歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年09月21日(金) 勝手に治療を中断しないで下さい

「また患者が来なくなったよ」

このような嘆きを漏らしたのは僕の友人の歯医者Y先生。Y先生は某大都市の市内で歯科医院を開業しています。一般の歯科治療を行いますが、某大都市という土地柄、審美歯科にも力を入れています。そんなY先生と会う機会があったのですが、最近、治療の途中で患者が来院しなくなるケースが多いというのです。

「プロヴィジョナルレストレーションをしている最中に来院が途絶えるんだよね。あと一歩できれいな補綴物が入るという間際になって来院しなくなるんだよ。困ったものだ。」

ここで解説しておきましょう。プロヴィジョナルレストレーション(provisional restoration)とは、直訳すれば暫定的な修復となりますが、一種の仮歯を用いた治療のことです。
通常、仮歯というのは最終的な差し歯、被せ歯が入るまでに歯の土台に被せておく、取り外しができる歯のことを指します。通常は、歯を削ってからその場で作ることが多いのですが、時間が制約されていることからかなりアバウトな形の仮歯であることは否定できません。
プロヴィジョナルレストレーションというのは、きちんと歯型を取り、模型を作り時間をかけてつくった仮歯のことを指します。特に、審美歯科の場合、歯だけでなくかみ合わせや歯並び、歯肉との調和が求められますから、いきなり最終的な差し歯、被せ歯をセットするとセットした歯だけが歯列や口全体に調和せず、浮き上がっているように見える場合が多いもの。このようなことを避けるためには、仮歯をある一定期間装着することにより、歯や歯肉、噛み合わせなどの具合、調和を整え、場合によっては微調整する必要があります。このように仮歯を用い、最終的な差し歯、被せ歯をセットするまでの微調整治療のことをプロヴィジョナルレストレーションというのです。

このプロヴィジョナルレストレーションで用いる仮歯は、一見すると最終的にセットする被せ歯のように精巧にできています。仮歯とはいえ、きちんと歯型を取り、模型を作って製作するわけですから。

「先生、この仮歯で充分ですよ!」
と言われる患者さんが多いのですが、実際のところは、あくまでも最終的な被せ歯、差し歯をセットするまでの微調整用仮歯です。患者さんにはそのことを何度も十二分に説明するのですが、患者さんの中には非常に精巧にできている仮歯で満足し、あるいは、その後できる被せ歯、差し歯の治療費のことを考え、途中で来院しなくなる人もいるのです。

このように途中で来院しなくなった場合どうなるでしょう?遅かれ早かれ仮歯ですから脱落するのは目に見えています。仮歯が脱落した場合、直ちに仮着すれば問題ないのですが、そのまま放置しているとせっかく治療した土台がむし歯になったり、せっかく落ち着いてきていた歯周病がひどくなったりします。
また、最終的な差し歯、被せ歯よりも材質的に強度が劣っています。あくまでも仮歯ですし、治療中に微調整するためには材質的にも微調整しやすい材質、すなわち、材質がどちらかというと弱いものが使われるのです。
以上のようなことを考えれば、プロヴィジョナルレストレーションの治療途中で治療を中断してしまうと、以前治療を始めた頃よりも更にひどくなり、場合によっては抜歯しなくてはいけないくらい悪化してしまう可能性が高いのは明白です。プロヴィジョナルレストレーションを途中で勝手に中断してしまうことは、非常にリスクの高いことなのですが、残念ながら患者さんの中では目先のきれいさについ満足してしまい、このままでいいのではないかと勝手に判断し、治療費を支払いたくない気持ちも含め治療を放棄してしまうのです。

審美に力を入れているY先生は言います。

「自分の力不足かもしれないけども、せっかく治療のゴールが見えている段階で治療を勝手に中断されると、治療が振り出しにもどるか、更に後退してしまう結果となる。結果的に患者さんが払う代償は高くなるんだけどなあ。」

僕も全く同感です。これは何も審美治療だけに限りません。やむをえない理由で治療を中断せざるをえない場合があるかもしれませんが、全ての治療において治療を中断するリスクを誰もが感じて欲しいものです。


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