青く見えて実は透明 - 2006年06月19日(月) 彼は歌唄いで。 ライブに行ってみた。 180cmある彼の背が天井の梁に届きそうなくらいの小さな箱。 アコースティック一本。 彼が周囲の空気を吸って声を震わせた瞬間、その場の色が変わった気がした。きゅうっと空気が一瞬で濃くなって、次に大きく伸びやかに発散された。 今までも彼の歌声は、何度も聞いたことがあったけれど、その夜の声は全然違った。 広がる空間のバイブレーションが直接心に響いて、涙がでそうになった。 私の向かい側に座っていたキャスケットをかぶった男の客が、「vocalじゃなくてvoiceだね」と隣の派手なTシャツの男にぼそりともらした。 わかったようなわからないような、でもわかる気がした。 もっと広い広い屋根のないところで、空に向かって歌っているのを聞きたいと思った。 スポットライトを浴びて、全身を使って表現している男が私とつい先週カラダを重ねた男と同一人物だと思えなくて、とても遠い存在な気がして、でもそれは心細くはなくて、むしろ誇らしくて、その時に感じた違和感や、握りつぶした憤りなど、瑣末なことな気がして、それこそ彼のことをわかったようなわからないような、でもわかる気がした。少なくともそのままそこでずっと歌っていてくれればいいのにと、その熱気を夏仕様のひまわり柄のタンクトップから剥き出した肩先から、革製のビーチサンダルのピンクに塗った爪の先まで目を閉じて揺れて、感じた。 ステージの上の男に恋をしていた。 バカだな。バカだね。 ライブハウスを出て、大雨の中傘も持たずに、全身びしょ濡れになりながら走りだした。 「気をつけて」という背後から聞こえる彼の声が雨音にかき消されるのでさえ気持ち良かった。 いろんなことがどうでもいいよと、どんどん流されていった。 たとえそれがその時だけの感情であったとしても、それは揺るぎない真実。
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