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■ 無題2-2
「マヒロ、いつまで寝てるの」
扉を開けて入ってくる音、ママの声。頭からすっぽりと被った布団のせいで、あたしの視界は暗いままだ。
「早く起きて、」 「行かない」
即答した。起きていると思ってはいなかったらしく、「起きてるなら――」「行かないってば」布団の端をぎゅう、と握る。幼稚園の時も同じようなことをした。何となくだけど、覚えてる。
友達と喧嘩して行かないと言って、その後はうろ覚えだけど無理矢理行かされた気がする。大泣きしているあたしを見送り、溜息を付いたママの顔も、何となく記憶に残っている。あのときと同じようなことをしている自分にも、溜息が漏れた。でも、やっぱり、行きたくない。
「体調が悪いの?」 「頭痛いの、今日は行かない」
体調は悪くはないけれど、頭痛がするのは本当のことだ。病気じゃないだけで。ただの泣きすぎと、寝不足。
部屋から出て行くママの気配に、そっと布団から顔を出した。薄暗いけれど、真夜中の暗さとは違う外の色。時計の針は六時半。
ママが開けたカーテンを閉じるために起き上がる。斜め向かいにある隣の家の窓はまだカーテンが下りていて、ほっとする。こんなところで顔を合わせたら最悪だ。はあ、ともう一つ溜息。それからまた、ベッドに入り頭から布団を被りなおして、目を閉じた。
家の前を通り過ぎる小学生や中学生たちの喧騒を夢現に聞き、「学校には電話しておいたから。じゃあ仕事、行ってくるからね」と言うママの声に「うん」と答えた。
何度か寝て、起きて、その度に時計の針が気になってしまう。「静かにして」電池を抜いて、放り出す。そして時計を裏返して、見えないようにしてまた眠った。
夢は何も見なかった。 ――お腹すいた。
とても静かだ。時間の感覚がない。そっと起き上がり、下へ降りても家の中は静まり返っていた。リビングの壁時計を見上げる。二時。パンを一つ食べて、牛乳を飲んでいると、玄関のチャイムが鳴った。
宅急便か何かかもしれない。ママは色んなものをすぐ買うから。そんなことを考えながら、インターフォンの通話ボタンを押した。
「マヒロ?」 「――」
マイクから流れるシュウスケの声に、どくり、と心臓が波打った。
2007年12月19日(水)
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