世田谷日記 〜 「ハトマメ。」改称☆不定期更新
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2014年03月09日(日) |
行くことのできない国 |
帰ってきてベランダに面した窓を開けたら蝿が入ってきた。 レースのカーテンにとまったので追い出そうとしたのだけど、外寒いしかわいそうかなと思ってちょっと油断した隙に部屋の中へブ〜ン。
よく見れば丸々と太って、栄養状態の良さそうな蝿。しかも物凄いスピードで飛び回ってる。もし蝿の言葉が話せたならば、こんな季節に、今までどこでどんな暮らしをしていたのか聞いてみたい。
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今日はお仕事ヒマでした(しょんぼり)。でも、そのおかげで読み終えた本。
「北欧の旅」 カレル・チャペック (ちくま文庫)
カレル・チャペック旅行記コレクションの中の一冊。チャペックと奥さんと義兄(妻の兄)の三人でデンマーク、スウェーデン、ノルウェーを旅した記録。観れば観るほど味わい深いチャペックのスケッチ(おなじみのあの線描です)が多数収録されている。
出かけたのは1936年の夏だから自然でも人の生活でも、今はもうこういう感じでは残ってないんだろうなぁと思いながら読んだ。さらに、旅行記というのは他人の目を通して見た世界なので、二重の意味でこの本に書かれた北欧は、決して行くことのできない国、なのだ。
北欧といえば、白夜とフィヨルドだけれど、やっぱりこのふたつの描写が素晴らしい。というより、凄まじい。チャペックは、絵でも言葉でもこんなものを表現するのは無理ですよ!と宣言したその直後に、渾身の表現にとりかかる。無理でも何でも、結局伝えずにはいられない景色なのだ。 フィヨルドとそのまわりの自然は、スケールが大きく清浄すぎて読んでいるだけでゾッとするし、白夜(始めなき朝と終わりなき夕べ)について読めば、憧れと恐れで胸がいっぱいなる。
チャペックはノルウェーの船旅で乗ったホーコン・アダルステイン号という汽船がとても気に入ってしまったようだ。大きくも、特別きれいでもないけれど、この船に寝泊まりしながら旅した日々の素晴らしさを愛着をこめて書いている。読み手としては、こういう船は、もうとっくになくなってしまったんだろうなと思いながら読んでいたのだが、本書の最後はこの船のその後を告げて終わっている。
帰宅後、船長から届いた手紙によれば、ホーコン・アダルステイン号はキャビンを取り外されサロンもなくなって、貨物船に格下げになったとのこと。それを見るのはつらいことだったと書いてあったそうだ。著者のチャペックはこの旅の二年後に48歳で亡くなっている(早世。知らなかった)から、本当に最期の旅客だったのだろう。 結果、「失われた旅」の記録と知りつつ、やっぱり、一度はみてみたいフィヨルドと白夜、と思わずにいられなかった。
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