| 2007年08月04日(土) |
犬にかじられた入れ歯 |
急患で来院したのはYさん。Yさんは長年うちの歯科医院に通ってこられている患者さんなのですが、若くして歯周病のために全ての歯を失い、総入れ歯を装着しています。時々、総入れ歯が合わなくなったということで調整のために来院されるのですが、Yさんの総入れ歯は総じて順調で、僕からみてYさんの口の中に非常になじんでいるように思えました。既に総入れ歯を作って10年以上経過しているのですが、入れ歯が割れることもなく、使われていたのです。
先日、そんなYさんが急患として来院されたのです。
「先生、お忙しいところ申し訳ありません。入れ歯が壊れまして修理してほしくて参りました。」
入れ歯は人工物です。人工物と呼ばれるものはどんなものでも永久にもつものはありません。何らかの理由で破損してしまうことは大いにありうることです。Yさんの入れ歯もなじんでいたとはいえ、作ってから10年以上経過していました。
“材質面で限界にきていたのかもしれないなあ。”
そんな思いをしながら、Yさんが手渡した総入れ歯を見て、僕は思わず“おやっ”と思いました。総入れ歯の壊れ方が特殊だったからです。 通常、総入れ歯が壊れる時には入れ歯にヒビが入ったり、割れたりするのが多いのですが、Yさんの入れ歯は前歯の人工歯が何本か取れたり、欠けたり、臼歯部には何かの歯型のようなかじられた痕が何箇所も残っていたのです。
「Yさん、この入れ歯の割れ方は特殊な壊れ方だと言えるのですが、一体どうなさったのですか?」
Yさん曰く 「犬にかじられたのですよ!」
「・・・・・・・・・・・・」
Yさんの話によれば、Yさんのお宅では家の中で犬を飼っているのだそうです。Yさんは入れ歯をはずす時、保管箱に入れ、高い戸棚の中に保管するそうですが、ある夜、呑み会があったYさんは泥酔して帰宅し、入れ歯をテーブルの上に置いたままソファーの上で寝てしまったのだとか。翌朝、目覚めたYさんは、入れ歯をはめようとしてテーブルにおいていたはずの入れ歯を探したところ見つからなかったとのこと。どこに落としたのだろうかと思い探していると、目の前に飼い犬が何やらかじっている姿が見えたのだとか。一体何をしているのだろうと思い、何気なく見てみると、何と飼い犬はYさんの入れ歯をかじって遊んでいたのだそうです。
僕は、とりあえずYさんの入れ歯に合った人工歯をみつけて入れ歯にくっつけると同時に、かじられた痕をレジンと呼ばれるプラスチックで補いました。入れ歯の修理を行ったのですが、それにしても、犬にかじられた入れ歯を修理した経験はあまり記憶にありません。
「これからは入れ歯はいくら酔っていても犬の手の届かぬところに保管するようにします。」
苦笑いしながらYさんは診療室を後にされました。
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