいた。
石ころのきもち。雑草のきもち。時には野良猫にだってなってみせる。
自分を愛せないで誰に愛されようとするのか・・・。
ぷっつんをたぐりよせる。結び目は真結びにしておくことにしよう。
2006年03月15日(水) |
やっぱね。そうだよね。 |
毎朝ついつい見てしまうのが。新聞の今日の運勢だった。 『己の分限をわきまえて進退を。自信過剰厳禁』
ほっと嬉しくなり目の前がぱあっと明るくなる日もあるが。 実のところ。こんなふうに戒めて頂くのが。ちょっと好きなのであった。
心当たりが無きにしも非ず。言われてみればなんとなくと感ずる事がある。 ブレーキを踏んで。つつつつつっと何かが止まりそうになる気配になるのだ。
ウカレポンチさんが。すごく神妙になって。ショボンヌさんになる図がこれ。 かといって彼女がめそめそするとか。ひじょうに落ち込んでしまうのではない。 鏡よかがみ鏡さんと。じっくり向き合って。さほど深刻でもないあれこれなど。 やっぱね。そうだよねとか言い合いながら。語り合ったりしているらしいのだ。
今夜行こうと思っていたところに行くのをやめる。 会いたいなって思っていたひとに会わずにいる。 だって。出掛けようとして髪を梳かしていたら。 白髪がさ。ついこの前染めたばかりなのにすごいよ。 こんなんでお星様みたいな目をしてたら化け物だよ。
私を知ってるひとはみんな知ってる。 知らないひとは勝手に想像してくれる。
でもね。誰も知らないわたしをね。愛しすぎているのがわたしなんだよ。
ふる雪をみながら想った。ふってもふっても積もれない雪。 精一杯で健気で。あんたみたいなのすごい好きやって思った。
らっぱ水仙は寒そう。黄色とオレンジの中間みたいな色のが。 県道沿いに整列するみたいにたくさん咲いている。みんな一斉に。 どこかを見ている。その口元はやはり『らっぱ』みたいで可愛らしい。 花の楽団みたいだ。心が弾むような音楽をたくさん聴かせてくれそう。
だけど今日は雪と風。きをつけしていたのだけど。おじぎをしている。 そうして拍手みたいな風の音をじっと聴きながら。何かを待っている。
明日はきっと太陽が歌い始める。そんな予感がわくわくと嬉しかった。
夕食。むしょうにケチャップが恋しくなり大好きなオムライス。 めずらしく早目に息子君が帰宅したのだが。ちょっと元気がなくて。 どうやら異動の辞令を受けたらしい。格下げになったと嘆いていた。
すっかり慣れたところで。また新たな試練。めでたいことだと思うのだ。
がんばれ。しんちゃん!
雪柳に雪がふる。見せてあげたかったのだ。ただただあのひとに。
「別れ岸ね・・」そう言ったかのひとの目に涙が浮かぶのを見た。 陽の光を浴びながら雪が。散る。それは一瞬の戸惑いの姿だった。
帰宅すると。郵便受けにいつもの少し分厚い白い封書が届いていた。 とある詩誌に関する読者からの感想などが。ありのままに記されてある。 無関心を装いながらも。ついついどこかに自分の名があるかもしれないと。 ほんの少し期待をしては。いつもがっくりとため息をつく。それであった。
コピー用紙6枚ほど。ぱらぱらと目を通す。そろそろ晩ご飯の支度しなくちゃ。 そう思いながら最後の一枚を見たとたん。その衝撃といったら。庖丁で指を切ったみたい。 あらあらというまに血が流れ出す。それはまさに痛さよりも血の紅さにはっとする。
よくもここまで私を斬れたものだと思った。けれども決して不愉快ではなかった。 むしろありがたい。私はすぱっと斬れるものらしい。なんと心地良い痛みなのだろう。
当たり前のことだけど私は植物ではないから。斬られたら多少なりとも血が出る。
たぶんこのひとは私を知らないのだろうと確信する。私を斬ればどうなるか。 私はその血で育つのだ。その血で生きることを学ぶのだということを・・・。
生きること。それは書くことです。
えらそうに。ああえらそうに。わたしはいったい何様だというのだろうう・・。
