一、夏の樹下で
樹下の青い陽(ひ)の光の陰で そのひとは蒼ざめた病身のようだ 事実そのひとは過去の悲しい記憶を辿(たど)った 夢の中の子供の情景に 長い間を彷徨していた ちらちら輝く木の葉(このは)の間で 物憂い悔恨ばかりが燃えていた 樹下の蒼ざめた光の陰で そのひとは痛わしげな憂いに眠った
二、森陰
樹木の湿った臭いのする 草木(くさき)のせつない匂いのする 陰鬱な物悲しい森の陰で ほの白い孤独の魂がさまよっていた 自制を失った子供の欲情に 空虚の愛を求めていた 暗い陰鬱な森の陰 私のくらいかなしみが 朽ちた葉の上をしとしと歩いていた ハラハラと散っている落葉(らくよう)の下で 私は人生の深い孤独を自覚した
三、冬
長い長い夢のあとの寂しき心情に 心の帰る所も知らない
北風に鬼ごっこをして 小雪はちらちらと地上をさまよいつづけ 冬木立(ふゆこだち) その下で待ちつづけた人生は もう冷たさにかじかんでいる 夕闇に暮れると 物音は消えて 街灯のあかりに 白一色の街並みは 沈静するばかり
長い長い夢のあとの寂しき心情 心の帰る所も知らない
にほんブログ村
|