僕らが旅に出る理由
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2008年11月04日(火)

出勤途上でランチパック・ピーナッツを買った。
朝ごはんをちゃんと食べられなくて、お腹すいたので。

だけどほんとは、席につけばお菓子のストックがある。
今朝は先生が出張先からのオミヤゲをくれるであろう見当もついているから、おそらく食べ物には困らない。

だけどランチパックを買った。
お金の無駄だと知りつつ止められなかった。だってランチパックが食べたかったし、どうせ100円とかなんだし、そのくらい日々の生活費を適当にやりくりすればどうにでもなる。

だけど私がもしももっとお金持ちなら、「どうせ○○円なんだし」のところの単位がぐっと変わるだろう。
K氏の浪費は、だから出所を突き詰めれば私のランチパック・ピーナッツと同じところにあるのかも知れない。何故と聞かれても、どうしてもランチパック食べたいんだもん。

詐欺容疑の話はショックだった。
彼の音楽には1980年代からずっと触れてきたし、好きな曲も何曲かある。彼らのファンも周りにいたので普通のミュージシャンより身近に感じていた。だから、完全な他人事でありながら、どこかそう思い切れなくてザワザワする。

K氏はデビュー前にデモテープを作り、複数社に送ったらそれらの会社から一斉に電話がかかってきて気持ち良かった、みたいなことを言ってたことがある。売れるのは最初から分かっていた、と。
自分の感覚はちょっと先端過ぎるので、ほかのメンバーの意見を聞いて現実の感覚に戻すのだとも言っていた。
なんだかエラソーな言い方だなぁと思うんだけど、実際、そうだったのかも知れない。その後プロデューサーとしてバカ売れしたことを考えたら。
あれだけ売れれば飽きられる日は必ず来るし、流行り廃りの波の中でいつか表舞台から消える日も来るだろう。だけどどっかで音楽を作り続けて、もしかするとマニアにしか受けない不可解な世界に行っちゃうのかも知れないけど、でもアーティストとして音楽シーンのある一部分を占め続けるのだろうと思っていた。だから、ある時期からまったく彼の名前を聞かなくなったのが不思議ではあった。

数年前、K氏がテレビに出て、もともと元気いっぱいに喋ることの少ない人だけど一層力のない声で、iTunesやインターネットが無限に近い音楽を発信して何を選べばいいのか分からなくなった時代に正直戸惑っている風を見せていたのには驚いた。K氏はいつだってシーンの先端にいたはずなのに、と。世間一般の考えと相容れない方向へ進んでゆくならまだしも、世の中についていけなくなった、風の発言をまさかK氏がするとは思わなかった。
「これからは、若い人に何を聞くべきか、こちらが先導していくべきなのかも知れない」って言ってたけれど、違和感があった。今のK氏がそれをやるのは違うだろう、と。

K氏にとって致命的なことは、事業の失敗や浪費などではない。
これまで一度も自信を失わなかった音楽という分野に対して、「分からなくなった」というのが何よりの悲劇だと思う。
彼はいつでも音楽の先端を読める人だったのではなく、生まれつき1995年とか1996年的な感覚を持っていた、というだけだったのかも知れない。

何百年と愛される音楽を作った音楽家、そこまでじゃなくても何度もヒットチャートに戻ってくるミュージシャン、そういうものと、ある一時期を境に感覚がくるってしまう人がいる。
K氏は後者だったのだろうか。それとも、こんなことがなければ、何年か後にまた売れたのだろうか。もしくは、こんなことがあっても、まだ可能性はあるのだろうか。売れるということがすべてではないにしても、せめて音楽との絆を取り戻せるように、それが自分でも確かめられるように?

警察に捕まらずに生きていく方法なら言える。
平均寿命まで元気で生きていく方法も言える。

だけど、その人が生きる意味を感じながら生きられる方法を探すのは、難しい。


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