くもり時々雨の予報だったが。雨はほんのつかの間。 冬の名残のような時雨だった。そして西風が強くなる。 いよいよ彼岸なのだなと思う。去年の今頃に雪が降ったことを思い出す。
季が裂ける。あちらがわとこちらがわがまざりあって。ついに別れるのだろう。 冬は痛いのだろうか。春は真っ直ぐに空に立っている。花は咲き香るばかりだった。
海が鳴る音をききながら。風に吹かれ。川の中で海苔を摘んでいる時。 すぐ近くに何かが落ちてきたような気配を感じ。ふと顔を上げて見ると。 一羽の白鷺が舞い下りて来たところだった。こんなに近くで見るのは初めて。 なんて美しい姿なのだろうとしばし手を休めて見入る。そしたらきょとんと。 その純白の鳥も私を見つめてくれたのだ。目が合った。とても優しい目をしていた。
ずっと見ていてねと声をかけて。また俯いてせっせと海苔を摘む。 気恥ずかしいような照れくささ。そしてちょっと得意顔の私がいた。
どのくらいそうしていたのか。今度ふっと顔を上げたら。もう見えなくて。 いつ飛び立ったのか気づかなかった。ただただ吹く風に小粒の雨が降るばかり。
そんなひと時のありがたさ。こころはそうしていつも温められていく。
お父ちゃん?なんだかその鳥が死んだお父ちゃんだったような気がした。
昼下がり。レモンバームの種をまく。種から始めてみたかったのだ。 ちゃんと芽が出るかな。初めてのことなので。祈るような気持ちで蒔いた。
最近寝酒の焼酎をほとんど飲まなくなった。ハーブティーがお気に入り。 ぐっすりと気持ち良く眠れる。お酒にばかり頼っていたのが嘘のようだ。
レモンバームの芽が出て。苗が出来たら。畑に植えてみようと思っている。 姑さんが畑の一部を分けてくれることになった。わくわくと楽しみでならない。
そうしてお茶にする。まだ種なんだけど気分は花だって咲いているみたいだ。
今日は。午前中の家業のみ。午後からはすごくまったりと過ごす事が出来て。 なんだか身も心も新鮮になる。あれこれは遠い世界。山も谷も見えなくなった。
息子君から一万円札をさずかり。とにかく旨い肉を買って来いと使命を受けて。 スーパーじゃなくて。商店街の肉屋さんに行った。ええい買っちゃえの気持ち。 家族四人が揃って焼肉。夏になったらバーベキューもしようぜと息子君が言った。
こういうのがわたしの幸せ。なにかが足らないとかなにかが欲しいとか。 いまはふと思い浮かべることさえもなくなってしまった。
あれはいったいなんだったのだろうと。過ぎた日々がはるか遠くなる。
今日は桃の花を見つけた。毎年楽しみにしているいっぽんの木だった。 今年は枝をたくさん切り落とされていたから。なんだかすごく淋しくて。 切らなければいけないわけが分からないから。どうして?って気になっていた。
でも大丈夫。残された枝はまっすぐに空に伸びて。精一杯の花を咲かせてくれた。 ほっとほっと嬉しく思う。切られた痛みなどきっとなかったのにちがいないと思う。
うめももさくら。こころいっぱいの春を感じる。空もゆっくりと晴れていった。
午前中は家業。午後は職場。こっちもたててあっちもたてる。 自分なりのフル回転で。少しばかり疲れもあるが。まあまあの元気だった。
夜は例のバドクラブで。またお星様の瞳になれそうでうきうきと出掛ける。 実は。今夜はT君どころではなかった。ほんとうに久しぶりにM君が来てくれた。 ので。すごいびっくりと感激してしまった。転勤・・になるかもしれない・・・。 再来週には辞令が出そうなので。決まったら必ず連絡するからと言ってくれた。
友達というほどではない。仲間なのだけど。ほかの仲間とはちがう。特別。 うん・・M君は特別だった。親近感がすごくあって。ほんわかとまるい関係。 バドが上手になりたくて一生懸命練習していたっけ。一緒に組んで試合にも出たっけ。
そっか・・転勤なのか・・もう会えなくなるんだ・・さびしいなあ。
残り少なくなったんだって。ちゃんとそれを知らせに来てくれたのだ。 そう思うと。胸がいっぱいにる。さびしさよりもおっきな縁を感じて。
