2008年10月03日(金) |
蓄膿の原因はむし歯だった? |
「上の奥歯が噛んだら痛くて頬も痛くてたまりません。」
先日、うちの歯科医院に駆け込んできた患者さんが発した言葉です。口の中を見てみると、右上の第一大臼歯と呼ばれる歯に大きなむし歯がありました。本人に尋ねてみると、この歯には元々金属の詰め物があったとのこと。半年前、詰め物がはずれ大きな穴が開いてしまった。自分では気になっていたが痛くなかったのでそのまま放置していたというのです。ところが、1週間前から急に痛みが出てきたそうで、当初は市販の痛み止めを飲んで痛みを抑えていたそうですが、そのうちに頬の方まで痛くなり、我慢できなくなったようです。レントゲン写真を撮った僕は、この患者さんに言いました。
「紹介状を書くから、直ぐに○○病院の歯科口腔外科を受診して下さい。」
通常のむし歯であれば、僕は直ちに処置を行うのですが、この患者さんの場合、僕はあることを疑ったのです。それは上顎洞炎。上顎洞炎というのは一種の蓄膿のことです。 解剖学の話になりますが、人間には鼻の側に4つの骨に囲まれた空洞があります。これは鼻から吸い込んだ息を一時的に溜め込む空洞なのですが、この空洞を副鼻腔といいます。通常、蓄膿というと風邪や鼻炎などから副鼻腔に感染し、炎症が起きた状態を指します。蓄膿の中でも特に多いのが4つの副鼻腔の1つ、上顎洞に生じる上顎洞炎です。その理由は鼻と最も近いのが上顎洞であるからです。
さて、上の奥歯にむし歯があってどうして上顎洞炎になるかということになりますが、これは奥歯の位置に関係があります。奥歯、特に上の第一大臼歯は根っこが上顎洞と接しているのです。そのため、むし歯や歯周病の症状が進み、根っこにまで及ぶと上顎洞に炎症が波及、上顎洞炎、蓄膿になってしまうのです。 このように歯が原因による蓄膿、上顎洞炎を歯性上顎洞炎といいます。一度歯性上顎洞炎になると、かなり厄介です。抗生物質を点滴で大量に投与しながら、場合によっては上顎洞の粘膜を掻爬してしまわないといけないケースもあるのです。こうなると入院して手術を受けないといけないのです。たかがむし歯だと軽く考え、放置していると大変なことになってしまうわけです。
今回の患者さんの場合、僕はこの歯性上顎洞炎だと診断しました。こうなるとうちのような町歯医者では対応が難しく、施設が整い、いざとなれば手術も可能な病院の歯科口腔外科へ紹介し、処置を受けてもらうことしか方法がありませんでした。
後日、この患者さんはうちの歯科医院にやってきました。
「入院せずに、外来で何とか処置を受けて症状がましになりました。ただ、治療前に撮影したレントゲンCTの画像を見て、びっくりしました。問題の歯がある上顎洞が真っ白になっていましたから。頬の痛みの原因がこれだと言われた時にはショックでした。ここまでひどくなっているとは思いませんでしたから。」
現在、この患者は上の第一大臼歯の根っこの治療を受けていますが、今は神妙に治療を受けています。むし歯を放置すると歯だけではなく、体の他の組織、臓器へ影響が出ることを身を持って体験したからです。できることなら、咽喉もと過ぎれば熱さ忘れるということがないようにして欲しいものです。
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