蜂蜜ロジック。
七瀬愁



 お出かけしましょう2

「プラネタリウムなんて、出来たんだ」

車を停めた駐車場エレベーター脇の壁の表示を見て、思わず呟いた。
元々ショールームがあった場所が撤去されて、ワンフロア丸ごとプラネタリウムの施設に成り代わっている。

テナントの入れ替わりの激しさはこういった場所では仕方のないことなのだろうけれど、まるきり他人事とも思えない。

「見たいの?」

動物園で小さい子供に何が見たいか、と問うのと同じような響きで春日が聞いた。

それから「そういや小学校の時とか夏休みの自由研究、泉ちゃん天体観測ばっかりだったね」なんて要らないことを付け足した。

確かに自由研究課題と言えば、あたしの場合そのほとんどが天体観測だった。母親の影響もあったのだろう。その頃は家が隣同士だった春日も、時に一緒に見た記憶もある。

小さい頃、屋根にのぼって見上げる空は、今よりはずっと綺麗だった。明るいアルクトゥールスを見つけなくても、星座を辿るのは得意だったし、好きだった。

その内そんな事もしなくなって、あまり関心もなくなった。

生活する空間の中で見上げる夜空は、いつだって薄汚れて靄がかかっていて、夜のネオンを反射するための暗幕みたいなものでしかない。
だからと言って作り物で良いというつもりもないけど、静かな空間で見上げる天井は暗幕よりは綺麗なはずだ。

「見たい?」

春日がもう一度聞いた。
地下にある駐車場からは、エレベーターで中に入るらしい。

「んー。見たいけど、春日こういうの苦手じゃなかったっけ」

あたしがそう問えば、彼は素っ気無く「うん」と答えた。

2007年11月21日(水)
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