歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年10月02日(火) メールでクレームをつけられた

先週末、弟がうちの家にやってきました。弟はうちの近所にある某救急病院で循環器内科医として働いています。ここ数年、わずかな睡眠時間で昼夜無く働いてきたのですが、4月に何人かの医者が医局に入局したおかげで持ち患者が減少し、当直回数も減ってきたことから一時の忙しさから解放されつつあるとのこと。そばから見ていても過労であることは明らかだったので、弟の仕事が減少し負担が減っている現状は、好ましい状況ではないかと感じました。
ただ、好事魔多しというわけでもないのでしょうが、最近、少し精神的に落ち込むようなことがあったというのです。それは弟に対する患者からのクレームだとのこと。

ある日の外来のこと。弟はある子供を診察したのだとか。その子供は数日前から体調をくずしていたそうで、何か問題があるのではないかということで母親が弟の勤務先の病院へ連れてきたのです。
本来、子供の診察は小児科医が担当するべきものですが、弟の勤務先の病院は小児科がありません。それにも関わらず、この母親はどうしても弟の勤務先の病院で診て欲しいということで子供を連れてきたそうです。とりあえずは内科で診察しようということになり、たまたま弟が外来の診察を担当したのです。
弟が診たところ、問題の子供は若干熱もあったそうですが、風邪の症状が治りかけている状態であり、特に薬を処方することなく経過を診ていけば自然に治るような状態だったとのこと。弟は保護者である母親にそのことを伝え、帰ってもらったそうです。母親は特に変わった様子もなく、そのまま帰宅していったそうです。

ところが、問題はその後に起こりました。この母親、病院宛にメールを送ってきたそうです。そのメールとは担当医であった弟へのクレームだったとのこと。外来診察で弟の診療態度が不服であることをメールにしたためていたというのです。
弟の勤務先の病院はメールアドレスを公開していて、患者さんからの問い合わせは病院の総務課が一気に引き受けていたそうですが、患者さんからのクレームということで弟は病院の総務課から聞き取り調査を受けたというのです。弟だけではなく、弟の診療に付いていた看護師、受付などにも聞き取り調査が行われたそうです。
弟としては特に話し方に対しては失礼の無いように丁寧に話をしていたつもりであり、母親もその場で何も文句を言わなかったとのこと。側で付いていた看護師も弟の診療には何の落ち度も無かったと証言しているそうで、病院としては、今後患者からの連絡があれば、自分たちに落ち度がなかったことをきちんと説明して理解を求めるように対処するということだったようです。

弟としては、誰に対しても公平に診療することをモットーにしていただけに、自分に対する患者のクレームに驚き、ショックを隠しきれなかったようです。

「患者からのクレームは気持ちの良いものではないなあ」
と言う弟の言葉にはいつもの元気さ、明るさがありませんでした。

僕は弟に同情します。弟に何らかの問題があるのであれば話は別ですが、弟の話やその後の病院の聞き取り調査、特に、側に一緒に付いていた看護師が弟の診療態度に全く問題がなかったことを言っていることを考えると、弟に落ち度があったとは言えないと思うのです。身内の肩を持つわけではありませんが、弟の性格を考えると患者さんをないがしろにするような言動をするとは思えません。どんな患者でも誠実に対応しているはず。
実際に僕は弟からの紹介患者を何人も歯科治療していますが、誰もが弟に対し信頼していることがわかります。循環器というだけに命に関わる病気で苦しんでいる人を助けてきているせいでしょうか、皆、異口同音に弟に命を救ってもらったと話しています。それだけでも弟に対する信頼感がわかるというものです。僕には、弟に問題があったとは到底思えないのです。

弟が言うには、メールに書いてある内容は事実と異なる内容ばかりが書いてあったとのこと。病院の総務課の担当者が言うには、問題の患者は自分がして欲しかったことを担当医にしてもらえず、そのことが不満でメールを送ってきたそうで、一種のクレーマーではないかとのこと。どうも弟には薬を出してもらいたかったようなのですが、医学的に薬を処方する必要がないことを診断し、そのことを患者にきちんと伝えているにも関わらず患者が納得せず、その不満をメールに託しているようだというのです。弟が言うには、現場では母親はわかりましたと口で言っていたそうですが、メールにはそのことは一言も触れず、いかにも担当医である弟が不躾な態度で切り捨てたような表現で接していたとメールで書いていたそうです。

昨今、患者に対する医師の態度が問題視されることがしばしばあるのですが、実際のところは、患者側にも大きな落ち度がある場合が多いように思います。
先日も奈良県で起こった妊娠六ヶ月の妊婦が突然体調を崩し、救急車で搬送しようとしたものの受け入れ病院が無く、結局のところ、大阪府内の病院へ搬送されている途中、死産したというニュースが流れていました。この時、受け入れ救急体制の不備や救急担当の医師、病院の対応が不適切であったとバッシングのようなものがありましたが、患者の妊婦が妊娠六ヶ月でありながらかかりつけ医を全く持たなかったことはあまり知られていません。どんな妊婦でも妊娠六ヶ月であれば自分が妊娠していることは気がつくものです。当然のことながら、産婦人科の専門医の診療所、病院を受診するのが当たり前なのに、問題の患者はそれを行っていなかったのです。このような場合、責められるのは病院や救急医療体制というよりも、まずは患者ではないかと思うのですが、如何なものでしょうか?

医師に問題がないとは言い切れませんが、患者さん側にも問題を抱えているような場合があるのも事実。医療は、医師側も患者側もお互いに節度を持った態度で接する必要があるのではないかと考えます。


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