蜂蜜ロジック。
七瀬愁



 無題3-2

近所の主婦が多い、というだけはあって昼過ぎをピークに客足は減るらしい。すっかり日が暮れたこの時間だと、あたし以外誰もいなかったりする。
窓硝子の向こうは、外灯の明りが見える程度。

近辺は住宅街になるせいで、周囲はとても静かだ。
どうせお店を出すなら、もっと人通りが多いほうが良いように思うけど。

「そんなの無理無理。だってそれだけの場所ならそれなりの値がかかるわけでしょー、純利益考えるなら断然こっちでイイの」

疑問を投げかけると、苦笑いを込めてそう返ってきた。
それからあたしを少し見て、

「暇なら食器、拭いてよ」

と、白いカップを差し出した。
ここに来る度お茶や焼き菓子類をご馳走になるけど、お金を支払ったことは一度だってない。ハルちゃん自身もいらないと言うから、と甘えてたけれど、向こうはそれなりに算段を持っているらしかった。

勿論、嫌なんて言えるはずもない。

「割っても知らないもんね」

「そんなコト言うなら、割ったら出入り禁止にするもんね」

にやり、と口端を歪めて、ハルちゃんがあたしの口調を真似て言った。



食器を拭くぐらいは、さすがにあたしでも問題なかったらしく、午後七時半を指す頃にはすっかり全部終わった。

戸締りを終え、あたし達は外へ出る。
肌を刺すような寒さに、自然と身が縮こまった。

大した距離も無い帰り道。
近付く度に、慣れない緊張に黙りがちになる。

ハルちゃんにくっついて、度々家に行ってもシュウスケは嫌な顔をしたことはない。
前みたいに話もする。
でも、どこか余所余所しいと感じてしまう。
もっと近付きたいなんて、我が儘だとはわかってる。
でも。

あたしが黙ってしまったせいか、あまりの寒さのせいか、家に着くまでハルちゃんもほとんど口を開くことはなかった。



「お帰り」

ハルちゃんが玄関の扉を開けた途端、中から聞こえてきた声。
顔を上げなくても、誰だかわかった。
シュウスケだ。
あたしは思わず立ち止まってしまい、口元を手で押さえた。

2008年02月28日(木)
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