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■ 無題(6)
結果を待ちわびていた皆の歓声。喜ぶ声。初めての入賞。辺りを見回す。待ち合わせ場所に現れたシュウスケは、あたしを見るなり腕を掴んだ。そして、歩き出した。
息が切れる。どうしてこんなに早く歩かなくてはならないのか。掴まれた腕は、前へ前へとだけ引っ張られる。
「ね、」 「……」 「ねえってば」 「なんだよ」
止まることもなく、不機嫌そうに返される。切れ切れになる息の中、「ちょっと待ってってば」と言うだけで精一杯だった。
「シュウスケ」 「なんだよ」
今度は唐突に足を止めたせいで、ぶつかりそうになってしまった。ホールから駅に向かう途中にある公園で、あたし達は止まっていた。周囲は閑散としている。公園と言っても遊具はブランコぐらいしかなくて、木ばかりが生えて見通しが悪い。夜だったら、絶対通りたくないような場所だ。
「なんでそんなに急ぐの。せっかく皆でご飯食べに行こうって言ってたのに」 「じゃあお前だけ行ってこれば?」
僅かに眉を寄せて、見下ろす顔からみるに、機嫌が悪いらしい。意味がわからなくて、ぽかんとしてしまった。秋季選抜の結果は上々で、来月にある全国大会への出場も決定した。客席から見ていても、贔屓目のせいかもしれないけれど一際良かったように思っていた。上機嫌になるならわかるけど、不機嫌になる理由なんて。
「どうしてそういうこと言うの」
好きと言ったことがない。言えたこともない。だけど、この気持ちをシュウスケは知っているはずだ。それなのにそうやって突き放すようなことを、平気で言う。それに悲しくて、腹が立った。
「行きたくないから行かなかった。それだけだろ」
顔を背けられる。木の葉の隙間から漏れる日差しが、照らす。二人とも汗が滲んでいた。
「痛いよ、離して」
掴まれたままだった腕が、解放される。結局シュウスケに渡せずじまいだった差し入れは、顧問の先生に半ば押し付ける形で渡してきた。
「…ナミコ先輩がいるから?」
自分が傷つくとわかっていても、その名前を出さずにはいられなかった。 シュウスケが黙り込む。あたしを見ない。
「そうなの?」 「違う」 「だって、」 「違うって言ってるだろ」
蝉が鳴いている。煩い。黙って。シュウスケが背を向けて歩き出す。今度はゆっくりと。
「シュウスケ」
返事はない。慌ててその後を追う。いつだって、置いて行かれてるような気がする。隣には歩けない。その背中を追うだけ。ふとそう思って、目の端が滲んだ。
2007年12月11日(火)
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