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■ 無題3-2
近所の主婦が多い、というだけはあって昼過ぎをピークに客足は減るらしい。すっかり日が暮れたこの時間だと、あたし以外誰もいなかったりする。 窓硝子の向こうは、外灯の明りが見える程度。
近辺は住宅街になるせいで、周囲はとても静かだ。 どうせお店を出すなら、もっと人通りが多いほうが良いように思うけど。
「そんなの無理無理。だってそれだけの場所ならそれなりの値がかかるわけでしょー、純利益考えるなら断然こっちでイイの」
疑問を投げかけると、苦笑いを込めてそう返ってきた。 それからあたしを少し見て、
「暇なら食器、拭いてよ」
と、白いカップを差し出した。 ここに来る度お茶や焼き菓子類をご馳走になるけど、お金を支払ったことは一度だってない。ハルちゃん自身もいらないと言うから、と甘えてたけれど、向こうはそれなりに算段を持っているらしかった。
勿論、嫌なんて言えるはずもない。
「割っても知らないもんね」
「そんなコト言うなら、割ったら出入り禁止にするもんね」
にやり、と口端を歪めて、ハルちゃんがあたしの口調を真似て言った。
食器を拭くぐらいは、さすがにあたしでも問題なかったらしく、午後七時半を指す頃にはすっかり全部終わった。
戸締りを終え、あたし達は外へ出る。 肌を刺すような寒さに、自然と身が縮こまった。
大した距離も無い帰り道。 近付く度に、慣れない緊張に黙りがちになる。
ハルちゃんにくっついて、度々家に行ってもシュウスケは嫌な顔をしたことはない。 前みたいに話もする。 でも、どこか余所余所しいと感じてしまう。 もっと近付きたいなんて、我が儘だとはわかってる。 でも。
あたしが黙ってしまったせいか、あまりの寒さのせいか、家に着くまでハルちゃんもほとんど口を開くことはなかった。
「お帰り」
ハルちゃんが玄関の扉を開けた途端、中から聞こえてきた声。 顔を上げなくても、誰だかわかった。 シュウスケだ。 あたしは思わず立ち止まってしまい、口元を手で押さえた。
2008年02月28日(木)
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