僕らが旅に出る理由
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今日でお茶のお稽古が終わった。 ちょうど1年。
先生は80歳すぎの、笑い方が少女のように可愛い(という言い方も失礼だけど)おばあちゃん先生だった。 あまり格式張らず、お菓子におせんべいとかクッキーが出てくることもあり、どっちかというと本当にお茶が好きで、楽しんで頂きましょうという感じの先生だった。 だからお免状を取るように勧められたこともないし、いつも、季節の話題などしながらのんびりと2時間のお稽古をこなした。
その先生の娘さんにあたる人が私の母に、私がお稽古に通いだしてから先生が生き生きしてきた、と言ったそうだ。 その先生のところに新しい生徒さんが来たのは久しぶりのことで、一から指導することが楽しかったみたいだ。 私は私でお茶が面白かったので、用事があるとき以外は毎週通っていた。 だから、辞めると言ったときには先生は残念そうだった。私に直接は言われなかったが、娘さんには残念だと繰り返し言われたそうだ。
つい最近も、古い生徒さんの紹介で新しい人が見学に来た。 でも先生は、 「あたしはもう、いつどうなるかも分からない年だから」 と言って、あまり熱心に誘われなかった。
最後のお稽古も、淡々とすすんで、おしまいになった。 最後に挨拶をしたときに、先生はいつもの笑顔で 「お出会いできてよかったわ」 と言われ、 「お幸せに」 と、静かな声で言われた。
玄関の戸をしめて、自分の車に乗り込んで、窓越しに周りの山々の風景を見た。春はもう来ているようで、まだ何かを考えているかのように押し黙っている。 泣いてしまいそうだったので、すぐにエンジンを入れた。
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