世田谷日記 〜 「ハトマメ。」改称☆不定期更新
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昨年9月以降に読んだ本。
「月とメロン」丸谷才一(文春文庫)
買ったきり、二年近く放ってあった本。読み終わったあとで、丸谷氏が2012年に亡くなっていたことを知った。 知識人であり、名手といわれた書き手だったけれど、個人的には「ど真ん中」ではないんだなぁというもどかしさがぬぐえない。 ただ、評論や随筆だけではなくて小説を読んでみなくてはわからないな、とは思う。うん、今年は何か読んでみよう。
このあと三浦雅士の本を読んでいたら、丸谷才一の名前がたびたび出てきて、??と思って調べたら共著があることがわかった。 あと、丸谷・三浦両氏とも、吉田健一の仕事に言及していて、丸谷氏は英文学者だったから(ジョイスの訳が有名)それでかなと思ったけれど、いったん英文学者ということに注目してみると、文章の調子や何かについて納得のいく部分は多いのだった。
「トゥルー・ストーリーズ」P・オースター(新潮文庫)
柴田元幸訳による日本独自編集によるオースター本です。 「その日暮らし」という、作家として芽が出るまでの貧乏暮らしを綴ったエッセイが納められていて非常に身につまされました。中にはオースターが生活のためにカードゲーム(野球のゲーム)を考案して、自分で試作品を作って売り込みに行くという、信じられないような話もあって、面白かった。 ちなみに「その日暮らし」の英語による原題は "Hand to Mouth"だそうです。ほんっとうに、身につまされるなぁ…
MONKEY vol.1(スイッチ・パブリッシング)
これは新創刊された柴田元幸責任編集による雑誌です。特集は「青春のポール・オースター」。 こういう雑誌が出たということは、バイト先でとっている新聞を読んで知った。「トゥルー・ストーリーズ」を読んでいるときは、こういうものが準備中であるとはまったく知らなかった。そういえば丸谷才一が故人となっていたことも新聞の文化欄で知ったわけで、新聞からもたらされる情報はけっこう多かった。
ただ、個人的に面白かったのは、オースターへのインタヴューと、「トゥルー・ストーリーズ」に出てきたカード式野球ゲームの写真が載っていたことくらいだったけれども。 いろいろなものが少しずつ載っている雑誌より、濃い目の一作を読む方がいい。こういうとき、年取ったのかなとも思う。
「幻影の書」P・オースター(新潮文庫)
訳者の柴田元幸をはじめ、多くの人がオースターの「大傑作」だというので期待して読んだのだけれどダメでした。
私はオースターに関していうと、好きなタイプの作品とダメなタイプの作品がはっきり分かれていて、好きなのは「孤独の発明」「ルル・オン・ザ・ブリッジ」「鍵のかかる部屋」「スモーク&ブルー・イン・ザ・フェイス」あたり。 ダメだったのは「偶然の音楽」「ミスター・ヴァーティゴ」。特に印象的だったのは「偶然の音楽」の序盤の文章の息詰まるまでの素晴らしさと、その後の物語の展開とそれにともなう文章の調子の変化。そこにある不整合感。この、途中から何かが違ってしまう感じが「幻影の書」にもあって、ああ、またこれか、と思わざるを得なかった。
とにかくオースターは、柴田訳への信頼感もあわせて評価が高くて、こういうことを書くのはなかなか勇気がいるのだけれど、ストーリーテリングの妙ということでいえば、とてもアーヴィングにはかなわない。長さと大きさ、うねり、そのどれをとってもかなわないと思う。 その代わり「孤独の発明」みたいな世界、狭くて深い穴を真面目に(ケレンは要らない)掘れば、それだけでアーヴィングには書けない世界を出現させられるのに、と思うのだ。
この「幻影の書」を読みながら、私は頭の中で凄く大胆に作品を編集していて、そうしなければ気持ちが悪くて読めないのだった。 たとえば、前半のへクター・マンが出演した無声映画の説明は大胆に刈り込み、後半のへクター・マンの妻との対面シーン(というよりも対決シーン)とその背後にある心理は徹底的に書き込んでほしい!といった調子。へクターの遍歴時代にしても、スポーツ用品店の部分なんてもっと削ってもいいんじゃないか、と。
要するに、作品のパートごとの内容とそれに費やされた言葉のボリュームがアンバランスなんじゃないか?!と思うのですよ。こういうこと思うのは私だけなのだろうか…
「美しい子ども」松家仁之 編(新潮クレスト・ブックス)
とても美しい装丁とお高めの価格で知られるクレストブックスの創刊15周年企画で編まれたアンソロジー。 横浜みなとみらいの仕事場のそばの書店でみつけて立ち読みしようとしたらノーベル文学賞を受けたばかりのアリス・マンローの作品が納められていることがわかり、それ以外にも面白そうな短編が目白押しで、悪魔は「買うしかないよ!」と囁き、天使は「早まらないで。簡単にお金使っちゃだめよ!」と必死に止めた。で、天使が負けたのですね。 でも、買って正解でした。どれも読みごたえのある作品ばかりで、とても楽しめたから。
全12編のうち、特に好きだったのはナム・リー「エリーゼに会う」。読んでいるあいだじゅう、ブコウスキーのことを思い出していた。ブコウスキーの描いた世界のことではなく、ドキュメンタリー映画でみたブコウスキーその人のことを。映画ならばともかく、文章でこういう世界を描くと言うのはあまりないのではないでしょうか。とにかく、私はとてもとても好きでした。
あとは、アリス・マンロー。圧巻でした。静かな生活感のなかに、恐ろしいくらい「人間」が描かれている。 アリス・マンローは短編の名手として知られた作家だそうだけれど、短編作家がノーベル賞を受けるのは例外中の例外だそうだ。欧米では短編小説は習作扱いで作家は長編を書いてこそ作家という扱いであるらしい。 なるほど、例外的に称えられるだけのことはある。うーーーん、と唸らされました。
アリス・マンロー、もっと読みたいけれど、クレストブックスはとても美しい装丁と、少しお高いことで有名。するとまた、悪魔と天使が出てきて…。ああ"Hand to Mouth"は、つらいなぁ…
※(2)に続きます。
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