歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2008年10月06日(月) 治療費不払い患者宅押しかけ抜歯事件について

先週末、インターネットでニュースを見ていると、下のような記事が掲載されていました。

朝日新聞10月4日より
ドイツで治療費を支払おうとしない患者(35)の家に押しかけ、治療した歯を抜いたとして歯科医(53)が強盗傷害の疑いで警察の調べを受け、話題になっている。歯科医はアリバイを主張しているが、警察は複数の目撃者がいるとして近く逮捕する方針だ。
 独南部ノイウルムの警察によると、歯科医は先月22日、女性患者の家を訪問。応対に出た患者のほおを押さえて口を開かせた上で、奥歯を抜いて立ち去った。歯科医は終始無言で、女性は「怖かった」と漏らしているという。
 患者は数週間前に義歯を入れた際に、保険で賄われない自己負担分約400ユーロ(約6万円)を支払っていなかった。警察は「こんな事件は初めて。ちゃんと督促して、それでも支払わなければ裁判とか方法は他にもあるのに」(広報担当)と、あきれている。



治療費を支払わずに来院しない患者は確かに存在します。うちの歯科医院にも数は少ないながら治療費を支払わないまま来院しなくなった患者さんがいます。

“今持ち合わせがないので次回来院した時に支払う”と言ったまま来院しなくなった患者さん、ある被せ歯を仮にセットした状態で被せ歯代を支払わずに音信不通になった患者さん、日本語がわかっているはずなのに言葉がわからないと言い張って治療費を支払わなかった外国の患者さん等々。
おそらくどの歯科医院、診療所、病院でも治療費を支払わないまま来院しなくなった患者さんはいることでしょう。支払わずに来院しなくなった患者さんに治療費の催促をする電話をしたり、医療機関によって取り立てにいくような医療機関もあるようですが、個人開業の歯科医院においてはなかなかそこまではできず、結局のところ泣き寝入りしてしまうケースが多いものです。

それ故、上記のドイツの歯医者の場合、かなり強引な手段に出たものだなあと思うのです。この歯医者の行ったことは犯罪です。いくら患者さんが治療費を支払わなかったとはいっても患者宅へ押しかけて問答無用で奥歯を抜歯してしまうということは許されることではありません。
ただ、心情的にはわからないわけではありません。医療関係者は赤ひげではありません。特に、日本のように国民皆保険制度がある場合、医療関係者はルールに則って治療を行い、治療行為に対する報酬を受け取ることができるのです。患者さんはかかる医療費の一部を医療機関の窓口で支払う義務があるのです。何らかの医療保険組合に所属していない患者さんの場合は、医療費の全額を支払わなければいけないのは当たり前のことです。

この大前提を無視して、医療費を支払わないまま来院しなくなるのは、どんな事情があるにせよ患者さん側に責任があるのは明白です。治療費を支払わずに来院しなくなった場合、医療関係者はどうしても感情的にならざるをえないものです。患者さんのために一生懸命治療を行ったことを仇で返されるようなものですから。そういった意味で僕は心情的にドイツの歯医者の気持ちはわからないではないところがあります。

とは言ってもいきなり不払い患者さん宅へ行って問答無用で抜歯をするというのは如何なものかとは思います。余程腹に据えかねていたとは思いますが、警察のコメントのようにもっと冷静に、ルールに則って不払い患者へ対処すべきだったでしょうね。

また、一人のドイツの歯医者が起こした事件とはいえ、これが歯医者全体のイメージを損なうことを僕は心配します。どんな業界でも大多数の方は真面目に働き、社会に貢献しているにも関わらずたった一人の不始末が業界全体の心証を悪くするものです。とかく良い評判は伝わるのに時間がかかりますが、悪い評判が伝わるのは早いもの。

歯医者は治療費を支払わないと家に押しかけ、抜歯をする。

ほとんどの歯医者は、今回の特殊な事件のように強引で犯罪のようなことを起こすことはないはずですが、ドイツの事件とはいえ歯医者に対する心証が損なわれることがないよう、摂に願います。


 < 前日  表紙  翌日 >







そうさん メールはこちらから 掲示板

My追加