切っても切っても。いつかまたきっと。会えるひとのように思った。
雪柳を見つけた日。白くてちっちゃな花が枝を流れるように咲く。 しなやかに風に揺れる様などは。その雪のような花が零れ落ちて。 すぐにでも散ってしまうのではないかと思うほど。せつなくて哀しい。
雨のにおいを感じた。空はどんよりと重くて。こらえきれない何かが。 いまにも音をたてて。静けさを掻き乱すのではないかと。空を仰いだ。
ぽつねんと。またわたしはそこにいる。そこがどこなのかよくわからない。 ときどきこんなふうにいってしまうのだ。かえろうとおもうがかえれない。
とぼとぼ歩く。雨に濡れてしまいたい。いっそ雨になりたいと思った。
春霞。ただただのどかに時はすぎゆく。
苛立つ事もあるけれど。空のとばりにくるまって。 棘の痛さを感じぬように。そっとそっと心を放す。
岩つつじの花を。帰宅途中に見つけた。山肌からこぼれるように。 鮮やかなピンク。ちょいと小ぶりで可愛らしくて好きだなと思う。 毎日通る道なのに昨日はまったく気がつかなかった。川の方ばかり。 見ていたのかもしれない。もしくはすごくぼんやりしていたのかも。
こうして見つける春は。いつも。はっとはっと。その瞬間が嬉しいものだ。
帰宅すると。彼が熱の出始めなのか寒くてたまらないと震えていた。 急いで布団を敷いて湯たんぽも入れてあげる。子供みたいにか弱かくて。 しばらく様子をみていたらぐんぐん熱が出て来た様子。熱ピタをおでこに。 もう限界だと泣きそうに言うまで我慢させておいて。やっと解熱剤を飲ます。
一時間も経たないうちに汗びっしょりになった。よしよしその調子というわけで。 二度着替えをしてから。今度は空腹を訴えるようになり。おうどんを作ってあげた。
もうだいじょうぶ。彼の熱は度々で。いつもこんなふうに突然で。すぐに治る。
ずっと家業を任せきりで。彼なりに一生懸命頑張っているのがすごくわかる。 無理しないようにいつも言っているけど。無理を重ねて疲れが溜まっているようだ。
今夜ほど彼を助けたいと思うことはなかった。 職場に辞表を出せば済むことだったが。 会社を母を見捨てるわけにはいかない・・・。
ずるずるずる。このずるずるかげんが。私はすごく嫌なのだ。
静止している時などあるはずがなく。動いて流れて。流されて。 いったいどこまでいけばいいのだろうと。ふと不安にもなるのだが。
すべてのことが人生の順調だと仮にそう思うことにしてみれば。
いまはすごく大切な道を。わたしは歩んでいるのだろうと思う。
流されるな。水の中を歩け。
水に映る自分を。見つけろ。
啓蟄。冬ごもりをしていた虫たちが穴から出て来る頃とか。 そんな今日は。少し冷たさを感じる雨のいちにちとなった。
気がつけば。梅の花も散りゆき。花びらの行方さえも知らず。 寒桜はわずかに。雨のしずくが涙みたいに頬を濡らしている。
白木蓮は満開になった。純白がほのかに黄をおびて少し哀しい。 落ちるのだ。ある日からそれは。ほんとうにどうしようもなく落ちる。
鮮やかな色のレインコートを羽織ったお遍路さんがふたり行く。 肩を並べるのではなく。なんだか競い合うように先を急いでいた。 あなたの歩調。わたしの歩調。行き着くところで会いましょうや。 そんなふたりに見えた。頑張れふたり。声をかけたいような二人。
職場。お給料日だったけれど。どうしても資金繰りが間に合わず。 いつもは強気のオババがすごくしょんぼりとしていて可哀相だった。 「ない袖は振れない」といつも。それが当然みたいに笑っている人。
私が帰る時。動き出したクルマからオババの姿が見えた。 窓際に立って。もしかしたら私を見送ってくれたのかもしれなかった。 手をあげようとしたけど。どうしてだか手をあげられなくて。ごめん。
ちっちゃくてか弱くて。さびしくてかなしかった。
わたしのお母さん・・・・。
2006年03月05日(日) |
いまここにいるんだな |
