萬葉集覚書

2006年12月12日(火) 5 霞立つ 長き春日の

霞立つ 長き春日の 暮れにける わずきも知らず
むらきもの 心を痛み 鵺子鳥(ぬえことり) うら泣け居れば
玉たすき 懸けのよろしく 遠つ神 我が大王(おほきみ)の
行幸(いでまし)の 山越す風の 独り居る 吾が衣手に
朝宵に 還らひぬれば 大夫(ますらを)と 思へる我も
草枕 旅にしあれば 思ひ遣る たづきを知らに
綱の浦の 海人処女らが 焼く塩の 思ひぞ焼くる 吾が下情(したごころ)



霞が立ちこめて、いつの間にやら長い春の日が暮れていくから、この心の疼きがどこから来るものやら判らないまま、まるで鵺という鳥が鳴く声のように忍び泣いていると、遠き昔は神でいらせられた天皇陛下が行幸されている遥かな山から吹いてくる風に、美しい襷をかけたような神々しさを感じて、その風がまた、朝な夕な早く帰って来いとばかりに、独りでいる私の着物の袖に吹き込んでくるものだから、男だと自負していた私だけれど、旅の空に日々を重ねる境遇だからか、抑えがたいこの気持ちを晴らすすべも持たずに、網の浦の海女たちが焼く藻塩のように、ただ焼け焦がれている、我が恋心よ。



軍王(いくさのおおきみ)という人の歌と伝えられている長歌です。
軍王の人となりについては、今日に何一つ伝わっていませんが、どういう用があったものか、四国の讃岐へ赴いた折に詠んだとされています。
もっと言うと、この歌が詠まれたとされる時期に天皇が四国へ行幸された記録はないらしく、まさしく歌も歌人も伝未詳の、如何とも評しようのない歌です。

とりあえず現代語訳してみましたが、今回は逐語訳にしています。
これを現代的な感覚に意訳してみせる技量は私にはありません。
逐語訳してみた感想としては、あまりに冗長な語句の垂れ流しにしか見えません。

で、結局何が言いたいかといえば、所用でこんな遠くへ来ているけれど、都から吹く風を感じて、置いてきたあの娘を思うと居ても立ってもいられない、というところでしょうか。



それだけのことなんだったら、もうちょっと言葉を厳選して歌を詠めば?
それが私の感想です(笑)


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