歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年03月05日(月) 歯磨きはどこで?アンケート結果について

我々の日常生活の中で、何気ない習慣が人によっては目障りになっていることがあるものです。特に、一つ屋根の下暮らしている家族同士で、互いの習慣の相違というのは時として感情的なトラブルにまで発展することがあります。
ほとんどの人が毎日行っている歯磨き。この歯磨きも時によっては家庭内トラブルの元になっていることがあるようなのです。
先週末、インターネットサーフィンをしているとこのようなアンケート結果が出ていました。歯磨きをどこでするかという結果。歯医者として人様の口の中を治療している者として、実に興味深い結果でした。

歯医者は歯磨きの大切さを常に説き、具体的な歯磨きの方法を教えています。最近では、歯医者よりも歯科衛生士にその役割が移っているのが現状です。
歯科関係者は歯磨きの方法については詳しく教えているのですが、歯磨き場所までは教えていないことが多いように思います。歯科関係者は患者さんが適切な歯磨きをしていることには関心があったのですが、歯磨き場所までは注意がいっていない人が大半だと思うのです。正直言って、僕も歯磨き場所まで教えていたことはありません。

ところが、一般の方にとっては歯磨き場所も大いに関心があるようなのです。
以前、僕は地元歯科医師会が主催する一般市民対象の歯磨き講座を受け持ったことがあるのですが、その際、こんな質問を受けたことがあります。

「私はいつも風呂に入りながら歯磨きをしているのですが、それでもいいのでしょうか?」

僕は学生時代のことを思い出しました。
仲のよかった友人宅に泊まった時のこと、友人は寝る前におもむろに歯磨きを洗面所から取り出しました。“こいつもちゃんと寝る前に歯を磨く奴だなあ。やはり歯医者の大学へ通っているだけのことはある”と思っていたのですが、その後の行動に僕は思わず“えっ”と叫んでしまったのです。それは、彼が寝室で歯を磨き始めたからです。僕は彼に問いました。

「歯磨きは洗面所でしないのか?」

彼は答えました。

「歯磨きを洗面所でしないといけない法律か何かあるのか?歯磨きというのは口の中の汚れを取るものだろう?きちんと歯磨きができるのであれば場所はどこでもいいんじゃないか?」

彼の言うことは一理ありました。確かにそのとおりです。歯磨きの目的はむし歯や歯周病の原因となるばい菌の塊である歯垢を取り除くことです。歯垢を取り除くことができるのであればどこで磨こうと問題はないのです。僕は自分が当然だと思っていたことが実はそうではないという事実に新鮮な驚きを感じたものです。
それまでの僕のイメージでは、歯磨きは洗面所で磨くものだと思い込んでいました。僕は歯医者の父親の元に育ってきましたが、生まれた時から父親は洗面所で歯を磨いていました。そんな父親の姿を見て、僕も歯磨きは洗面所で磨くものだと思っていたのです。


さて、今の僕ならば歯磨き場所についてどう答えるでしょう?
基本的には、場所にこだわる必要はないと答えます。ただし、歯磨きを行うに際して、条件をつけます。
条件の一つは、歯磨き時、鏡が使用できる状況であることです。
歯磨きを行う際、僕は患者さんに必ず鏡を見ながら歯を磨くことをお願いします。理由は単純です。自分の目で歯ブラシが歯のどこに当たっているかを確かめないときちんと歯を磨けないからです。自分の口元を見るには人間は直接見ることができません。これは仕方のないことです。目と口の距離が近すぎるからです。自ずと鏡を使わざるをえないのです。鏡は手鏡でもいいですし、据置型の鏡でもいいでしょう。ポイントは我流にならないことです。目で見ないで歯を磨いていると磨いているつもりでも、磨いていないところが出てくるものです。
女性が化粧をする際(男性の場合も否定はしませんが)、女性の方は必ず鏡を見て化粧をします。鏡を見ないで化粧をする女性はあまり聞いたことがありません。顔を化粧するには自分の目で確かめながらでないと悲惨な顔になるからです。
歯磨きも化粧と一緒ではないかと思うのです。鏡を見ながら歯磨きをしないと入念な歯磨きはできないはずなのです。

それから、歯を磨いていると必ず出てくるものがあります。それは唾液です。歯磨きは口の中を刺激するものです。口の中を刺激すると人間の体は唾液が出るようになっているのです。この唾液の処理を適切に行わないといけないと思うのです。歯磨きをしながら出てくる唾液は、口の中に溜まります。当然のことながら溜まった唾液の中には食べかすや歯垢が混じっています。汚れた唾液です。僕はこの唾液は口の外へ出すべきではないかと思います。歯医者の中にはこの唾液を飲み込んでも大丈夫だという意見の方がいますが、わざわざ汚れた唾液を飲み込む必要はないのではないかと僕は考えます。

そうなると、歯磨きの場所としては、鏡があり、汚れた唾液を常に口の外へ捨ててもいい状況が必要となると思うのです。そこで真っ先に思い出すのが洗面所でしょう。確かに洗面所は歯磨き場所として理想だと僕は考えます。けれども、居間や台所でもいいかもしれません。洗面器や何らかの桶、盆があるなら、その中に唾液を捨ててもいいと思うのです。また、風呂場でもいいかもしれません。

歯医者として歯磨き場所に必要と考える条件を書きましたが、歯磨きという行為は決して他人から見て美しい行為とは言えないものです。
最近は電車の中でお菓子を食べたり、化粧をしたりする人が多く、モラルの低下が叫ばれていますが、さすがに電車の中で歯磨きをする人はいないでしょう。もし、電車の中で歯磨きをすればどうでしょう。ほとんどの方が不快な思いをするはずです。
家庭の中でも同様だと思うのです。親しき仲にも礼儀ありといいます。自分ではいいと思っていても家族からみれば決して快く思わないのが歯磨き。一人暮らしの方であればまだいいのかもしれませんが、家族の方がいるような状況において、他の人が不快だと感じる行為は慎むべきではないかと考えます。

アンケートでは居間で歯磨きをする人が53%いるようです。こんなに多くの人が居間で歯磨きをするものかと驚きの結果でした。それぞれ自分の考え、好み、家の構造の問題、家庭の事情があることでしょう。けれども、家族は一つ屋根の下で暮らしています。皆が気持ちよく暮らすことができるようにしたいものです。歯磨きという行為が家庭の和を乱す原因となってほしくはありませんからね。
家庭円満のために、家族の同意が無い限り、歯磨きは迷惑のかからない場所で行った方がいいのではないかと感じた、歯医者そうさんでした。


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