歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年09月01日(土) 歯医者の息子って世間知らずなのか?

人の不幸は蜜の味といいますが、週刊誌に取り上げられる話題というのは、多くの人が持っている人の不幸に対する興味をそそるような話題が多いことは誰もが認めることでしょう。

今週始め、某週刊誌の新聞広告を見ていると、このような見出しが見えました。

“また歯医者の息子 山口・祖父殺し少年は「自衛官」だった”

これまでこのような話題に目くじら立てて反論するのも大人気ないかなと思っていたのですが、“また”という表現に思わず反応したくなりました。

おそらく、昨年の渋谷の歯科医師一家の件や千葉県のイギリス人女性英会話講師殺害の被疑者が歯医者の息子であった影響があることでしょう、今回の山口県の容疑者もお母さんが歯医者の息子であったということから、“また”という表現がなされたのかもしれません。

この手のニュース、歯医者という世界が、マスコミの人にとっては非常に色眼鏡で見られているのだなあということをいつも感じます。歯医者の世界というと今もって経済的に裕で社会的にステータスのある職種の人のように見えるのですが、実際のところ、歯医者の世界というのは非常に厳しい世界です。何せ全国にある歯科医院の数は、今やコンビニの数の1.5倍以上。過剰な数です。かつて歯科医院の数が少ないということで全国に歯学部、歯科大学を無計画に乱立されたツケがここに来ています。
そのような中、歯医者として生き残っていくために歯医者は試行錯誤しながら、青息吐息で仕事をしているのが実情。決して夢の世界に生きているわけではないのです。ところが、世の中にはまだ歯医者がセレブな人たちという幻想が生きているのでしょう。

今回の事件の記事を読んでいると、容疑者が歯医者の息子であることを強調して書いてあります。如何にも“世間知らずのおぼっちゃん”とでも言いたげな書き方です。
僕自身、歯医者の二代目の息子なのですが、自分で言うのも何ですが、世間を知らない箱入り息子だったのではないかと思います。僕が幼少の頃、親父は歯科医院を開業したのですが、当時の歯科医院は患者の数に対し、歯科医院の数が圧倒的に少ない時代でした。どこの歯科医院でも患者があふれていたものです。どうしたら一日に診療できる患者数をしぼりこめるものか?多くの患者さんを待たせずに診療できるものか?当時の歯医者はそれぞれ試行錯誤していたものです。親父が開業当時、近所の歯医者に開業の挨拶に行ったのですが、その時に言われた言葉とは

「近くに歯医者ができて、これで私も少しは楽になるよ。」
とほっと安堵の声を出されていたのだとか。それくらい、当時の歯医者は洪水のように押し寄せる患者さんの対応に頭を痛めていたものです。
ということは、歯医者は非常に忙しいものの患者さんの数に事欠かなかったということです。患者さんの数が事欠かなかったということは、仕事は忙しいものの充分に足りる収入は確保できていたということです。僕自身、親父の忙しい仕事ぶりを肌で感じながらも何不自由ない幼少時代を過ごしてきたように思います。我が家は決して派手に浪費するような家庭ではなかったと思いますが、少なくとも家が一家離散し、路頭に迷ってしまい、明日の食事にも困ってしまうような状況で育ってきたわけではありません。僕は経済的に恵まれていた中で育ってきたことはまぎれもない事実です。

経済的に何不自由なく育ってきたことイコール箱入り息子だとは限りませんが、僕自身が世の中は自分の周囲だけではない、広い世界があると身をもって知ったのは、やはり歯医者として多くの患者さんと接するようになってきてからです。いろんな考え、いろんな経済状態、いろんな家庭環境の人が世の中にいることを身を持って知ったのはプロとして歯医者の仕事に携わってきてからです。自分の持っていた価値感、判断基準が人によって異なるということは今もって学ぶところが多いものです。

それでは、他の人はどうなのだろうか?と考えた時、僕は歯医者でない他の環境で育ってきた人もそれほど変わらない、世間知らずなところがあるのではないかと思うのです。それぞれ人々が育ってきた環境は多種多様でしょうが、多種多様でありながらも自分が育ってきた世界以外の世界があると実感する機会というのは限られているのではないかと思うのです。核家族が多く、近所付き合いも限られている人が多い時代です。しかも、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学という園児、生徒、学生時代の場合、学業が本業でであること、先生以外異なった年齢の人たちと肌を交えて接する機会は限られていることなどを考えると、社会人になっていない世代の人たちは、皆なんらかの形で世間知らずではないかと思うのです。
ただ、社会人が皆世間を知っているか?と問われると、明確な回答ができませんが・・・。


まあ、週刊誌というもの、売ってナンボの世界ですからね。無責任なタイトルをつけても売れれば良いという世界です。まともに反応してしまうのもあほらしいとは思いながらも、今日は思わず反応してしまい、反省している歯医者そうさんでした。


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