眠る金

【 とうち 】 << >> read from the beginning new contact   

美しい罅

●2014年11月10日(月)

母にもらったそば米が美味しい。
そばの実を米状に加工したものらしい。米と一緒に炊くと違和感なく混ざり合って、でもぷちぷちもっちりした粒が心地よい。いつもと同じ水の分量だと若干固めに仕上がるので、固めが好きな私はそこも嬉しい。

――――――

10月はとても波瀾万丈で、楽しいことも辛いことも多くてめまぐるしい日々だった。

多分9月末くらいから。
私の人生は間違っていた、と、もう取り返しがつかない、と、鬱々と考えていた。
これまでそれなりに後ろ向きな人生を送ってきたのだけど、自分の人生が間違っていた、と確信したのはその時が初めてだった。
なんでこんな時期になるまで気づかなかったんだろう。
絶望なんぞもう何度もしてきたが、何度しても慣れるものではない。
絶望はどこまでしても果てがなくて、果てがないからこその絶望で、またこの感覚を味あわなくちゃいけないのかと。
仕事をしている間は何も考えなくて済む。仕事に向かう道すがら、収穫を待つ稲穂や青々と実る野菜畑を横目に見ながら、とぼとぼと歩いていた。

10月に入るとまず1日に資格試験。ろくろく勉強しておらず全く自信はなかったがやたらに簡単だった。
試験が終わってほっとしたあたりで、墓参りがあった。
綺麗に整えられたお墓に訊きたかったことを投げかけてみた。当たり前だが返答は返ってこなかったが、その後秋の山並みを眺めてぼぅっと過ごした数十分は貴重なものだった。
大好きな線路の写真を撮った。

お土産に買って帰ったお菓子は美味しかった。

10月後半、変にことが動き始めた。
新しく始める仕事のアウトラインを引いて提示してみたら、その線でどうぞ、と言われた。
責任重大な仕事だ。
試験の合格も判明して、想像以上に祝福を受けた。
毎日成長を眺めていた稲穂はある日収穫の日を迎えた。

月末、旧友に誘われてとあるライブに行った。演劇とアカペラを組み合わせたそれは素晴らしい完成度で、大興奮のまま新宿の魚介居酒屋で旧友と美味しい時間を過ごした。
そこは会津の蔵元直送の日本酒に力を入れているお店のようで、日本酒好きの友達に釣られて、久しぶりに美味しい日本酒にほんわりしていたら、
「日本酒を一緒に呑める女友達がなかなかいないから、今日はとても楽しい」
と友が言った。
楽しんでくれて私が嬉しい。それに、日本酒の美味しさを再認識させてくれてありがとうね。
会計後、店主が名刺をくれた。まだできたばかりのリピーター獲得に頑張っているお店だからだろうが、女二人で日本酒をうまうま呑んでいるのを気に入ってくれたのかも知れない。

ばたばたした仕事の合間に競馬場に行って馬が走るのを観た。天皇賞の怒号は初体験で恐ろしかったが、だだっ広いレース場を馬が走り抜けるのは何度見ても爽快だ。

今日、酉の市に行き、去年買った熊手を収めて、新しい熊手を買った。また一年。

判っている。私が生まれてきたのは間違いだったという気持ちが、こういった事々で消え去ることはない、ということは。
苦しみは消え去ることはないけれど、頭を巡らせ身体を動かしていると楽しい出来事もある。面白い人達もいる。それは恵まれたことなんだ。
したいことはなくてもすべきことがある。
間違っている私のことは誰も知らない。

職場の人々と綺麗なものを創り上げてそれを広めるまで、「消えたい」という気持ちは抑えこんでいこう。

美しい日々。


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