歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2006年05月15日(月) 妊婦の歯の治療について

地元歯科医師会の仕事をしていると、歯や口の中のことに関する問い合わせの連絡があります。さまざまな種類の問い合わせがあるようなのですが、僕がたまたま地元歯科医師会の事務局へ雑用に出かけていた時にある市民の方から電話がありました。事務局に居合わせた僕は歯医者としてこの方の相談に耳を傾けました。

相談者は妊婦の方でした。既に妊娠5ヶ月を迎える身であるが、最近食事をしていると奥歯の詰め物が取れてしまったとのこと。妊娠していなければ直ぐにでも歯科医院を受診するところだが、歯の治療をすることで自分ののみならずお腹の中の子供に影響がないかどうか心配しているという質問でした。

それに対し僕の回答は、

”歯の治療に関して問題なく行うことができるので、安心して近所の歯医者、かかりつけの歯医者へ行って歯の治療を受けてほしい。”

歯の治療の際、レントゲン写真撮影をしたり、麻酔注射を打ったり、薬を飲まざるをえないことがありますが、妊婦の方の場合、自分ひとりの身ではないだけに歯の治療に不安を抱える方が多いように思います。確かに妊娠初期の時点では、お腹のお子さんは成長が著しい時期ということもあり、歯の治療の影響を受けやすい可能性があります。そのため、この時期は歯の治療の必要があってもなるべく応急処置を行うのが普通で、本格的な処置は安定期である妊娠中期以降に行います。

実際の歯の治療が体に与える影響を考えてみても、レントゲン写真撮影をしなければいけない場合、あらかじめ鉛の入った防護用エプロンを着用すればレントゲンのX線による被爆はほとんどないと考えていいでしょう。麻酔の注射に関してはあくまでも治療を行う必要がある歯の周囲に限定されることから、麻酔の注射液が全身に影響を与えることは考えにくいもの。薬に関しては、ある種の抗菌剤や鎮痛薬、抗炎症薬の服用は避けた方がよいでしょうが、それ以外の抗生物質や抗炎症薬を服用したとしても、妊婦やお腹の子供へは悪影響が出ないのです。どうしても服用しないといけない薬でも内服ではなく頓服であれば問題ないようです。

今回の相談者は妊娠5ヶ月目の妊婦さんでしたので、歯の治療に関しては全く問題がないように思えましたので、僕は近くの歯科医院やかかりつけの歯科医院で歯の治療を受けることを勧めました。その際、自分は妊娠5ヶ月目であることを担当医に伝えてほしいことはお願いしました。いくら問題を起こす可能性は少ないとはいえ、歯医者もそれなりの心積もりが必要なのです。また、変に歯医者に行くことを怖がり、我慢をしたくなりがちですが、むしろ痛みを我慢し続けることの方が精神的ストレスとしてお腹の赤ん坊に悪影響を与える可能性さえありますので治療を受けるべきだと僕は相談者に伝えました。

本音を書かせてもらえば、妊娠する可能性のある女性は、妊娠するまでに定期的にかかりつけの歯科医院を受診する習慣を持っていてほしいと思います。妊娠は肉体的にも精神的にも体に負担を抱えるものです。少しでも妊娠の時期を楽に過ごすことができるよう、少なくとも口の中のトラブルで心配の種が増えないよう、普段から歯の病気を早期発見、早期処置するだけでなく、歯の病気に罹らないために予防を行うことが大切です。そのためには、普段から歯の健康に関心を持ち、かかりつけの歯医者で定期的に歯のチェックを受けるようにすることが大切なのではないかと思います。いざ妊娠しても歯のことは心配しなくてよいという心の余裕を持てるよう、妊娠の可能性がある女性の方には心がけてほしいものです。


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