舌の色はピンク
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2014年12月18日(木) トーリマシミュレート

電車内の乗客は誰も襲われる心構えができていないように見える。
つまり通り魔を想定していない。

通り魔は犯行現場に電車を選んでもいいんじゃないかと思って。
いやだめなんだけど。絶対だめ。だめだからな。言ったからな。
まぁ例のごとく現実と切り離して考えてみたわけです。
が逃げようのない狭さは通り魔によって優位に働きもすれば
即自組み伏せられるだろう災いも招かれると合点。
無法には無法の精神で叩きのめされて終わりだ。

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…プロレスラーだったら?

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車両の端っこからスタミナ充溢のプロレスラーが
殺意をもって乗客をのしていくシミュレーションをしてみたら。
彼は徒手空拳でスタート。
車内は満員の7〜8割。
まずはじめの10秒で5人は仕留めるだろう。
まだ序盤につき拳を痛めぬよう掌底で顎先貫く格好だ。
その後乗客たちは狂騒する。
大抵は離脱を試みるが誰もが我先にと逃げたがるため
かえって押しくらまんじゅうよろしく自滅していく。
逃げ場などないのだ。
中には腕自慢もいる。
単に体格のいい若者、格闘技経験者、自衛隊出身の壮年…
合わせて5人程が立ち向かう。
が、赤の他人同士が突然に打ち合わせもなく連携できようはずもない。
どころか互いの動きが邪魔になる。
すでに10人は血祭りにあげ体の暖まったプロレスラー、難なく各個撃破。
徐々に進撃。
車床が死屍累々に埋まっていく。
サラリーマンがネクタイを構えた。
我の強い腕自慢連中とは違い奴隷根性の付和雷同で足並み揃え、
屈強なプロレスラーの末端および首元を縛り締めていく作戦らしい。
これにはプロレスラーもたじろいだ。
なにしろサラリーマン十数人がネクタイを両手に装備した光景は圧巻。
しばしにらみ合う。
そこでプロレスラーは足元のやせ細った老人を前方へ投擲した。
中距離攻撃だ!
老体はひとりに命中しただけだったが均衡が破れ
サラリーマンは一斉に突撃してしまった。
腕っ節に覚え有りの連中が先ほど演じた失敗、
素人ならばなおさら酷に終劇するのは目に見えている。
ところがこの時、プロレスラーの足へどこからか手が伸びた。
やられたはずの体格いい若者だ!
さしものプロレスラーも一撃では致命打に及ばなかったものと見え、
若者がっしりしがみつきプロレスラーとうとう体勢崩す。
膝が折れ、よろめいた。
サラリーマンのネクタイが十数本迫ってくる。
その瞬間電車が揺れた。
阿鼻叫喚の声が車両を渡ってついに車掌のもとへ届き、
急ブレーキ緊急停止したのだ。
サラリーマンは全員転げた。
もともと日々の就労で腰が弱っているところに実戦の緊張感、
今まさに襲いかかろうとする前傾姿勢と
足元の死屍累々に不安定な体軸は容易く揺さぶられ、こけた。
こうなるとプロレスラーも寝技を披露してやりたくなる。
ただし立ち技よりもKOに時間をくう。
電車を止められてしまったいま、いつ援軍が押し寄せるかもわからず、
一人あたりにかける時は惜しまねばならない。
こう考えている合間にも体格いい若者の頭を肘で破壊しているほどだ。
まだ体力は十分ある。
そのために過酷なトレーニングに励んできたのだからへこたれてはいられない。
先輩見てますか。オレ強くなりましたよ。
己を鼓舞して立った。がんばれプロレスラー、僕は君を勝たせるつもりだ。
スーツのシワを気にして咄嗟に起き上れないサラリーマンの頭を
自慢のウェイトをもって的確に踏み潰しながらなお進む。
緊急連絡、緊急連絡。車内アナウンスが響いた。
今冷静な指示をなされては形勢がどう転ぶかわからない。
向こうの出方を心得ておきたい下心もあるにはあるが、
せっかくの気勢が削がれても危うい。
情報は一切遮断されねばならない。
周りを見渡せば手荷物はたくさんある。
半死の婦人のバッグからスマホを取り出し怪力にものをいわせスピーカーに叩きつけた。 
自分の番がくるまでにと片想いの彼女へメッセージを打っていた
学生のスマホも操作途中のまま宙を舞った。
この惨劇をネットの海に投稿し世間を賑やかす中心人物となって
それを足がかりにネットアイドルへの道を目論んでいた
OLのスマホは動画録画中のまま粉々になった。
唐突の殺戮にインスピレーションを得て
稀代のメロディが浮かび専用のアプリに記録していた
バンドマンのスマホはとくべつ綺麗な破裂音を奏でた。
アナウンスが止んだ。
電車が再び動き出す。
発車しようが足を掬われようがオレはもう倒れない、
なぜならそれだけの修行を積んできたのだから…あの日を思い出せ…
闘志再燃。
力を温存する局面は過ぎた。
全力解禁で打投極の連発により蟻どもを瞬殺していく。
もとより威圧充満の風貌は返り血に染まって一層悪鬼めき、
生き残りは悉皆足が竦んで動けない。
ラストスパート。あと10人ほどで全滅達成できる。
体中震わせて護身用スタンガンを差し向けてきた女もいた。
その頃には盾の肉塊はたくさんあったから易々凌いだ。
それに倣って、前にいる男を盾に突進してきた男もいた。
卑怯者め親に子に恥ずかしくないのかと叫んだら動きが止まったので
人体の脆さを教えてやった。
さすがに息が荒くなってくる。
しかしあと数人。たった数人で終わりだ。
ここで電車が止まる。駅に到着したのだ。
ホームには武装済の鉄道警察が立ち並んでいる。
しかしドアが開かない。
どうやら暴漢には銃刀かなにかの殺傷武器ありとにらんで、
まずは慎重に車内の様子を伺っているらしい。
一方で窓という窓は血にまみれている。
おかげで車両の奥隅でがたがた震えるしかない生存者をすぐには確認できない。
いや一部では確認できていたのかもしれない。
しれないが、テロマニュアルを積んだ特殊部隊でもない一介の制服だ、
かつてない義憤に駆られようと自己保身が本能的に先立つ。
急ごしらえの武装では銃火器に太刀打ちできる装備であるはずもないのだ。
見殺しにする腹も同然の慎重さで体制を整える。
これでは襲い手としても慌てようがない。
呼吸を静め、ゆっくり車両奥隅へ歩みを進める。
そして最奥へ到達した。
プロレスラーは勝った。
その後彼がどうなったかは僕の関知しないところである。


れどれ |MAIL