立春を過ぎてからの寒さを『春寒』というそうな。 はるさむ。もしくはしゅんかん。そのしゅんかんというのが。 なんか好きだなって思った。はっとする寒さのようではっと。 冬のことを思い出すのだけど。実は春なんだなあって感じで。
日中はぐんぐん気温が上昇した。風もなく穏やかな陽気となる。 ひとり。今日はひとりで家業を頑張ることになった。 彼は消防団の仕事があり。無理するなよとか言ってくれてさんきゅ。
堤防の道から見る河口が。ついこの前までの白波が嘘だったかのように。 陽の光をいっぱいに映して。それはそれはきらきらと眩しい流れだった。 潮が引き始めていて。海と川がごっつんこしているのだけど。水とみず。 そのあわさりぐあいというか。とても言葉に出来ない。ああおおと思うばかり。
ひとり。もくもくと海苔を摘む。かんがえているいろんなことを。 とりとめもなく。あのひとだったり。いつかの春のことだったり。 あの時どうしてあんなことを言ってしまったんだろうと思いながら。 せっせせっせと手を動かしている。ちゃぽんちゃぽん川舟が通ると。 ちいさな波がやって来て。はっと我に返る。いまここにいるんだな。
帰り道。河川敷の牧草の緑のなかに。ぽつんぽつんと菜の花が咲いていた。 夏の嵐の日に上流から流されてきたのかな。ここで咲けてほんとうによかったね。
ああなんだか犬になりたいとふと思う。鎖から解き放されて走りまわりたい。 あの菜の花のまわりをぐるぐる駆け回ってみたい。吹っ切ってふっきれて。
いまここにいることを。もっともっと感じたいと思った。
このところ寒のもどりらしく。弥生の風の冷たさ。 だけど太陽はとても春らしくて。ほっと空を仰ぐ。
少しばかり多忙な日々が続いていて。なんだか駆け足。 ここからあそこまで走ろう。そしてちょっとだけ休む。 そんな感じで。自分なりに。まあまあの元気を保っている。
お陽様のにおいが心地良く洗濯物を取り入れていると。 庭のすみにほったらかしにしていた鉢植えのマーガレットが。 ふたつみっつと白く愛らしい花を咲かせているのに気づく。
強さを知っていた。雪の日もすっぽり埋もれていたことも。 この子は大丈夫って信じていたから。ちゃんと春を知らせてくれて。 ああ今年も頑張ったんだね。ほんとにえらかったねとほめてあげる。
たくさんのつぼみをつけて。なんてほこらしげに微笑んでいることか。 茎は小枝のように固く。そこから緑の手を伸ばして花は宝物のように。
その宝物を今年もこうして見せてくれるありがたさ。
わたしのこころには。いつもこんなふうに。さりげなく咲く花がある。
2006年03月01日(水) |
春だからだいじょうぶ |
少し冷たい雨になる。でも春だからだいじょうぶ。
今日は急遽仕事を休ませてもらって。例の家業を頑張ることにした。 ずっと海が荒れていて高波がすごく。彼一人ではちょっと限界気味。 おっし、おっかさんに任せておきなさいというわけであった。 男の弱音には非常に弱い。ついついよしよしとしたくなるものである。
こっちをたてればあっちがたたず。いっそ会社がなくなればいいとか。 ふと思ったりしてしまうのだが。見捨てる訳にはいかない複雑な心境。
明日も菜の花の道をいく。白木蓮に会える道を。何事もなかったように。 職場へと向かうことだろう。お遍路さんに会釈して。ほっと微笑みながら。
そうそう今日ね。彼と川沿いの道を通りながら。 冬みたいな雨だけど春だよねって話していたら。 堤防の土手を指差して彼が嬉しそうに言ったよ。
つくしんぼうもにょきにょきしてきたぞって。 枯草ばっかだったのにずいぶん緑になったな。
漁場には小鴨の群れがいっぱいいて。波にゆらゆら。 鴨たちはそうして育った海苔をついばんだりするのだけど。 いいさ美味いなら食えばいいさとか言ったりした彼。
なんて優しい目をしているんだろうって嬉しかった。 とても穏やかな表情。こんなふうにごく自然に。
ひとというものは。変ることができるものなんだなって思った。
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