歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2008年12月15日(月) 性質の悪い歯周病

国民の8割以上が罹っている言われる歯周病。かつて歯槽膿漏と言われていた歯周病ですが、これほど多くの人が罹っているということは、非常に深刻な健康問題であることは間違いありません。それにも関わらず一向に減少傾向が見られないのは多くの人に自覚症状が無く、ある程度病気が進行しないと事の重大さに気がつかないせいかもしれません。歯周病はsilent disease、静かに進行する病と言われる所以です。

歯周病は原因がほぼ特定されています。それは、口の中のばい菌の塊である歯垢、プラークです。歯垢には1ミリグラムあたり1億個のばい菌がいるのです。たった1ミリグラムに日本の総人口にあたるばい菌がいるわけです。想像を絶する量のばい菌が口の中にいることがおわかりいただけると思います。このばい菌の中の何種類かのばい菌が歯周病を起こすだろうということがわかってきました。ただ、完全に歯周病菌を特定するには至っていません。言えることは、これら歯周病菌を含んだばい菌の集団、歯垢が存在することで歯周病が進行することは明らかです。歯磨きをするということは、これら無数のばい菌の数を定期的に減少させることにつながります。歯周病はばい菌の数が減れば減るほどかかりにくくなるのです。

それでは、実際に歯を磨いているにも関わらずどうして国民の8割以上が歯周病なのか?やはり磨いているという実感と実際に歯垢が取り除かれている客観的な事実との間に相当差があるからでしょう。僕も何人もの患者さんを診てきましたが、実際に歯を適切に磨き歯垢を取り除くことができている患者さんは非常に少ないのが現状です。単に自己流の歯磨きではなく、定期的に専門家による歯磨指導とチェックが必要だろうなあと強く思う今日この頃です。

ところで、歯周病の中には思わず“えっ!”と言いたくなるような歯周病があります。通常、歯周病は非常にゆっくりと進みます。また、限局的なものもあるものです。そのため、歯周病の患者さんの多くは30歳代以降の方が多いものです。(歯周病の一種である歯肉炎と呼ばれるものは、もっと早い年齢から多く見られます。既に小学生から見られる場合が多いですね。)
ところが、年齢が若いにも関わらず全ての歯で歯周病が非常に進行しているケースがあります。以前は若年性歯周炎、現在では侵襲性歯周炎と呼ばれるタイプの歯周病です。放置していれば高齢にならないうちに全ての歯が脱落してしまうだろうと思われる歯周病。これは特定の歯周病菌によることが言われています。そして、遺伝性といいますか家族性の歯周病でもあります。すなわち、親が侵襲性歯周炎であれば子供も侵襲性歯周炎である可能性が非常に高いのです。

この非常に性質の悪い侵襲性歯周炎に関してですが、治療法はやはり適切な歯磨きの実践であることは言うまでもありませんが、それ以外に通常の歯周病の治療よりもより綿密に定期的な歯医者による徹底的な管理が必要だといえるでしょう。患者さんだけで歯磨きをしていても病気の急速な進行を抑えることができないケースが多いのが侵襲性歯周炎の特徴です。

侵襲性歯周炎に罹っている人は非常にアンラッキーだと思います。かつては若い頃に全ての歯を抜歯し、総入れ歯になっていたケースも多かったはずです。現在では、少しでも歯を長持ちさせようといくつかの治療法が行われていますが、専門家である歯医者や歯科衛生士とともに一生付き合っていかないといけない歯周病であることは間違いありません。


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