歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2006年05月01日(月) 人類皆兄弟症候群

この4月より僕は週一回某所へ講義に出かけているのですが、午前中最初の講義ということで10年ぶりに朝の通勤ラッシュの時間帯に電車を乗り継いで出かけています。普段、家と診療所の往復だけの生活が続いていただけに久しぶりの朝の通勤ラッシュの時間帯の通勤は、どこか懐かしいものがあったのですが、実際に電車に乗ってみると驚かされることがありました。それは、乗客のモラルの変化です。

いくつか例を挙げますと、僕がいきなり電車の中で見た光景は、缶ジュースや缶コーヒーを飲んでいる人が何人もいたということです。少なくとも僕が通勤していた10年前までは通勤時間帯に缶ジュースや缶コーヒーを飲んでいる人は駅の売店、キオスクなどの周囲にはいたものの、動いている電車の中で缶ジュースや缶コーヒーを飲んでいる人は見かけませんでした。ところが、10年ぶりに朝の通勤ラッシュの時間帯の電車の中には、座席で堂々と缶ジュースや缶コーヒーを飲んでいる人がいたのです。
また、女性の通勤客の中には他人の目を気にせず、化粧をしている姿を何人も見かけました。別に僕はスッピンの女性の素顔を見たいというわけはないのですが、僕の目の前に座っていた女性などはおもむろにバッグから化粧道具を取り出し、鏡を見ながら念入りに化粧をし出す始末。このような光景に慣れていない僕としては目のやり場に困りました。
その一方で駅の構内でタバコを吸う人はほとんど見かけなくなりました。駅そのものが全面禁煙になっているようで、タバコの吸殻入れなどはどこにも見当たりません。以前であれば、タバコの吸殻入れからタバコの煙がもくもくと上がっていた光景をよく見たものですが、今では駅の構内では全くタバコとは関係のない世界が広がっています。

上記のことを電車通勤をしている先輩の歯医者の先生に話したところ、その先生は興味深い自説を話してくれました。

「そうさんが通勤で利用していた10年前とは朝晩の通勤電車の中の光景は大きく変わったよね。電車の中で平気で物を食べたり飲んだり、化粧直しをする人が多くなったのは事実だよ。以前なら考えられなかったようなモラルの乱れがここ数年で顕著になったよ。私もどうしてこんなことになったのだろうと考えるよ。いくつも理由はいろいろとあると思うんだけど、最近思うに、今の人は、自分と他人の区別がつかない人が多いんじゃないかなと思うんだよ。よく今の人は挨拶ができないという話を耳にするけど、外の社会と自分の家の中と区別できなくなってきている人が増えているように思えてならない。何だか冗談みたいな話だけど、そのように考えるといろんなことの辻褄が合ってくるんだよ。挨拶ができない人というのは、目の前にいる人を家の中にいる人だと思い込んでいたらどうだろう?そうさんが言っていた、電車の中で缶ジュースや缶コーヒーを飲む人だって、電車の中を自分の家の中と思い込んでいたらどうだろう?電車の中でおもむろに化粧直しをする女性にしても、電車の中を自分の家の鏡台や洗面所と思っていたらどうだろう?

私は、外の社会と自分の家の中を区別できない人のことを人類皆兄弟症候群と呼んでいるんだよ。自分の周囲に自分とは異なる他人から構成されている社会があるという自覚に欠け、自分の周囲にいる人を他人と感じず、自分の家の中にいる兄弟姉妹だと感じ何の遠慮もない。そのように信じ込んでいる世代が多いのじゃないかなと思う。

公私をわきまえることができない、常に妙に馴れ馴れしいというべきかな。とんでもない勘違いだと思うし、礼儀知らずも甚だしい。こんなことではこの先社会そのものの崩壊につながっていくと危惧するよ。それじゃ、どうすればよいかということになるけど、その対策の一つが法律だよね。駅の構内から喫煙者やタバコそのものの姿が消えたけど、そうなった理由は健康増進法という法律で公の場での喫煙が厳しく制限されたためだよ。多くの公的な場所では全面禁煙になったり、分煙部屋があってその中でしかタバコを吸うことができないということになったのは、全て健康増進法の条文が効いているんだよ。その効果が駅からの喫煙者やタバコの消滅に繋がっているんだよね。同じように電車の中でのモラルを戻そうとすれば、法律で制限するしか仕方がないのが現状じゃないかな。電車の中での飲食禁止、化粧禁止、携帯電話禁止みたいにね。以前なら、このようなことは不文律というか、誰が言い出さなくても社会規範というべきか誰しも承知していたモラルだったんだけど、モラルが崩壊しつつある今となっては法律で明文化しないと気がつかない人が多くなっているように思えてならない。悲しい現実だけど、そこまで今の社会というのは乱れているのが現状じゃないかな。」


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