VITA HOMOSEXUALIS
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2018年02月13日(火) 門出

 12月、私が熊本を去る日が近づいた。関東に送り返すものはすでに荷造りしてある。がらんとした部屋の中には布団が積まれているだけだ。

 みぞれ混じりの冷たい雨が降っている。

 私はふと、ウリ専の「彼」に会いたくなった。彼とは何度か会った。それは感情の介入しないドライな付き合いと言えば言える。男をカネで買うことを憎むゲイがいることも知っている。だが、彼は良い人だった。私は彼が好きになっていた。お互い地震を経験している。お互い同じ映画館を訪れている。「どこ」と言えば話が通じる。彼の身の上話に偽りはなかろうと思われた。

 彼にはパトロンがいるらしかった。泊りがけで人吉温泉に誘われたこともあるという話だった。私はそういう話を聞いても嫉妬はしなかった。むしろ、自分の好きな人に人気があるのを知って嬉しく思った。

 彼はまたウケのようでもあった。誰かが彼の尻にペニスを突き立てて彼を濡れさせ、泣かせ、喜ばせたろう。自分にその力がないのはもどかしかった。私は感じすぎる。相手の肛門にぐい、ぐいと押し当てているうちにイッてしまう。

 古物が思いの外高く売れ、一回遊ぶぐらいの余裕ができた。私は彼のところへ行った。

 彼は就職が決まったと言った。だから3月で店を卒業する。就職先は九州ではない。配属はまだ決まらないが、関西か、関東になるかも知れない。私は心から「おめでとう」と言った。大学生だったこと。理系だったこと。それらはみな本当の話だった。

 私らは思い出話しをした。最初はだだっ広い店だったこと。シャワーが一階にあって、ベッドルームは二階で、寒い冬に階段を降りて広い台所を突っ切ってシャワーに入り、また出て来るまでの間に凍えたこと。それから跳ね上げ式のベッドのとても狭い場所に移ったこと。そこで地震を経験したこと。

 私も、ここへ来るのが最後であることを話した。もっとも、私の場合は希望のある門出などではなかったが。時間とカネがあれば、今日は体は抜きでも一杯おごりたいところだ。

 部屋を暗くした、

 抱き合った。

 麝香のような彼の体臭が私を包んだ。

 絡み合ったまま横たわった。昔から使われているベッドは「ギシ」と音を立てる。

 彼の唇に自分の唇を重ねた。

 彼はキスしてくれるときとそうでないときがあった。キスはたぶん、本当に好きな人のために取ってあるのだろうと私は思っていた。

 その日、彼は大きく口を開いて私の唇に吸い付き、舌を絡めてきた。

 私は勃起した。彼も勃起した。お互いの熱い下半身が触れた。

 「これで最後だ」

 私は彼の全身をなめ回した。陰毛の叢に顔を埋め、太くなった彼のペニスを喉の奥までくわえこんだ。

 彼を後ろ向きにさせ、尻を大きく広げさせて、その真中の穴の周囲をなめ尽くし、穴の中に舌を突っ込んだ。

 彼は私の乳首を責めた。私は声をあげた。彼は私のへその周りをしゃぶった。その口を下半身におろし、私のペニスに唇を当てた。最初はそっと。それから徐々に強く。その間、彼の手は私の乳首をこねまわしていた。私はガマンしなかった。大きな喘ぎ声が出た、そっと自分のペニスに触ってみるとガマン汁でヌルヌルになっていた。

 私は何度かイキそうになった。それを抑えて、気持ちを落ち着けた。何度も並んで横になり、彼の顔を眺めた。とびきり美青年ではない。どこにでもいる、明るいスポーツマンタイプだ。全身が浅黒い。肩はがっしりと、腰はくびれて、尻は大きい。

 何度も彼を愛撫した。何度も唇を重ねた。体が熱くなった。

 彼も射精した。勢い良く。それは胸の方まで翔んだ。

 私は彼を抱きしめた。再び唇を重ね、舌を絡め、激しく腰を振って、彼の腹の上に射精した。

 それはおびただしい量だった。私の精液はしばらく彼の腹の上でうごめき、じゅるじゅると脇の方へ流れ始めた。私はそれを拭った。

 ********

 商店街にはまだ人通りがあった。

 だんだん思い出になろうとしている熊本。九州。何度射精したか知れず。何度オシッコに濡れたか知れず。私の恋心も痴情も全部吸い尽くした九州。

 ライトアップされた城は建て直しのシートに覆われている。

 がたがた揺れる市電では、タレントのコロッケが物真似でアナウンスを吹き込んでいた。


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